第七話 困惑のメアリー
【メアリー視点】
堅物眼鏡から呼ばれて、坊ちゃまが人とお会いになるので、警護をして欲しいらしい。
そういうことは先に言えっての!
私にも掃除とか…ユウとマドカにメイドとしての嗜みを教えなきゃいけねぇんだから。
それなのにこの2人といえば…。
「た、助かりしたローザさん。さっきからどうやったらそんなに食器を割れるのかほとほと困ってたんです」
マドカが言うほど食器割ってねぇっての!
せいぜい10枚かそこらだろ…いつもはこの倍は割ってるから異世界に来て私も力加減を身に付けたはず。
「掃除してんのか散らかしてんのか分からないメイド長のせいで、掃除も二度手間になっちまってよ」
失礼な!
私の完璧な掃除を理解できないなんて…究極の断捨離は破壊からって言葉が分からないの?
「2人のことは私が見ておきますので、メアリーメイド長はラルク様の元にお急ぎください。ラルク様のことを守れるのはメアリーメイド長だけですから」
流石、トクコは分かってんなぁ。
そうかそうか坊ちゃまを守れるのはアタイだけか。
そこまで言われちゃ仕方ねぇ。
この2人の躾はトクコに任せよう。
「トクコ、2人ともしっかり躾けておいてくださいね」
よし、平常心でトクコにアタイのことを馬鹿にした2人の躾を頼んでやったぜ。
「今回は複数人と会われる予定ですので、私も側に控えます」
チッ堅物眼鏡が居るならアタイの見せ場はねぇかもな。
堅物眼鏡と共に坊ちゃまがいる会議室に向かうとダンジョン内で人前に姿を見せる時の仮の姿であるウサギがそこに居た。
まぁ、用心しておくに越したことは無いよな。
匂いフェチのアタイでも本物では無いウサギの方に抱きついて匂いを嗅ぐ趣味はない。
アタイが好きな匂いは坊ちゃまの匂いだからな。
「この前、保護した人たちから話を聞いてみようと思って、念の為2人にも同席してもらいたいなって」
あー、確か坊ちゃまが保護された…この地に呼び出された召喚者だっけ?
あんな子供に話を聞いても分かんないしか返ってこないと思う…でも1人居た大人の女性は違うか。
まぁ、聞いてみる価値はあるのかな?
「かしこまりました坊ちゃまの身辺警護はこのメアリーにお任せください」
「では、メアリーにお任せして私は害は無いかを注意深く周りを見ておきます」
「ありがとう2人ともよろしく頼むよ」
こうして、この会議室に子供10人と坊ちゃまと同年代の子供と大人の女性が一同に集まった。
こうしてみると本当にこの国の上の連中はクソだな。
自分たちのケツを自分で拭くこともできず異世界から自分たちの都合で呼び寄せた勇者とやらに丸投げしようとするんだから。
「みんなはここが何処だか分かる?」
坊ちゃまの言葉にみんな首を傾げるだけ…だからどうせ何も知らないってアタイの予想が当たっちまったな。
「現実世界じゃなくて異世界ってことですか?」
いや、そういうボケを求めてるんじゃねぇよ!
はっ倒すぞ!
坊ちゃまもこんなボケに真面目に答えるんじゃねぇよ!
「どうやってここに?」
いや、こっちが聞いてんだよ!
坊ちゃまに逆に質問するんじゃねぇよ!
というか坊ちゃまも別に答えなくても…。
あれっ?
別にコイツら悪く無いのに何でアタイの気がこんなにたってんだ?
その理由が今わかった。
この女は、坊ちゃまのことを狙ってるんだ!
「勇輝さんなの?」
ユウキって誰だよ!
坊ちゃまはそんな変な名前じゃねぇっての!
そうだよね?
何で、堅物眼鏡は笑いを堪えて、坊ちゃまは神妙な顔になってるの?
「ハァ。隠し通すつもりだったんだけどなぁ」
えっ?
どういうこと?
「メアリー、混乱してるようですね。説明をしなかったことは謝ります。坊ちゃまには、どうやら前世の記憶とやらが存在しているようです。その前世では、目の前にいらっしゃる倉間愛美様が坊ちゃまの奥様。その隣にいらっしゃる倉間智樹様がお二人のお子様です」
堅物眼鏡がアタイの耳元で教えてくれた。
前世の記憶?
妻?
子?
分かんない分かんない分かんない!
それってもう坊ちゃまは私たちの…。
「ふざけんな!テメェが父親?そんな話を信じろって?」
私が目を離した隙に坊ちゃまが殴られるなんて、護衛失格だ。
でも、坊ちゃまを殴ったコイツは…許さない!
「メアリー、待て!」
どうして止めるの?
何故、何も言わないで殴られ続けるの?
堅物眼鏡もどうして止めようとしないの?
「メアリー、坊ちゃまはあの子が産まれる前に人を助けて死んでしまったんです。あの子からしたら父親の顔も知らずに育った。これぐらい許してあげましょう」
そう…ローザは良いよね。
『鑑定』で予め知ってたって事でしょ?
私は今こんなに心の中が騒ついてるのに、そんなに冷静でさ。
「気は済んだ?」
「何で殴り返さないんだよ!」
「殴られて当然のことをしたから…それにお前の名前が智樹で嬉しかったんだ。当時、愛美のお腹にいるお前のことが嬉しくて、寝る間も惜しんで産まれてくるお前の名前を考えた。男か女かも分からなかったから両方の名前を考えてさ。最終的に候補として残った2つを引き出しの中に入れていたんだけど、そのすぐ後に死んだから愛美に渡せないでいたんだよ」
「あれを見つけるのは本当に簡単だった。だって、勇輝さんいつも私のお腹を撫でながら名前をどうしようかなって考えてたから。絶対何処かにメモを残してると思ったし、作業台の引き出しの中だろうってね。勇輝さん、お帰りなさい」
「ハハッ。愛美にはやっぱり敵わないなぁ。遅くなってごめん…愛美…智樹」
「父さん…父さーーーんんんんん」
やっと心が落ち着いてきた。
あの子も寂しかったんだろうな。
坊ちゃまと一度も会えなくて、父親が居なくて辛い目に遭ったのかも知れない。
はぁ。
これで坊ちゃまも所帯持ちか。
しかも、だいぶ年上の…。
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