第六話 宿を堪能するプロイセン王
【プロイセン王視点】
さっきそこですれ違ったアンヌに何故こんなところで働いてるのかを聞いたらその過程を熱心に聞かされた。
まさか、あの美味しい料理だけでなく賃金まで与えているとは…それも聞いたところによるとアンヌほどの上級冒険者ならまだしもリーリルたち新人の冒険者にとっては、クエストを受けるよりも破格の賃金だ。
これでは冒険者を集め鍛えようとしているワシの計画が御破算ではないか!
いっそのこと薬草採取でここの賃金よりも少し上を…無理だな。
そこまで財政にゆとりがあるわけでもない。
しかし、何かしらの手を打たねば、このダンジョンに魅入られた者たちがどんどんと…。
何故、ここに我が妻ヴィクトリアと娘のルイーゼが居るのだ。
「まぁ、陛下もこちらに。ここは良いところですわね。料理も美味しいですし、温泉も凄く気持ちいいんですのよ」
「ヴィクトリアよ。お前が何故ここに?」
「開店した初日からとても美味しいと評判でしたもの。陛下はお忙しそうでしたので、勝手ながらルイーゼと度々足を運んでいましたのよ」
「お母様、今日こそスコッティちゃんに勝って、触るの!早く行こ!」
「はいはい、引っ張らなくても卓球は逃げませんことよ。それにアンヌと一緒にたくさん練習しましたものね」
「うん!アンヌお姉ちゃん直伝の技で今日こそ絶対に勝つの!」
卓球?
スコッティ?
2人から訳のわからない言葉が聞こえたが2人をこのままにしておけん、ワシも。
「ここから先は宿に御宿泊の皆様専用となっております」
な!?
ええい!
宿とやらに泊まれば良いのだろう!
どうせ、温泉とやらも確認しておくつもりだったのだ。
「一泊御宿泊ですね。宿泊期間が長ければ長い程、お得になりますが1日で構いませんか?」
「構わん!さっさと通してくれ!」
「わかりました。初回無料サービスで1日宿泊料をサービスさせていただいておりますので、それでは、行ってらっしゃいませ」
無料だと?
こうやって、多くの冒険者をこのダンジョンで堕落させるつもりなのだな!
人の皮を被った魔族どもめ!
「おぅ!新しいお客さんだぞテメェら!姫に迷惑かけねぇように、しっかりおもてなしして差し上げろ!」
な!?
リザードマンだと!?
まさかワシが国王だと知った上で、始末しておこうというつもりか。
「皆んな、お客様を怖がらせちゃダメだよ」
「すいやせん姫!」
「この子たちが何か迷惑をかけていたらすみません。私異世界から来た勇者で、このように爬虫類の子たちを支配できる力を持っています。この子たちは安全なので、どうかその斬らないでくださいね」
スーツ姿の女性を前にリザードマンたちが傅いている。
成程、異世界の勇者の力か…魔族から力を削げるこの力は良い。
リザードマンは全て、魔王軍16神将が1人アイデクセムの配下と言われていたからな。
成程、この力でフランク王国を守ったと言うのなら納得だ。
「いや、いきなり現れたので驚いただけだ。そのつかぬことを聞くがヴィクトリアとルイーゼを見ていないか?」
「ヴィクトリア様とルイーゼ様でしたら、今日も多分卓球台の方にいるかと。御案内しましょうか?」
「頼む」
それにしても今日もか。
ヴィクトリアもルイーゼも相当入り浸っているようだ。
このダンジョンが危険であることを知らせねば。
何だこれは!?
受付にいたスコティッシュケルベロスと娘が戦っているのか!?
「スコッティちゃん!今日こそ勝って、もふもふさせてもらうんだからね!」
「にっ!」
成程、食事処が閉まる頃に宿がオープンするから先程受付にいたスコティッシュケルベロスがこちらに来て、ここでも目を光らせているわけか。
中々やる。
それにしても災厄を呼ぶスコティッシュケルベロスに勝てるわけが無いだろう。
ピンポン玉をすごい速さで撃ち合っている!
何だ、アレは無茶苦茶楽しそうでは無いか!
いかんいかん!
ワシとしたことが。
「貰った!」
「にっ!?にぃっ」
「お母様、見た?勝ったよ!私、スコッティちゃんに勝ったよ!」
「えぇ見てたわよ。努力が実ったわね」
「うん。うん。」
いかん…何だかワシまで泣けてきた。
娘の放ったピンポン玉に後一歩のところで、届かなかったスコティッシュケルベロス…どちらも見事な戦いだった。
「にぃ」
スコティッシュケルベロスがルイーゼの前に首を差し出しているだと!?
