Log:17
Log:17
桐生は、久しぶりの休日を使って
SEALの訓練所を案内してくれると言った。
目的は、警護ドローン
SG-02《ゴリラ》の実戦稼働を確認するためだ。
訓練所に向かうと異変を感じた。
配給場で出会った女性が場を制圧して、立っている。
彼女の圧が、訓練場を緊張で満たした。
誰も声を出さない。
兵士も、アンドロイドも。
西園寺は、わたしたちの姿を確認すると
わずかに目を細めて、話した。
「あら桐生、遅いじゃない。
あまりにも遅いから、ここの司令官に
貴方を呼んでくるよう頼むところだったのよ」
SEAL防衛司令官を侍従のように扱っている。
この時点で、彼女の行動は明らかに異常だ。
西園寺は、この冷えた空気の中でも、
何の躊躇いもなく会話を続けた。
「先日は、お互いに誤解していたみたいだから。
出会いを最初からやり直したくて、来たのよ」
「聞いて。私はあなたを能力だけで、判断していないわ」
桐生は冷静に言った。
「誤解? 俺はハッキリと伝えたはずだ」
「“性格不一致だ”とな」
女性は、わずかに眉をつり上げた。
一呼吸置いてから、桐生に言う。
「ねぇ、桐生。
私は貴方のそういう生意気なところも気に入っているの。
だから今回は大目に見てあげるわ。
でも――
あまり調子に乗らないほうがいい」
女性が、何気なく一人の兵士へ手をかざした。
次の瞬間――
彼女の背後に控えていた
黄金のアンドロイドの光学センサーが収束する。
発射。
細い光線が一直線に走り、
兵士の脚部を正確に貫いた。
周囲の兵士たちが怒りの表情を向ける。
しかし、その場で逆らえる者はいなかった。
西園寺は、その様子を退屈そうに眺めていた。
「彼を治療しなさい。私の気が変わる前に」
倒れた兵士はすぐに
治癒能力者によって回復処置を受けている。
「今は、治癒を許してあげているけど。
貴方が無礼な態度を取り続けるなら、
私も考えを変えるかもしれないわ……」
「それは、脅迫か?」
桐生は、女性を睨む。
「いいえ、お願いよ。
私に馬鹿な行動をさせないためにね」
桐生は私に視線を合わせ、
そのまま手を握った。
桐生の握力が、わずかに強くなる。
わたしは桐生の手に、手を合わせた。
「桐生。現状では従うべきだ。
これ以上の衝突は、SEAL兵の負傷率を上げる」
「……わかってるが、腹が立つ」
女性の視線が、
わたしと桐生の繋いだ手へ向いた。
酷く歪んだ表情で、彼女は言った。
「桐生。
また、私を怒らせるつもり?」
空気が凍りついた、その瞬間――
「こらこら〜〜。
ダメじゃないか、西園寺」
「みんなが君の迫力に萎縮しちゃっているじゃない」
彼女の名前を気さくに呼び、
男は場を止めた。
「黙りなさい、華城」
「でもさぁ。
桐生くんと話すために来たのに、
無駄足になるのは嫌でしょ?
だったらさ――
二人きりで話してきたらいいと思うんだ」
周囲がざわめいた。
人々の視線が、一斉にその男へ向く。
(周囲の反応から推測するに、
華城という男は高い社会的影響力を持つ人物。
西園寺の異常な支配力を
制止できる存在。
つまり――危険人物だ。)
「華城だ……嘘だろ。おい、俺ファンなんだよ」
「この前、劇場を見に行ったばかりだ」
そんな声が、周囲から自然と沸き上がる。
男はゆっくりこちらへ歩み寄り、
わたしと桐生の繋がれた手を
あっさり引き離して笑った。
「じゃあ、僕がナズナちゃんの相手をするよ。
桐生くんは、僕のお姫様の相手をよろしく。
ああ、そうそう――
彼女、すごく怒りっぽいから気をつけてね」
私は、この手のタイプには警戒をする。
人の感情を操る人物こそ、最も危険だ。




