Log:39 長い悪夢
Log:39 長い悪夢
身体が重い。呆然として瞬きをする。
私は、どうやらまだ生きているようだ。
視界不良。呼吸困難。全身打撲。肋骨損傷。
だが、死亡条件には到達していない。
そして、途切れた意識の中で地下監禁所にいたことを思い出す……
暗闇、悪臭……そして
――小さな檻。
わたしは、檻の前で動きが止まってしまった。
明確な拒絶。
抗うことができない嫌悪感が襲った。
命令違反と誤解されたせいで、私は暴力行為を受けた。
彼らに殺害の意思はないが目的は屈服。そのための暴力だった。
意識を失う瞬間まで、おそらく私は檻に入ることを拒絶していた。
自分の意思でアレの中に入ることは到底考えられないし、できない。
意識が沈む。暗い場所に引きずり込まれる感覚。
「おかしい……」
ノイズのような耳鳴りが、頭の奥で響く。
暗闇の中から、分断された映像がチラつく。
これは――
脳を激しく打ったせいで起こる幻覚なのか?
強い嘔吐反応。意識が揺れ、五感の一部が頼りにならない状況だ。
靄のかかったような、曖昧な視覚映像が映し出された。
(これは夢?)
檻を掴む小さな手。酷く震えている。
吐くと、白い息が広がる。
寒い。
胸が痛い。
引き裂かれるような痛み。
(なぜ泣いている?)
子供の声。怯えている。
それでも謝罪を繰り返している。
彼女は誰だ?
彼女の声がだんだん鮮明に聞こえてくる。
「……ごめんなさい! ごめんなさい!
みんなの言うとおりにします。
だから、カイゼンと一緒にいさせてください!」
「なんでも言うことをききます。おねがいです。
ごめんなさい!私は悪い子です。許してください!」
見知らぬ夫婦が、彼女がいる錆びた檻を力強く蹴飛ばすと歪んでしまった。
「うるせー! 少し静かにしろ!
お前が黙らないなら、カイゼンを殺すぞ!」
「そ、それだけはダメ!! やめてください!」
――その時
全身、傷だらけの白髪、赤目の小さな男の子が現れた。
「お前ら! そいつを放せ!!」
小さな男の子が血だらけの拳をふりかざして突進する!
モヤのような不安定な黒い煙が、男女をその中へ引きずり込んで
大きく蠢いた。
――断末魔のような男女の悲鳴と肉が裂け、骨が折れる音
そして静寂が訪れる。
男の子は血だらけのまま、檻を壊した。
「カイゼン! ごめんね……ご、ごめんなさい!」
女の子は泣きながら、カイゼンにしがみつく。
「ナズナ。……も、もう…ここに来るな……俺のことは忘れろ」
彼の赤い瞳が、泣きそうに揺れ、カイゼンは逃げるように走り去る。
「い、いやだ……行かないで! お兄ちゃんになってくれるって言ったじゃない!
お、お…置いて行かないで! お兄ちゃんーーーー!!」
わたしは彼を追いかける。一人になることには耐えられなかった。
喉が痛い。全身が酷く凍える。瓦礫に足をとられて、私は転んだ。
カイゼンは私を見ない。
「どうして? なんで?」
脳の悲鳴が聞こえる。壊れそうな感情。
耳の奥から、心臓の鼓動音が徐々に大きくなっていく。
世界がひっくり返るような暗転に襲われる。
全身から汗が噴き出し、飛び起きるようにわたしは
悪夢から覚醒した。
「…あれは……あれは私だった……」
私は、どうやら亡くした過去の記憶の一部を取り戻した。