ルイーゼがそこに抱きついた!?
「うわぁ。ぬいぐるみよりもフカフカで気持ちいいよぉ〜。私も猫ちゃん飼いたいよぉ〜」
いや、それは猫では無い。
災厄を呼ぶスコティッシュケルベロスと言ってだなとても恐ろしい化け物なのだ。
「クソー!また、掴み損ねた!フカフカ抱き心地最高のスコッティぐるみ」
何だアレは、アームのようなやつでガラスの箱の中に入ったものを掴むのか?
どれ、ワシも挑戦してみようでは無いか。
ええい!
このクソアームが!
全然取れないではないか!
ええい!
次こそ!
「陛下、そんなに台をバンバンしては壊れますよ。私が取って差し上げますわ」
「おぉ。すまんなヴィクトリア」
成程、そのタグと呼ばれるものに引っ掛けると。
それにしてもヴィクトリアよ。
お前、上手すぎないか?
「お母様はね。このクレーンゲームの天才なんだよ〜。景品を取り逃がしたことが無いんだ〜」
「可愛い娘のためですもの。どうぞ陛下。抱き心地がすごく良くて安心しますのよ」
何じゃこのフカフカは…ゴクリ。
娘がスコティッシュケルベロスに抱きつきたくなった気持ちがわかる。
「陛下、せっかくきたんですもの温泉も入られますわよね?」
「勿論だとも」
「じゃあ、私家族皆んなで入りたいな!」
「うむ。せっかくだし皆で入ろう。久々にヴィクトリアとルイーゼと話したいしな。家族風呂とやらの料金は?」
「初めて御宿泊のゲオルク様が家族風呂をとのことならそちらも勿論サービス適用範囲ですよ。どうぞ、ご堪能くださいませ」
「うむ。感謝するぞ」
家族で楽しめるダンジョンか。
こういうのならあっても構わないだろう。
「お父様、見てみて。私泳げるようになったんだよ!」
「おぉ。本当じゃな。ルイーゼは頑張ったんじゃな。ヨシヨシ」
「エヘヘ〜」
「それにしてもダンジョンを毛嫌いしている陛下が足を運ぶとは思いませんでしたわ」
「毛嫌いしていたわけではない。冒険者の収斂として管理・運営をしているダンジョンもあるしな。だが、ここは魔物たちから敵意を感じない。魔物たちにとっても住みやすくて良い所なのだろう。このダンジョンは攻略も監視もせず、国民の憩いの場となってもらうつもりだ」
「えぇ、それは良いお考えですわ。家族ゆったりと過ごせるとても良い場所ですので」
それに、こうして政務を忘れて久々にヴィクトリアとルイーゼと過ごすことができた。
ワシは帰り際にチップを弾もうとしたが。
「プロイセン王、この姿では初めましてですね。当ビスマルクダンジョンを運営しているラルク=フォン=ビスマルクと言います。家族皆で楽しんでいただけたようで何よりです。またいつでも皆様の御来店を楽しみにしております。あ!チップは結構です。陛下がここに居て良いと思ってくださったことが僕にとって1番のチップですので。そして、こちらはヴィクトリア様とルイーゼさまのご宿泊代の返金となります。当店初めてのお客様であるゲオルク様がお忍びで家族部屋をでしたね」
ハハハ、逆に妻と娘の分の宿泊代を返されるとは…それにここまで華を持たせてくれては、何も言えん。
「また心が荒んでしまったら家族皆でリフレッシュさせてもらいに来るとしよう」
「その時までにクレーンゲームの景品を増やしてくださると嬉しいですわ」
「スコッティちゃん、またね!次も勝ってもふもふ堪能するから覚悟しておいてね!」
「にっ!?にぃっ!」
「ははっ。毎回、ヴィクトリア様にはクレーンゲームの良い宣伝をしてくださっていますからね。善処させてもらいます」
人々を楽しませるダンジョンか。
ワシは玉座に帰るとすぐに布告した。
美味しい料理と家族との憩いの場をお求めならビスマルクダンジョン案内委員会まで!
仲介の御礼として、ビスマルクダンジョンからマージンを得る事業を新たに発足させたのだ。
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それでは、次回もお楽しみに〜




