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(更新8)

【サーラ】


「クラウス、娘の事を頼んだよ」


「任せておけ、ミーシャには良い錬金術の教師をつけてやろう」


「サーラお姉ちゃんバイバイ」


居留地最初の子供ミーシャはドワーフのクラウスさんに連れられて出ていった。


あの時は妹の様なミーシャが居なくなり…寂しい思いをした。


ミーシャの弱い視力では森に住むのが難しかった。


今では同じ様に視力の弱いハーフエルフの子供は普通に居留地で暮らしている。


それは居留地の生活が軌道に乗り、眼鏡を買い与え、皆が気を付けてやれる程に余裕が出来た為。


当時はそんな余裕は金銭的にも精神的にも無くて、ミーシャの両親は王都へ出るクラウスさんに託すしかなかった。


この頃にはミーシャの両親に対する風当たりも弱くなっていた。


今だから解るが、墓所の森に落ち延びたエルフは女性が圧倒的に少なかったのだ、子供をもうけるには共同生活を送るライカンか近隣の村のヒューマンとの結婚を視野にいれなければならなかったらしい。


私が森の外の世界に興味を持つ様になったのは、思えばミーシャと別れたこの時だった気がする。


ミーシャと別れて数年後、私は族長である父に森を出たい事を相談した。


「そうだな…我々エルフも森に閉じ籠っていては以前と変わらないな」


まず父は居留地の皆に近隣の農村で手が足りない時の手伝いを提案した。


その後、私に一通の手紙を渡した。


「これは国王陛下への紹介状だ。サーラ、お前にはこの国の色々な事柄を我々皆に伝えて欲しい。それには王宮で働くのが一番だろう」


皆あんな逃避行なんかもうしたくないだろうからな、その為に頑張っておくれ。


足の爪を割りながら歩いた日々を父は皆にさせたくなかったのだろう。


国王陛下への紹介状。


『陛下』


あの蒼白い顔の子供はどんな青年に成長したのだろう?


無数の骸骨に囲まれて暮らしているのだろうか。


赤ん坊だったミーシャと仲良くしろと私に言ったのを覚えているだろうか。




【ザップ】


ベッドから起き上がり水差しから直接水を呑む。カーテンの隙間から朝陽が差して暗い部屋の輪郭がはっきりしてくる。


同時に微睡むスキンの姿が目に映る。


『スキン』の呼び名は全身に体毛が全く無いところから付いた。頭のてっぺんから爪先まで毛が無い。


おそらく、スキン姐さんは純血のヒューマンじゃないんだろう。先祖のどこかに別種族の血が流れてそのせいで無毛なんだろうな。


首筋から胸の真ん中を抜けて太股まで続く蔦を模したタトゥーがスキンに絡み付いてアクセントになっている。


「帰る時間かしら?」


スキンのタトゥーを眺めていた俺に、いつの間に起きたのかスキンが俺を見ていた。


「あぁ、朝だしな」


「そ。ならまたね」


もう少し眠るつもりらしい。


服を着て部屋を出る時、姐さんが言った。


「ドレスデンの事、もう少し詳しく判ったら連絡するわね」


建物を出て奴隷商館の前を通り過ぎる時、奴隷の『荷降ろし』を横目で見た。


「ほら早く歩け」


「旦那、荷の御確認を」


山賊みたいな格好の連中が鎖に繋がれた奴隷を急かし、頭目らしい男が身なりの良い気障な男から金を受け取っていた。


「最近質が良ろしくないな、次もこうなら値を下げるぞ?」


「勘弁してくだせぇよドレスデンの旦那」


…あれがドレスデンて奴か。


商品の質を確かめに、わざわざ自ら出向いて来るかねぇ。手下を信用しないタイプか。


なんでこいつがヴィーシャを狙っているのか?理由が見えてこねぇ。


狙うと云っても命なのか違う何かかも判ってねぇからな、どうしたもんか?


…まぁ、面は覚えた。


「…やはり質を高めるには…」


奴の独り言を耳にしながら裏通りを後にして、市場から宿屋へ帰った。


「あれ?ザップさん?」


宿屋の前の通りをエドが十人くらい引き連れて走っていた。


…何やってんだ?


