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Log: 12

Log:12


≪SEAL食料配布場≫の出入口付近で、人の流れが止まった。


騒音レベルが低下し、会話が途切れ、

見目の整った女性が一人、歩いてくる。


後方に金色のドローンが三機。個人所有機だ。

――この空域における"天上層の住人"


女性は桐生の前で止まり、少し傲慢な口調で話した。


「あなた、桐生でしょ?」


彼女は桐生を上から下まで眺めた。

観察ではない。値踏みする視線。


「ふーん。やっぱりいい男ね」


桐生は不機嫌そうに返す。


「……《SEAL》のデバイスで、表示されたIDを見れば分かるでしょ」


女性は肩をすくめる。

不機嫌を意に介した様子はない。


「S能力保有者、戦闘適性A+、対汚染環境耐性高。……なるほど。

確かに“当たり個体”ね」


桐生の眉間に皺が寄る。


「……人を物みたいに言うの、やめてもらえます?」


女性の口角が、わずかに上がった。


「あなた、私とのペア適合率が98%よ」

「何度もコンタクトを送っても、無視している理由を聞きたくて」



(なるほど、隠れた理由はこれだったのか)


私は桐生の顔を眺めた。

彼は表情を変えない。



「俺は、適合率よりも。

自分の信じたものを見つけるタイプなんでね」


女性は返答する前に、視線をこちらへ滑らせた。


「……気づいていないのかしら。

人と話している相手を、いつまでも立たせておくのは感心しないわ」


間宮と長谷部が席を譲ろうとする。


「あなた達じゃないわ。

貴方は上位層の住人よね?」


女性は二人を止め、言葉を続けた。


彼女の指先は、わたしを示した。


「私が話したのは――桐生の隣の女性よ」


空気が冷える。

温度ではなく、集団の緊張が走った。


「個体ID名:ナズナ。」

「この世界のルール、ご存じでしょ?」

「それとも、この私が ”丁寧” にお願いした方がいいのかしら?」


「……理解している」


わたしは立ち上がろうとした。

だが桐生の手に、手首が掴まれる。


強い。痛みはない。

制止の意図が明確な保持。


「桐生、これは社会構造上のルールだ。彼女は天上層の住人だ。」

「表立って歯向かうのは得策ではない」


秩序維持の基本原則。

だからわたしは立つべきだ。


「だからって、ナズナが立つ理由にはならない」


桐生は手を離さない。


「……私が立つのが、最も合理的だ」


長谷部と間宮が首を横に振り、

私に座る様に促している。


私の返答は単純だった。


優秀な戦闘兵でもなければ、

上層の住人でもない。ただの研究者だ。


桐生の声が低くなる。

ここで対立は望ましくない。


警備が介入すれば、彼の評価に影響が出る。


「桐生。君たちの評価が下がる。

職務記録に残る可能性がある」


桐生は――ようやく、わたしを見た。


「ナズナ」


視線が正面から合う。

普段より近い距離。


「お前は立たなくていい」


――理解不能。


思考が一瞬止まる。

反応遅延。原因不明。


わたしは、桐生の目を逸らすことが出来なかった。


桐生は女性に向き直り、はっきり言い切った。


「なぜ返事をしなかったかって?

あなたが聞いたから、誠実に答えます」


一呼吸、僅かの沈黙。


厨房のアンドロイド達も作業が止まり、

周囲も静まり返る。


「性格不一致ですね」



周囲の空気が変わり、ざわめきが走る。

だが桐生は気にしない。



「行くぞ、ナズナ」


次の瞬間、視界が上昇した。


抱えられた――と認識するまでに、わずかな時間差。


桐生はわたしを抱えたまま、≪SEAL食料配布場≫から脱出した。



背後で歓声が沸き上がる。


間宮と長谷部が、笑顔で手を振っている。


桐生は走る。



まるで、あの場所から一秒でも遠くへ行くように。


「ナズナ。お前、しっかり掴まっとけよ!」


「分かっている。危険だから掴んでいる」


桐生が一瞬こちらを見て、吐き捨てる。


「わかってねーよ! バカ!」


「桐生。私は知能指数には自信がある。訂正しろ」


「そういう意味じゃねぇ!」


彼は怒っていたが、私は少し愉快だった。



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