Log:36 NAZUNA
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シュガーとソルトは後悔を滲ませ、
今にも泣きそうな子供の顔で私を見送った。
彼らを安心させ、何も後悔する必要はないと言いたかった。
彼らには目的があり、私との契約は既に果たされていたのだから。
「貴方は変わっていますね? 彼らは貴方を売ったというのに
平気でいらっしゃる。人の裏切りに、怒りや悲しみという感情は湧かないのは
酷くつまらない」
私を金で買った男が、ひどく退屈そうな顔だった。
「そうか、退屈させてすまない。 しかし、彼らは契約を果たし
仕事を完了したまでだ。君もそうだろう? 何が目的なのかおおよそ理解できる」
わたしの研究は、人体構造の強化とAI搭載自律アンドロイドの強化だ。
顔色の悪さは、ほとんど同類である男の正体をわたしは知っている。
「ほう、わたしをご存じなのですか? ナズナ博士」
「数年前に違法な人体実験でスラム送りになったロイド博士だろう?
君の論文はすべて読んだよ。非常に面白い内容だった」
ロイドの目が、眼鏡の奥で鋭く光った。
「……それはそれは、研究者の最高地位である、SEAL研究者のナズナ博士に読んで
頂けたのは、研究者としては感銘を受けて喜んだ方がよろしいでしょうか?」
「……正しくは、元SEAL研究者だ。
そして答えは『いいえ』だ。君は、そういうタイプではない」
「そうですね。あなたも犯罪者ですが、私よりも地位は下です。
今後は、私の研究に利用させていただきます。まぁ旧世代の電卓よりは役に立つでしょう」
ロイドは長い足を組んで、拘束されているわたしを見ながら
嘲笑うように話した。
しかし、わたしは電卓と耳にしてしまったので
思わず反応せざるを得なかった。
「ほほう、君はCASI-0の電卓を知っているのか? あれには隠しコマンドが存在する」
「わたしは旧世代の電子機器に目がないのだ。そうか、君もそうだったのか! 気が合いそうだ」
ロイドは何故か、呆然とした表情をして私を眺めているが
わたしはCASI-0のすばらしさを知っている人物に出会えた事に感銘を受けてしまった。
「高速入力に対応し、キーを離す前に次のキーを押しても認識する『キーロールオーバー』が非常に優秀なんだ。そして、なんと静音性と耐久性にも非常に優れている。ちなみに、文字を表面に印刷しているのではなく、プラスチック自体を文字の形にくり抜いて2色を組み合わせる『2色成型』を採用しているので何十年使っても新品同様であり、長年使い込んでキーの表面が削れても、文字が薄くなったり消えたりすることが絶対にないんだ! やはり電卓界のキングはCASI-0だ。揺るぎようのない事実であり、間違いないのだよ」
わたしは多少鼻息を荒くして早口で話してしまった。
落ち着かねばいけない。そう、CASI-0製品のフォルムのように
クールな振る舞いを見せなければいけない。
「……そ、そうなんですね……ず、随分と饒舌にお話になるんですね……」
「まだ説明も足りないのであれば、いくらでも質問してくれ」
わたしは、拘束され輸送中であったが
この後、数時間もの間CASI-0製品について情熱を燃やしながら語り尽くし
最終的には、野球ゲームが遊べた幻のCASI-0製品について、プレゼンが出来たので
非常に満足のいく時間となった。




