Log:55 スラムの男達
Log:55 スラムの男達
重武装した衛兵の一団が隊列を組み、スラム区内に姿を現した。
その瞬間、住民たちの目つきが鋭く変わった。
ここで生きる者たちは、争いごとには慣れている。
誰かに指示されるまでもなく、衛兵たちと一定の距離を取りながら、
素早くその場から散っていった。
リーダー格の衛兵が手配書の写真を見せながら、
スラムの住民たちから情報を得ようと試みる。
しかし、誰も足を止めない。
声をかけられれば視線を逸らし、近づけば同じだけ距離を取る。
外から来た武装集団を信用する者など、ここにはいなかった。
衛兵たちは命令書の内容を確認すると、重い足音を響かせながら
チャリティ会場へ向かって進み始めた。
彼らにとっては、ただの任務だった。
正式な命令書があり、捕縛対象者がいる。
それだけだ。
その集団から少し離れた後方を、一人の男が歩いていた。
足音は完全に消している。
黒いマスクで顔を隠し、衛兵たちとは一定の距離を保つ。
近づきすぎず、離れすぎない。
殺し屋のエイトだった。
「……捕縛、ね」
手配書に表示されたナズナの顔を見ながら、
エイトは小さく笑った。
「俺の依頼には、そんなこと書いてなかったけどな」
◇
<ドクターナズナ。武装集団が接近中。距離、およそ200メートル。
接触まで、およそ2分です>
エレファントの警告に、私は華城から視線を外した。
「人数は?」
<正確な数値は確認できませんが、小隊規模の隊列を確認。
全員が武装しています。
進行方向から推測し、目的地はこの地点である可能性が高いです>
「了解した。エレファント、警戒を継続。
外部からの不正アクセス、および有害信号を遮断してください。
私から解除命令があるまで継続です」
<了解しました。外部通信監視を強化。防御プロトコルを更新します>
華城は愉快そうな笑みを浮かべ、私の行動を傍観している。
邪魔もしない。止めもしない。
ただ、楽しそうに見ているだけだ。
これが西園寺の唯一のパートナーだと思うと、
少しだけ彼女に同情した。
カイゼンは小型の白いデバイスを取り出し、スイッチを押した。
次の瞬間、スラム各所に設置された災害用警報器から、
耳障りなノイズが一斉に鳴り響いた。
耳障りな音が響いた瞬間、周囲の住民たちの動きが変わった。
誰も理由を尋ねない。
店を閉め、子供の手を引き、路地の奥へと姿を消していく。
その一方で、スラムの影から屈強な男たちが、
次々と姿を現した。
さっきまで酒を飲んでいた者。
ジャンクパーツを売っていた者。
賭け事をしていた者。
妻にケツを蹴っ飛ばされ、無理やり外へ追い出された荒くれ者までいる。
どいつも荒事には慣れていそうな連中ばかりで、
手には使い古された武器が握られている。
男たちは次々と大通りへ向かって歩き出した。
「これは?」
「退避警報だ。ここから先は、スラムのやり方で対応する」
「本気で殺しに来るって、僕さっき教えてあげたよね?☆
民間人まで巻き込んじゃって、罪悪感はないの~?
それって酷くない?」
カイゼンは大通りへ向かう男たちを顎で示した。
「冗談だろ? 酒と女と修羅場と喧嘩は、スラムじゃ日常だ。
祭りみたいなもんだ」
「それに、俺は退避警報を鳴らしただけだ。
武器を持って出てきたのは、あいつらの勝手だ」
「喧嘩に負けて野垂れ死んでも、
あいつらは満足そうに死んでいく。それがスラムの男だ」
ソルトとシュガーも、ナズナの手によって強化改造された
パワーハンドガンをそれぞれ装備した。
「わくわくするぜ~! ナズっちによって生まれ変わった、
俺たちの新武器 《ボルカノ》と《ボルト》! 頼んだぞ~~!」
周囲が着々と戦闘準備を進め、緊迫した空気が漂う中、
まるで映画でも鑑賞しているように傍観している華城に、
私は率直に尋ねた。
「君は、戦闘に巻き込まれた場合どうする?」
「言っておくが、私は武力には自信がない。エレファントも同様だ。
君の身の安全は可能な限り守るつもりだが、命の危険が迫った場合は、
撤退することも考慮したまえよ」
「僕も武力には自信がないけど、顔は良いから何とか
なると思うよ☆ 僕の心配なんかしないで」
「……顔の良さは、防御性能には含まれない」
「ナズナちゃん、世の中では意外と含まれるんだよ☆」
私は華城の顔をじっと見つめながら、首を傾げて観察した。
「ふ~む。未知数ではあるが、
イケメンという性能が数値化される日がいずれ来るのか……」
「そんなに見つめられると照れちゃうな☆ 結婚する?」
その直後、大通りから男たちの怒号と激しい銃声が響いた。
衛兵とスラムの住人たちが衝突したのだ。
――戦闘が始まった。




