Log:52 俺の知らない三週間
Log:52 俺の知らない三週間
『平和』と書かれたポケットティッシュが、宙を舞っている。
何が平和だ。俺の心は現在、戦争状態である。
ナズナがスラムへ追放されてから、俺はずっと探していた。
すぐにでも追いかけるつもりだった。
だが、西園寺に散々邪魔をされた挙句、
スラムへ入ろうにもSEAL法が俺の前に立ちはだかった。
おかげで、思うように動けなかった。
ようやくここまで来たと思ったら――
知らない幼馴染
知らない恩人兄弟(極彩鳥みたいな男2人)
しかも三週間以上、一緒に生活していた?
「ナズナ」
「……なんだ? なぜ怖い顔をしている」
「事情聴取を始めます」
「私は犯罪者ではない」
「俺の知らない男と三週間生活してた時点で、俺の中では重要参考人です」
「私には意味が分からない」
「俺も分からん!……で、どうなんだ?」
俺はナズナの顔色を窺いながら、怪我が残っていないか全身を確認する。
目立った怪我はない。スラムという過酷な環境にいる割には、元気そうに見える。
「体調は? 治癒能力を限界以上に使ったって、間宮と長谷部から聞いた。
アイツら、ナズナに泣きながら謝りたいって言ってたぞ。お前、心配させすぎだ。
戻ったら、ちゃんと話せよ?」
「問題ない。長谷部にも間宮にも、
『わたしには些細なことだから、気にしなくていい』と伝えてくれ」
俺は、久しぶりにナズナの頬を軽くつねった。
「いたいぞ桐生。これは暴力だ」
「いいか? 反省しろ。そういうところだぞ?
能力を限界以上に使ったんだ。そのリバウンドもデカかったろ?
この俺様でさえ、一週間は動けなかったんだ」
俺が一週間動けなかったと聞いて、ナズナの赤い目が大きく丸くなる。
しばらく黙ったあと、小さくため息を吐いた。
「…………」
「ナズナ?」
「私は三週間の休養を必要とした」
「……三週間もか?」
その間、俺はこいつの側にいられなかった。
もっと早く辿り着きたかった。悔しさで握った拳に力が入る。
「……それで、今は本当に大丈夫なんだな? 痛い所はあるのか?」
「現在は問題ない。痛みもない。彼らによる手厚い看護のおかげで、
すこぶる健康体だ。これならば一週間は寝なくても稼働できるだろう」
ナズナがシュガーとソルト、そしてカイゼンに向けて、
少し気を許したように微笑んでいる。
……なんだ、その可愛い顔は。
気に入らないな。あいつらに見せる必要はないだろ。
「……そうか、いろいろありがとな?
確か……名前はペッパーと唐辛子と、ウンゼンだったよな」
「桐生、君は今、非常に大人気ないぞ」
華城がケタケタと楽しそうに笑いながら、
再会の雰囲気をぶち壊すように口を開いた。
「まぁ、でもみんな合流できて良かったね☆
きっと、この状況を歯ぎしりしながら見ている、
こわ~~いお姫様がいるのを忘れてなぁい?」
「……西園寺。彼女は、わたしの存在がよっぽど邪魔らしい。
スラムに来てからも、様々な手段でわたしを消そうと必死だ」
ナズナの赤い目に、珍しく不快の色が浮かんでいた。
「そうだね。彼女、とっても分かりやすいから。
欲しいものが手に入らないと、いつも癇癪を起こすんだ。
だから今回は、もっとひどいことになるんじゃないかなって
期待してるよ☆」
ナズナ以外全員の鋭い視線が華城に刺さった。
「おっと、ここで僕を恨んでも意味はないよ?
僕は君たちに警戒しなさいって、優しく教えてあげてるんだからさ☆」
「お前が一番信用できない」
カイゼンの低い声の一言に、俺は初めて心の底から同意した。
「……気が合うな、ウンゼン」
「カイゼンだ。殺すぞ」
「こわっ! やっぱ気が合わねえわ」
「……話を戻すぞ」
ナズナの一言で、俺とカイゼンは同時に口を閉じた。
「華城の言う通り、西園寺への警戒は必要だ。
彼女はスラムにいる人間を利用して、わたしを殺そうとした」
「……どういう意味だ?」
「ソルトとシュガーは、西園寺からわたしの殺害を依頼されていた」
「…………」
俺はゆっくりと、極彩色の二人を見る。
「ペッパー、唐辛子」
「その件については謝る! でも、今は完全に味方だ。誤解すんなよ。
あと、わざと名前間違えるの、ガキくせえぞ!」
ソルトは腕組みをしながら、呆れ果てた目を俺に向けた。
「……まぁ、ナズナがお前らを恩人だって言うなら、そこは信じる」
西園寺が癇癪を起こせば、必ず誰かが巻き込まれる。
今までも、散々そうだった。
「問題は、これからだな」
「ああ」
ナズナも同じ結論に至ったらしい。
ようやく再会できたというのに、安心している暇はなさそうだ。
束の間の平和は、もう終わろうとしていた。
「まぁ僕なら、君達が集まったところを狙うよね☆
あのお姫様、人の幸せをぶち壊すのが趣味みたいなものだからさ」




