第二話 前世での妻との再会
【ラルク視点】
『勇輝さん、お願い助けて』
ラルク=フォン=ビスマルクとして転生する前、最も愛した女性からの助けを求める声。
異世界で聞こえるはずのない声、聞こえてほしくなかった声。
僕が星小学校を留学先に希望した1番の目的は、未だこの地に居るかもしれない妻と子に遠くからでも一眼見たかったからだ。
レスキュー隊員の仕事を優先し、要救助者を助けて命を落とした…世間は英雄などと持て囃すが残された家族にとっては馬鹿な男…倉間勇輝…それが僕がラルク=フォン=ビスマルクとして転生する前の名前だ。
あれだけ探したのに見つけられなかった…だからもうあの地には居ないと思ってたのに…よりによって異世界で再会できるなんて、歳取ったな愛美。
「ローザ!速やかに全員をダンジョン内に保護!」
「承知しました」
「メアリー、子供に手を出したクズを殺さない程度に痛めつけて」
「坊ちゃまとの時間を奪った罪を償わせます」
こうして、もう会えないと思っていた妻を目の前にして、何と声をかけて良いか分からない。
僕の容姿は倉間勇輝ではなくラルク=フォン=ビスマルクのものだし、今は分身の兎のキャロットのものだ。
愛美と共に生きた記憶は存在するが、倉間勇輝であることを証明できるものは何も無い。
「もう安心してください」
だから、こんなありきたりな言葉をかけることしかできなかった。
「あ、ありがとうございます。可愛い兎さん」
「喋る兎さんだぁ!?」
子供というのは本当に好奇心旺盛で素直だ。
兎が二足歩行で歩いて、喋るのに驚くどころか自分から近づいてきて、抱きついてくるのだから。
そういえば、愛美は保育士をしていて僕と結婚して妊娠が分かって退職申請をしてたはず…。
親が見当たらない子供たちと一緒という事は、僕が亡くなったから保育士として復帰したのかもしれない。
妻と子に迷惑をかけるダメな男だな僕は。
ここで少しラルク=フォン=ビスマルクとして新たな生を受ける前に僕自身について話したいと思う。
僕はレスキュー隊員として多くの命を救ってきた…でも本当にそれが正しかったのか…1番大事な妻と子を残して、僕が亡くなってから49日を迎えた日、何かに呼ばれるかのようにラルク=フォン=ビスマルクとして転生した。
赤ちゃんの頃に前世の記憶が混じるという話はよく聞く話だったが、まさか自分が…と。
だが、ラルク=フォン=ビスマルクとして新たな生を受けた僕は日本から遠く離れたドイツという国で産まれた。
この前世の記憶がいつまで残っているか分からない。
何とかして、日本に行きたいと思いつつも気付けば12年の時を過ごしたある日、父が外交官として日本大使館に詰める事となった。
僕にとってもチャンスだった。
家族での移住だが小学校の1年間は留学生という事にしてもらった。
僕は、妻と子の居る街にある小学校を留学先に選んだ…それが星小学校だった。
僕の息子も通っているかも知れないと一抹の望みを抱いていたが…息子は通っていなかった。
公立ではなく私立を選んだのかも知れない。
ならば、一眼だけでもと外に出たら妻の姿を追う。
だが、探せども見つからない。
そうして、今度は異世界転移に巻き込まれた。
そこで、1番会いたかった存在にこうして再会できるなんて…こちらは向こうのことを知っていても向こうはこちらのことを全く知らない。
だとしても、声をかけないという選択肢は無かった。
久しぶりに聞いた妻の声は、あの時と変わらず優しい声色で、僕の仮初の存在を見ても可愛いウサギさんと。
その隣で、愛美を守るように立っているのが僕の息子なのだろう…一度も会えなかった息子…。
「智樹、そんなに警戒しなくても大丈夫よ」
その言葉を聞いて、胸が跳ねた。
子供が出来たと聞いたあの日、妻のお腹に手を当てて我が子の名前を考えたが、結局妻に言えなくて、引き出しにしまった『男の子なら智樹…女の子なら結香』と書いたメモ。
あれを見つけたのか…。
「母さんは油断しすぎだよ。喋る兎の時点で怪しさ満点だろ!コイツ魔物だよきっと!」
「そんなわけないでしょ。海外にはきっと喋る兎さんだっているのよきっと」
初めて聞く息子の声だが、何処か前世の僕に声が似ている気がした。
それに妻は少し天然なところがあった事も思い出した。
「御婦人、残念ながらそこの少年の言う通り、ここは日本という国ではなく、遠い異世界です。そして、このウサギは当ビスマルク王国の王であるラルク=フォン=ビスマルク王の『ダンジョン』というギフトで作り出した仮初の身体…私どもも貴方様と同じ世界からこの地に呼び出された者です。私はビスマルク王の執事を務めておりますローザと申します」
「これは御丁寧に…ってええええ!?ここって海外じゃ無いんですか!?」
「残念ながら…でもご安心ください。御婦人方を保護すると決められたのは、ビスマルク王ですので、皆様の安全はお約束致します」
「それは、御丁寧にありがとうございます」
僕が子供たちに囲まれて、抱きつかれたりしてるので、ローザが説明してくれたようだ。
さて、妻や子に会えたのは嬉しいが…ここは一体何処なんだろう?
さっきまで、フランク王国とプロイセン王国のちょうど中間地点を拠点としていたはずなのだが、光に包まれた次の瞬間、目の前で頬を腫らした妻と怯えている子供たち…僕は怒りが沸々と湧き上がってきてメアリーに仕置きするように命令した。
そのメアリーはというと、子供に手をあげた不届者は、あらぬ方向に腕と足が曲がってる…殺して無いよね?
異世界で常識が通じないとしても人を殺すのだけは、嫌だよ僕。
結論から言うと死んで無かったので、清瀬さんにお願いして治療だけはしてもらった。
桐島さんにお願いして暫く目覚めない薬を飲ませてだけど。
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それでは、次回もお楽しみに〜




