Log:49 招かれざる客
Log:49 招かれざる客
「――止めて」
西園寺の声に、室内の映像が静止した。
空中に投影されているのは、スラム地区で行われているチャリティ活動の記録映像だった。
支援物資を運び込むスタッフ。
舞台を組み立てる作業員。
集まってくるスラムの住民たち。
そして、子供たちに囲まれているマスコット。
「…………」
西園寺は無言のまま、その映像を見つめていた。
「戻して」
映像が数秒巻き戻される。
「そこ」
再び停止した。
画面の端。
蛍光ピンクの巨大なリボンをつけた、
クリームホワイトの飛行型ドローンが映っている。
「…………」
西園寺の目が細くなった。見間違えるはずがない。
「SG-02……《ゴリラ》」
続けて、その隣を歩く人間型アンドロイドへ視線を移す。
普段とは似ても似つかない、ふわふわした衣装。
だが――機体そのものまでは変えられない。
「AR-04《エレファント》……」
二体とも、ナズナの所有していた機体。ならば。
西園寺の視線が、子供たちに揉みくちゃにされている二頭身のマスコットへ向いた。
「…………まさか」
その着ぐるみは、華城を模したものだった。
周囲にはチャリティスタッフ。
そして少し離れた場所には――本物の華城。
西園寺の眉がぴくりと動く。
しばらくの沈黙。
やがて西園寺の顔から、表情が消えた。
「……中にいるのは誰?」
スタッフが情報を検索する。
『チャリティ事業登録者名簿を照合します』
いくつもの情報が展開されていく。
西園寺はその場から一歩も動かない。
やがて――
『該当スタッフを確認』
一人の名前が表示された。
桐生――。
「…………」
西園寺の指先が震えた。
「どうして」
小さく漏れた声。
「どうして、あの男がスラムにいるの?」
声が次第に低くなる。
「誰が許可したの?」
『当該チャリティ活動はSEAL認可済みです』
「そんなことを聞いているんじゃないわ!」
西園寺が机を叩いた。
「桐生がどうしてそこにいるのかと聞いているの!!」
誰も答えない。答えなど、聞くまでもなかった。
ナズナ。あの女を追ってきたのだ。
「…………」
西園寺は唇を噛んだ。
せっかく引き離した。
あの女を上層から落とした。
もう二度と桐生の前へ戻れない場所まで追いやった。
それなのに――
「また……」
拳が震える。
「また、あの女のところへ行くの……?」
その声には怒りだけではない。
焦りが混じっていた。
「……桐生を拘束して」
『実行できません』
「…………何ですって?」
『桐生はSEAL認可チャリティ事業の正式な登録スタッフとして入域しています』
『現時点において、拘束事由は確認できません』
「…………」
西園寺の顔が引きつる。
『また、SG-02およびAR-04についても登録済みです』
「……華城」
西園寺はすぐに理解した。
「あいつ……!」
あの男は、自分が取り乱す姿を笑って眺めていた。
そして今度は――桐生をスラムへ連れていった。
西園寺はしばらく俯いていた。
「……そう」
顔を上げた。怒りが消えている。
代わりに浮かんでいたのは、薄い笑みだった。
「合法的に入ったのね?」
『はい』
「だったら――」
西園寺は映像の中の桐生を見つめる。
「合法的に追い出せばいいだけでしょう?」
◇
「華城様、大変です!」
チャリティ運営のスタッフが、血相を変えて駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「たった今、SEALから臨時監査の通知が届きました。
登録スタッフの身元情報に不備があるとの通報があったそうです」
「へぇ……」
華城はヒアラブルデバイスに届いた臨時監査通知を開いた。
チャリティ活動に参加している全スタッフの身元情報について、再照合を実施する。
それまで一部の活動を制限する――。
その内容を読み終えると、華城は楽しそうに口元を緩めた。
「随分と歓迎されてるみたいだよ、桐生くん」
「……誰にだよ」
「君の大ファン。分かるでしょ?」
「嫌な予感しかしねえんだけど……」
華城はにっこりと笑った。
「君の西園寺だよ☆ おめでとう」
「俺のじゃねえ!!」
反射的に叫んだ。
「もうヤダ、帰る! もう帰る!! 俺はナズナの元に行くんだ!」
「駄目だよ。チャリティ中だから☆」
「お前さっきから、それ言えば俺が何でも言うこと聞くと思ってるだろ!」
「だって事実だもん」
「クソが……! この腹黒男」
<ミスター桐生>
エレファントが臨時監査通知を確認する。
<当該通知に従わず活動区域を離れた場合、規定違反と判断される可能性があります>
「つまり?」
<西園寺の狙いがあなたであると仮定した場合――>
エレファントの瞳に、いくつもの情報が流れる。
<私たちは現在、合法的に足止めされています>
「…………」
俺は華城を見る。華城はまだ笑っていた。
「やるねぇ、西園寺」
「感心してる場合か!」
「だって面白いじゃん。僕たちが合法的に入ったから、向こうも合法的に邪魔してきた」
「俺は全然面白くねえ!」
俺は周囲を見渡した。ここまで来た。
同じスラムにナズナがいる。
あと少しなのに――。
「……こんなところで止まってられるかよ」




