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Log: 14 NAZUNA

Log: 14 NAZUNA



桐生が壁を凝視している。


……穴が開くとは思えない。


彼の能力はS能力だ。


ここで行使されると修繕申請書が増える。


それは避けたい。



そして、今日の彼は機嫌が悪い。


原因は不明だが、観測上は明らかだ。


扱いが難しい。


……少し、心配ではある。



対人関係の緊張を緩和するには、軽度のユーモアが有効とされている。


私はそれを実行することにした。


「桐生」


「お、おう!?」


「壁を睨んでも穴は開かない。能力を使用しない限り。

なお、我が家での能力行使は控えてほしい」


「……お前という女は……」


ため息をつかれた。


……反応が想定と違う。


怒りは減少している。


だが成功とも判断しづらい。


ユーモアの選択を誤った可能性が高い。



やはり、論理外の処理は難しい。



「ナズナ。真面目な話がある。座れ」


「了解した」


わたしはソファに座り、桐生に飲み物を渡す。


数秒、沈黙。


「交際申込書に申し込むぞ」


「良い決断だ。おめでとう」


「は?」


桐生が目を大きく開けている。


「彼女は、天上階層の女性で権力もある。


統計的に見て君の生活水準は向上する。

98%の確率で不利益は――」



言い終わる前に、額を小突かれた。


「バカ者!」


衝撃は弱い。

だが、意図は強い。


「……何が誤りだったのだ?」


「全部だ!」


わたしは首を傾げる。


交際申請。社会契約。

生活基盤の共有。生活水準の上昇。


どれも桐生の立場を上昇させる。

それは、成立しているはずだ。


「……つまり、条件面の問題ではない?」


桐生が深く息を吐いた。


「ナズナ。俺が守りたい女性は誰だ?」


「……君がか?」


「そう!」


桐生は黙る。


彼は、口を開きかけて、閉じた。



わたしを見ている。


答えを待っている。


彼の青い目は、逸れない。

強い意志を持った目だ。


わたしは考える。


だが、論理的な答えが出ない。



代わりに、言葉が出た。


「……わ、わたし?」



声は小さかったが、

自分の発声に、わたしが一番驚いた。


推論ではない。


計算でもない。


ただ、ふとそうだと思った。


「はっ、やっと分かったか?」


桐生が恥ずかしそうに笑う。


「……不合理だ」


「いいや、これ以上に合理的なことはない」


「お前、俺のことが大好きじゃん」


わたしは一瞬、言葉を失った。


「……そうではない」


「ほんとか?」


「本当だ。君を最優先に考えているが、

そういうのではない……はずだ」


「じゃあ、俺の目を見て言え。俺を好きじゃないって」



わたしは桐生を見る。


青い目。


逸らさない。


理由は不明。


「……君を、嫌悪してはいない」


「そういう言い方すんな」


「優先順位は高い」


「それも違う」


言語を選択する。

言語検索を行う。該当語句、なし。


わたしの意思決定に、

桐生が影響している。


つまり――



「……わからない」



桐生の眉が動いた。


「なにが」


「この状態の名称が分からない」



私は正確に報告する。



「君がいなくなる可能性を想定すると、


判断能力が低下する……」



一度、呼吸する。



「君が危険な状況にあると、


思考が優先順位を無視する」



さらに続ける。


「君と接触していると、


安定するが、気まずさも感じる」



私は結論を出す。



「通常の処理では説明できない」


沈黙。


そして――


「……だが、君を遠ざける選択は取れない」



小さく続ける。



「それに、わたしは……君を否定できない」



桐生はしばらく何も言わなかった。


それから、ゆっくり息を吐いた。



「……それな」



「それ、好きって言うんだよ」



わたしは黙る。



理解はできない。

だが、誤りとも断定できない。


ただ、わたしはそれを理解したいと思う。



理由は不明だ。

わたしは、ゆっくり言う。



「……現時点では、結論を出せない」



桐生は何も言わない。


ただ待っている。


わたしは続ける。




「だが」


一度、呼吸する。



「君がいない状態を、望まない」



静かな声だった。



「……わたしは、


君がここにいる方がいい」


桐生は笑う。


「おう。ずっと一緒にいてやる。

お前が分かるまで、待っててやる」


「……何十年も、かかるかもしれないぞ」


彼は一瞬、片目だけを閉じた。

そして柔らかに微笑む。


「ナズナちゃん。俺はもう、遠慮しないよ。

分からせてやるから、覚悟しろ」


そう言った、桐生の耳先は少し赤かった。


~ふんわり観察メモ~


桐生は一度、酷く驚き

我が家で能力を開放したことがある。


風呂場は壊れ、

脱衣所は崩壊した。


その際、修繕申請書を提出し

ビルダーアンドロイドの

性格の荒さと巧みな仕事ぶりに感謝した。


なお、彼らは

オイルを飲みすぎる傾向がある。

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