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【あれから、10日後】
なぜか今日に限っては、部屋の空気が妙に静かだ。
シュガーもソルトも、私と視線を合わせない。
後ろめたい気持ちを隠す典型的な反応だ。
この様子から察する。
おそらく、時間が来たのだろう。
わたしは、自分の価値である引き渡し金額がやはり気になった。
「私の売買金額を教えてくれ。」
シュガーもソルトも、目を見開いてこちらを見た。
「……逃げるなら、逃げてもいい。止めない」
「……ごめん、ナズっち。俺は……俺たちは……」
「なぜ謝る? 私は君たちに1週間の身の安全の契約をしただけ。
君たちはそれに従った。それなのに3日も延長してくれただろう?」
「それで、私は幾らになったんだ?」
シュガーは床に視線を落としながら
「50万……ティルだ。俺たちを恨んでいいぜ。」
私は首をかしげた。これでは計算が合わない。
(わたしの価値がたったの50万ティル?)
「……君たち、ボラれたな。
私の市場価値はもう少し上だ。
少なくとも50万ティルで売買に協力するのは、
わたしのプライドと基準にそぐわない。」
「再交渉しろ。方法は教えただろう?」
「ウソを見抜き、的確に人を欺くのだよ」
わたしはここ数日の間、シュガーとソルトに
人間の行動心理学の基礎と犯罪者の行動パターンを
教え込んでいた。(ナズナは本から得た知識である)
シュガーとソルトは私の目を見つめる。
「ナズっち……」
「……分かった。どうせ裏切ったんだ。
金は多いほうがいいに決まってる」
「君達は、これからも絶対に損になる取引はするな」
わたしは彼らにもう一度、助言をして
再交渉は成功した。
彼らは見事に、交渉術を学び得た成果を発揮し、
わたしは、彼らの先生として誇り高い気持ちになっていた。
金額は倍になった。
私は満足する。
しかし、シュガーもソルトも喜ばなかった。
沈黙が落ちる。
二人は私の目を見ようとしない。
しばらくすると、男が二人現れた。
私を品定めする視線。
「あなたがナズナ博士ですか?」
「元、ナズナ博士だ」
「そうでしたね。今は愚かな犯罪者でしたね」
「その通り。私は軍事規約違反を起こした犯罪者だ。
後悔はしていない」
「さて、諸君。大人しく連行されてやろう」
「ただし——彼らに手出しは無用である。
無駄な争いは不要。彼らは私の恩人だ」
「もし不利益を生じさせた場合、君たちの資産消失を約束しよう。
私は残念ながら、本気だ。どうせ犯罪者なのだからな。愉悦でそういう行為もできる」
シュガーは顔を上げられなかった。
ソルトも同じだった。
男達は小さく笑った。
互いに視線を交わす。
「勿論、そんな事をしません。わたし達はね」
「そうか、では他の者がいるようだな」
男達はそれ以上何も言わなかった。
「シュガー・ソルト。心配するな。私は大丈夫。上を向きなさい」
「もし、万が一……あ、やはり……なんでもない、気にするな」
シュガーは唇を噛んだ。ソルトの肩が震えていた。
「そこまで言ったんだ……途中で話を止めるよ。気持ち悪いだろ?」
わたしは、殆どゼロに近い可能性の話を口にした。
「……万が一、黒髪、青い目の筋肉質の男が君達の前に現れたら
『心配する必要はない。直ぐに合流できる』と伝えてほしい」
「……そいつの名前は?」
わたしは、スラムに落とされてから
初めて彼の名前を口に出した。
「彼の名前は、桐生。私の大切な幼馴染なんだ」




