Log: 09
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夜襲警報が解除された。
戦闘兵が帰還する。
彼らの尽力と犠牲により、今回も都市の防衛は成立した。
ホバリングしていた大型輸送機のハッチが開く。
帰還兵が一人ずつ降りてくる。
私は観察する。
疲労による歩行の乱れ。
筋緊張の低下。
安堵による呼吸の深さの変化。
表情は大きく三種類に分類できた。
任務達成による充足。
生存したことへの安心。
そして――
隣に仲間がいないことを確認した直後の、空白。
私はその最後の表情を数秒見続けた。
定義が見つからない。
わたしは視線を移す。
帰還兵の数を確認する。
人の流れの中から、一人を探している自分に気付いた。
戦闘結果は既に把握している。
生存も確認済みだ。
それでも、直接視認しなければ
情報が確定したと認識できない。
(――不合理だ)
数十秒後、対象を発見する。
アーマーを脱いだ桐生が、医療班の列から離れて歩いていた。
左腕に固定具。歩行は可能。意識清明。
その瞬間、胸部の圧迫感が消失した。
視界が鮮明化した。
彼もこちらに気付く。
「無傷で帰還したぞ!」
負傷している腕をあげて手を振る。
桐生の戯言に、一瞬だけ頬が緩んだ。
「客観的に見て、君は無傷ではない。
だが、その主張通りなら検査は受けられると判断した。」
「えええ~~! 俺、家帰ってアニメ観ようと思ったのに」
「桐生。アニメは精密検査を受けながらでも視聴可能だ」
「もう少し、優しく出迎えろ。王の帰還だぞ?」
「君が王になるなら、歴史に名前が残るな」
「筋肉王として」
「いいじゃないか。俺の国では筋トレを義務化させるぞ」
「そうか、では参ろう。筋肉王よ、検査のお時間だ」
「良きに計らえたまえ」
周囲に出迎えの人数は少ない。
立入許可は一般職員にも開放されているが、
この場所へ来ている者はほとんどいない。
この社会では、四肢も臓器も再生可能だ。
SEALは遺伝情報を保存し、個体を再現できる。
旧時代の「死」は、もはや定義として機能していない。
だが――
わたしは、その軽さを正常とは記録できない。
<<遺伝子情報さえあれば、再現可能>>
遺伝情報が同一で、記憶が保全されている場合、
それは同一個体と呼べるのか。
連続していない意識を、同一と扱う根拠は何か。
わたしは、輸送機の降着地点を見る。
もし彼が戻らなかった場合。
もし再生されて戻った場合。
それをわたしは、同じ桐生として認識できるのか。
――わからない。
ただ。
わたしは今日も、人の流れの中から
「彼」を探した。
データで確認済みの生存を、
目で確かめなければ確定できなかった。
この非合理を、わたしはまだ説明できない。
いま、彼はここにいる。
連続した時間の中で、わたしの前に立っている。
「桐生。よくぞ戻ってきた。お疲れ様」
桐生は大きく息を吐き、微笑んだ。
「…おう」
いまは、それで十分だ。




