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輸送車両が急停止した。

どうやら目的地である監禁場所についたのだろう。


ロイド博士の顔が、やや緊張していた。


目の前に突如、褐色の肌で黒いマスクをした男が現れた。

一切の気配がしなかった。


「はじめまして。ナズナ博士、私は殺し屋のエイトです」


「はじめましてエイト。私はナズナで、元SEAL研究員だ。よろしく頼む」


わたしはプロの殺し屋を見るのが初めてだった。

エイトに手を差し出して、挨拶をしたが

彼は、なぜか不思議そうな顔でこちらを眺める。


「私はプロの殺し屋ですよ? もしかして、握手をお求めですか?」


「挨拶は社会的信頼構築の基本だ。相手が誰であれ、それは変わらない。

それに、知り合いの桐生によると『挨拶』はされると気分が高揚するらしい」


「……なるほど。あなたもあなたの知人も、とても変わっていますね。

そして『エイト』は私の本名です。お仕事が必要の場合は、ご連絡ください」


「ナズナ博士なら2割引き致しますよ」


エイトは私の手を、やんわりと握り微笑みながら握手を交わした。


「そうか、では困った場合はお願いするかもしれない。

連絡をするにはどうすればいいのだ?」


エイトはまた、目を大きく開き此方を眺める。

わたしは、また何かおかしな発言をしたのだろうか? 


2割引きの言葉に魅力を感じたのではない。


万が一の奥の手は必要だからだ。

特に、わたしを恨んでいる西園寺を今後も相手にするなら、

エイトに護衛任務を依頼するのもありかもしれない。


「……私は現在契約中でしてね。だから、ここから貴方が無事に生きていられたらの話ですがね」


「ああ、そうであったな。これは大変失礼した。では、無事に生きていられたら

その方法をもう一度聞くとしよう」


エイトは愉快そうに笑いながら


「あはは、そうですね。是非そうして頂きたい。生きて出られるといいですね」


わたしは愉快そうに笑う殺し屋の姿を見て、やや口が饒舌になっていた。


「スラムの言葉で『クソに蹴られて生きるのも、そんなに悪くない』

わたしの知り合いのソルトから聞いた。ゆえに、この精神を真似しようと思うよ」


「そして、このスラングという言葉はとてもカッコいいと思う」


「貴方が『クソ』という表現を使うのは、高級シーツにクソを塗るような

感じがしますね」


「有難う。わたしはこのスラング言葉を気に入っている。今後も使う場があれば

是非披露したいと思っている」


しびれを切らしたロイド博士が、振り向き様にわたしを酷く睨みつけた。


「ナズナ博士、そろそろ無駄な話をやめて頂きたい。そして、エイト。君の態度も

宜しくないね。プロなら任務を全うしたまえ」


ロイド博士が、手下に命令を下すと男2人が私を抑えこみ、エイトが

私の首に拷問用の拘束具を装着させた。


「……ふむ、このタイプの拷問器具は見たことがある。

命令違反には電気ショックかな」


「はい。無駄話にも同様です。あなたの立場を理解させるのに

これほど優秀な物はないでしょう?」


「人体構造上、電気ショックへの耐久には限界がある。

自ら実験した過去があるから断言できる」


「私の知り合いは根性で耐え抜いた馬鹿もいたが

……私は残念ながら肉体的に弱い。下手したら死ぬぞ」



わたしの治癒能力が完全ではない今は、命を優先せねばならない。

ロイド博士の脅しは簡単で露骨である。


此方が素直に従う素振りを見せて、恐怖していると思えば

無駄な殺しはしないだろう。優秀な科学者は最大効率を望むから。



「はい。だから、無駄な行動は控えてください」


ロイド博士は、再び手下である男達に指示を出すと、早々に立ち去った。


わたしは目隠しをされ、手は拘束されたまま、誘導音に導かれ

敷地内に連行されていく。


「ナズナ博士。ここで逃げようとしたら私が、仕留めに現れますので

どうか、そうならない事を祈ります。私も新規顧客を失いたくはないのでね」


「心得た。できれば大人しくしていよう」


拘束され暗闇の中、歩くのは、奇妙なほどに不安になる。

動揺を抑え、冷静を保つのは少し困難であった。

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