【夏休み企画】宿題は計画的に。
【夏休み企画】宿題は計画的に。
桐生は、先ほどから溜まりに溜まった報告書の作成に追われている。
「……君は相変わらず計画性がない」
カタカタとキーボードを叩く音が鳴り続けている。
桐生は苛立ったように頭を掻きながら、何週間も前の戦闘記録を必死に掘り起こしていた。
まったく、困った男だ。
「大丈夫。俺は記憶力には自信があるんだ」
わたしは、桐生のその言葉をしっかりと記憶した。
「そうか。じゃあ、綿密な報告ができると信じているよ」
彼は作業を続けながら、必要な資料をすぐに確認できるよう、
複数のモニターに大量のウィンドウを開いていた。
もはや、どこに何の情報があるのか分からない。
(……あれでは、逆に効率が悪いだろうに)
「ところで、ナズナ大先生……」
――キタな。彼がわたしを「大先生」と呼ぶときは、碌なことがない。
「……念の為に聞いておくが、君は先ほどの台詞を忘れてはいまいね?」
「勿論だ。俺は『記憶力の桐生』と呼ばれるくらいの男だ」
「二週間前の空中戦闘についてなんだが、ログを参照したところ、
一部の情報がすでに消えてしまっていてな……。俺の目標命中指数の平均は、確か……」
「48%だ。通常通りの処理で、戦闘シークエンスは完了している」
「……そう! 俺は48%の目標命中だった……そうそう、それだ」
カタカタ…… カタカタ…… ターンッ
桐生はわたしの話を聞きながら、二週間前の報告書に残っていた空欄へ、
平均目標命中指数を入力していた。
「……桐生」
「ん、この『記憶力の桐生』に何か用かな?」
桐生はメガネなどかけていないのに、
なぜか人差し指でメガネを押し上げるような仕草をして、平然としている。
「君はそれでいいのか?」
「『それ』とは、また随分と曖昧な表現だな」
「では明確に言おう。君は先ほど、わたしから答えを聞いて報告書に入力したね?」
「……それは、誤解だ。この『記憶力の桐生』を疑うな!
あれは……そう! 記憶の照合作業だ」
桐生は、誤魔化すようにくるりと背中を向けて、また報告書の作業に戻った。
カタカタ……カタカタ……とキーボードを叩く音が続いていたが、
不意に、ピタリと止まった。
「……確か、あの時の合流地点は……S地区で……座標? 座標……
えーーっと」
「わたしは『記憶力の桐生』に期待しているよ。頑張りたまえ」
「ち、違うぞ、ナズナ大先生。まずは話を聞いてくれ……」
「見苦しいぞ、桐生。自称『記憶力の桐生』なら、自力で思い出し給え」
「ナズナ大先生ぇぇ!」




