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桐生の遠慮は、しないという発言にわたしは

首を傾げた。


「君は遠慮をしたことが無いはずだが?」


「いいえ」


「あれほど横暴で厚かましい強奪をしているのに、

あれ以上のことをするのか?」


桐生は笑った。


次の瞬間、彼はわたしの手を引き寄せた。


視界が動く。

重心が前方へ移動する。

回避行動を取る前に、身体が拘束された。


腕の内側に収まっている。


――接触。


背部に圧迫。

肩に温度。

胸部に規則的な振動。


「やっぱり小さいな」



思考が一瞬停止する。


「あれ? ナズナちゃん? 固まった?」


桐生は、わたしを抱擁したままで話しかける。


「桐生。これは不適切だ」


「いいえ。適切だ」


「離してほしい」


「本気で嫌なら突き飛ばせ」


私は力を入れて離脱を試みる。

だが、動かない。


筋力差、圧倒的。

さらに抱擁圧が増す。


「無駄筋肉をつけすぎだ」


「ナズナを守るためだ。ありがたく思え」


――解析不能。


「ナズナちゃん、心拍数が上がって


体温が上昇しているようだけど? まさか照れたのか?」


「!?」


「おれ、今日は泊まっていくわ」


わたしの思考回路が過負荷を起こした。

処理限界に近い。


「今、朝四時だぞ?


安心しろ。今日は何もしない」


「……今日“は”?」


「男だからな。

好きな女と一緒なら、色々したくなる」


――言語解析停止。


桐生は微笑む。

わたしを抱き上げ、ベッドへ下ろす。


「添い寝が欲しかったら、言えよ」


「あ、ありがとうございます」


不適切な応答を選択したと

発話後に認識した。


桐生が噴き出す。

毛布をかけ、ソファへ移動。


「早く寝ろ。俺の理性が暴走する前に」


「おやすみなさい、桐生」


「おう」


目を閉じる。


いつもなら、睡眠導入まで

数分以内に意識は沈降する。


今日は違う。


ソファにいる桐生へ視線を向ける。


彼も、こちらを見ていた。


視線が合う。


数秒。


桐生は小さく息を吐き、声を出さずに口を動かす。


「ね・ろ」


無音の命令。

それから、なぜか笑っている。


再び目を閉じる。


だが、聴覚は研ぎ澄まされたままだ。


ソファの軋む音。

衣擦れ。

彼の呼吸。


意識が、ゆっくり沈む。


最後に聞こえたのは、


ソファからの小さな声。


「おやすみ、ナズナ」


わたしは、懐かしい夢をみた。


初めて桐生に会った日のこと。


幼少期のわたしは、

今よりもさらに無表情で、

周囲の音をただ観測しているだけの子供だった。


はじめて会ったというのに、

彼は最初からあのままだった。


「ずっと一緒にいようね」


幼い頃、彼はそう言った。


距離が近くて、

遠慮がなくて、

勝手に手を引いて。


あのときは、

彼が差し出す、手の意味が分からなかった。


いまは――

すこしだけ、分かる。


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