Log:26
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医療施設《SEAL》の治療ルーム前は、
重軽傷者で溢れかえっていた。
メディカルアンドロイドが、
優先度順に処置を行っている。
桐生と間宮の優先度は、まだ回ってこない。
重傷者が次々と運び込まれている。
桐生は進化能力エネルギーの過負荷による
暴走化によって深刻なダメージを受けていた。
そして、
長谷部は重症化は避けられたが、
汚染レベルが中だったため、
現在、自動診断アームによる汚染除去を受けている。
三人は並んでベッドに寝かされていた。
状況は、悪化する一方だった。
「長谷部。少しの間……眠っていてくれると助かるのだが」
「ナズナちゃん。……それはダメだよ」
「……『治癒行為は、同意の元で行う』という法だろ」
SEAL・医療規約――第七条。
『治癒』行為に関しての重要な事項だった。
わかっている。
「間宮と桐生が、あなたの治癒でどうなるか
わからない。それに、規約違反になる。
ナズナちゃんが罰せられる。わたしはそれは嫌だよ」
「理解している」
「じゃあ――」
「それでも、やる」
長谷部の目が揺れ、沈黙が落ちた。
その時――警告音が鳴った。
間宮と桐生のバイタルモニターが、赤く点滅している。
心拍数――急落。
汚染侵食範囲――拡大。
能力エネルギー暴走拡大――危険域到達。
生存予測時間――
「桐生っ!」
わたしは動いた。
メディカルアンドロイドを呼ぶ。
応答がない。
治療ルームの外は、まだ混乱状態だ。
一刻の猶予もない。
「長谷部、申し訳ないが……
わたしは桐生と間宮に治癒をする。
合理的な判断だ。このまま待てば――彼らは危険だ」
わたしは長谷部の目を見た。
「わたしは桐生が死ぬのは、許容できない」
「……ナズナちゃん」
「責めるなら、後でいくらでも。今は一秒でも惜しい」
私は桐生の大きな手を掴んだ。
熱い。
彼の生命エネルギーが暴走している。
意識を集中する。
治癒反応を誘導する。
接触部から伝達する。
<<能力エネルギー暴走を確認。
治癒制御で介入モードへ移行>>
わたしのエネルギーを、
桐生の暴走を抑制する方向へ傾ける。
バイタルが落ち着いていく。
桐生の血色も戻っていく。
全てが安定値に戻るまで、
エネルギーを送り続ける。
桐生は危険数値から抜け出した。
その時――
ビービービーッ。
けたたましい警告音が鳴り響いた。
今度は、間宮の自動診断アームが、
赤く染まる。
〔間宮・バイタル異常検知〕
〔生存予測時間――〕
「間宮っ――
ナズナちゃん、間宮が!」
わたしは桐生の手を、離せない。
しかし、長谷部の目をみつめる。
「……お願いがある。
私一人では間宮を危険数値から治癒することが出来ない。
君のエネルギーを分けてほしい」
「君は激痛が身体を蝕むだろう。
悩んでいる暇は、もう残されてはいない」
「やるわ! 使って、いくらでも」
長谷部は涙を流しながら、
私の手を掴んだ。
「それから、もう一つ。
私に何があっても絶対に手を離さないでくれ」
「……どういうこと?」
「私の体内エネルギーは、
あなたのエネルギーを拒絶する。
だから無理やり変換する。
逆流現象が起きる。どうか、驚かないでほしい」
「わたしを信じてほしい。わたしは最善を尽くす」
「うん。ナズナちゃんも遠慮しないで。
わたし、エネルギー量なら桐生より上なのよ!」
「そうか。それなら、遠慮しない」
私は長谷部の覚悟を受け取り、
一切の躊躇なく彼女のエネルギー変換を開始した。
そのまま、間宮の手を掴む。
治癒反応を誘導する。
接触部から伝達する。
<<汚染レベル高
治癒制御で介入モードへ移行>>
〔治癒進捗――18%〕
〔エネルギー残量――低下中〕
警告音が鳴った。
間宮のバイタルが、急落している。
長谷部の悲鳴が聞こえる。
全身の毛穴に針を刺されるような痛みだ。
データで知っている。成人男性でも、転げまわる。
それでも、長谷部は手を離さない。
私は長谷部の手を握ったまま、離さない。
ボタボタッ。
口の中が生臭い。
反動性の逆流が来た。
視界が、
一瞬だけ暗く落ちた。
酷い耳鳴りが始まる。
三半規管が狂いだした。
「ナズナちゃん! 血が……!」
一瞬、長谷部の手が緩む。
「ダメだ! 手を離してはいけない。
彼を救うのだろう?それなら、私を無視しろ」
わたしは長谷部の手を強く掴んだ。
「で、でも! ナズナちゃん……」
「頼む。今は、わたしを信じてほしい」
間宮のバイタルは落ち着かない。
警告音が止まらない。
〔治癒進捗――38%〕
〔エネルギー残量――安定〕
指先の感覚が、消え始めている。
全身が震える。
眼窩の奥から激痛。
わたしの限界が近い。
だが、治療は完了していない。
<<汚染レベル:低
経過観察モードに移行>>
間宮のバイタルが安定した。
その瞬間、長谷部の身体が崩れ落ちた。




