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シュガーとソルトの夢は、自分たちの立派な家を持つことであり、

だから彼らは大金が必要だった。


スラムでは物流システムが崩壊し、配給が常に滞っている。


一日の食事を確保するだけでも、金が必要だ。


その結果、独自の通貨システムが誕生した。


天上層が必要とする、表に出せない仕事には成功報酬が発生した。

それが通貨流通の起点になったと考えられる。


それがシュガーとソルトが賞金首ハンターになったきっかけだと語った。


「ナズっち先生、今日は何を教えてくれるの?」


「……先生。いい響きだ」


少しの高揚感を抑え、わたしは服のシワを少し整えた。


「では、これは教訓だ。ただの善人になるな」


シュガーの目は、困惑していた。


「はい? 普通、いい人になれって言うんじゃね?」


ソルトは笑った。


「そうではない。『無料の良い人』になるなという意味だ」

「……え?」

「良い人とは、誰にとっての良い人だ?」


答えられない二人を見て、わたしは続ける。


「この厳しい世界で生きるスラムの住人を見ろ」


「貧困に苦しむ住人、労働の選択が出来ない人達」

「犯罪でスラムに落ちた者も勿論いるだろう。

しかしシステムエラーで落とされた人間の方が多く、

ここにいる人間の大半は誰かの俗に言う『良い人』だった」


「その結果が、これだ」


沈黙が落ちた。


「モラル。善人。節度。」

「綺麗な言葉は、人を縛る鎖だ」

「その鎖を誰が握っているか——考えたことがあるか?」


二人は答えない。


「モラルを説き、善人であるよう願い、節度を守らせる」

「過剰なまでの「ルール」「マナー」「善行の強制」

「これらは、コントロールしやすい社会構造の完成だ」


わたしは二人を見る。


「本当に大事な人は、数人いれば十分だ」

「もしも、その他のために法を破り、犠牲になるのなら、

見返りを絶対に求めるな」


「良い人とは、そういうことだ」


「そして、大きな選択は必ず自分で決めるべきだ。

後悔しない選択はないのだから」


ソルトは頭を掻いた。


「つまりさ……馬鹿な良い人になるなってこと?」


ナズナはソルトの表情を窺い、彼の瞳の奥にある

善人が放つ小さな光を見た。


「……そうだ」


「手を差し伸べる相手が、

弱者の皮を被った悪である可能性も考慮したまえ」


「君達は少し良い人過ぎる……だから、気をつけたまえ」


シュガーとソルトは互いに目を見合わせて困惑した。

彼らは初めて「良い人」と言われた。

そして「人」として扱われたのも、初めてだった。


ソルトは少し照れくさそうに黙った後に、口を開いた。


「……じゃあさ。質問なんだけども」

「ナズっちは、まるで誰かの為に選択したっぽいじゃん?」

「後悔しなかったの? それってナズっちの大事な人?」


わたしは小さく笑った。


「質問が多すぎて、返答に困るが……」

「自分で選んだし、誰かの為にそうした」

「そして、私はスラム送りになった。すべて合理的な選択だった」


シュガーは笑った。


「えーー! ダメじゃん!」


「そうだ。私は悪い見本だ。だから同じ選択は、推奨しない」


そこにいた三人は笑い合い、空気が和んだ。



——プルルルル ——プルルルル



その時、シュガーの古びた通信機が短く電子音を鳴らした。

シュガーは気まずそうに背を向け、別室に移動すると、

穴だらけのカーテンを引いて音を遮断した。



「……こちら、シュガー。用件はなんだ?」


<……ターゲットの処分は済んだのか?>


「いや、まだだが……」


<……カイゼンがナズナを探している>

<そして依頼主は処分を急いでいる>


「おいおい……カンベンしてくれ、そんな話は聞いてないぞ。なんで、スラムの王が?」


<それだけ危険人物ということだ。二日以内に処分しろ>

<報酬を貰いたければ……>


「……わかった」


しばらくすると、シュガーが部屋に戻ってきた。

暗い表情で通信機を強く握りしめていた。


その様子に違和感を覚えたわたしはシュガーと目を合わせたが、

彼はすぐに目を逸らした。



(……なるほど、これは期限が早まったようだ)


わたしは彼の表情と行動から察した。



状況はまだ確定していない。


ただ、安全は約束されていないという現実を

受け止めるしか、今は方法が無かった。

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