「新人達の訓練ですよ、それじゃあ」


エドに手を振って別れ、溜め息をつく。


元気だねぇ…


まぁ新人が増えれば俺達のパーティーに入ってくれる奴もいるだろうさ。


さて、明日はダンジョンへ潜る日だ。準備しとかないとな。




【ガンズ】


「なんだヴィーシャ、行かないのか?」


食堂の前に集合するとヴィーシャが急に行かないと言い出した。


今回、妃殿下に無理を言ってミルズをパーティーに加えた。


ミルズは宿屋の下働きを休んで参加する格好になる、妃殿下に一言いれない訳にはいかない。


「五~六階層で帰って来るんでしょ?ちょっと用事があるし」


ミルズの初陣、というか試験的な探索なので浅い階層までしか行かない。ミルズの仕事の件もある事だしな。


なら全員でなくともいいだろうという判断なんだろうな。


「じゃあ、行ってきますヴィーシャさん」


エドが手を振りダンジョンへ向かった。


ダンジョンの中はいつものごとく、湿った空気に満ちている。


「…これがダンジョン」


ミルズにしてみれば初探索、辺りをキョロキョロする様は少し前の俺と同じだ。


「ミルズ、そんなに気負うもんじゃねぇぜ?楽にしな」


「ただし気を抜いてはいけませんよミルズ殿」


ザップとドラスがなかなか面倒な注文をする。


気負わず気を抜かず、兵隊稼業でもやらない限り身に付くには時間がかかる事だ。


途中、二度程魔物に出くわし、戦闘になったがミルズは巧く対処出来ていた。


「折り返しだな、この部屋で夜営にしよう」


五階層のある部屋で休む準備を始める。


「どうだい?初めてのダンジョンの感想は?」


「…緊張しますね。何処から魔物が襲ってくるか解らないというのが」


「最初はそんなもの、例外はガンズさんくらい。鋼の神経だ」


ノラが酷い事を言う。


「そう言うノラも神経が太いだろ?」


「そんな事はない。私は顔に出ないだけだ」


「まぁガンズ殿は戦闘になると笑顔になりますからな」


「ドラスだってトログロダイト狩の時は…」


お互い馬鹿話に花を咲かせているとミルズが言った。


「いつもこんな感じですか?もっと殺伐としたものかと」


「休む時は身体だけでなく心も休ませないとしんどいもんだぜ?」


「まぁ大した怪我人も無い時はこんなものですよ」


「パーティーって、いいものですね」


「組んだパーティーによりけりだな、うちは雰囲気がよくなる様にしてるんだ」


その後、帰りに三度程戦闘をこなし、ダンジョンから戻った。




────────


「ダンジョンは魔物が湧くっていいますが、どうやって湧くんでしょうか?」


帰り道、ミルズに訊かれた。


「…そりゃあ、公爵様の魔力で…どうやってだ?」


「いや俺に訊かれてもな」


魔物とはいえ性別のある生き物だ。


子供を産んでそれが育ち…と考えてミルズの疑問を理解する。


確かにダンジョンの中、そうやって増える魔物もいる。


しかし成長する時間を考えると早過ぎる増え方だ。


それ以外では公爵様の魔力から生まれるというのが答なのだが、どうやってと云われると不思議な話だ。


いちいち公爵様が造るとも思えないな。


…という事を、飯を食いながらヴィーシャに話した。


「…そんな事訊かれても専門外よ」


考えてみればトログロダイトなど、水没林では絶滅しているそうだし、十階層まで行き着くパーティーが増えれば乱獲必至、絶滅するだろう。普通なら。


「生まれる階層が魔物の種類によって大体決まっているのも不思議よね」


「訊きに行っては駄目かな?」


「叔父様のところまで?呼ばれてないのに行けないわ」


それもそうか。


そんな話をしていると厨房から熊さんが顔を出した。


「よ、お二人さん。公爵の旦那から伝言だ『またいつでも好きな時に遊びにおいで』だってよ。この前言い忘れたらしい」


「好きな時って、今から行っても大丈夫かな?」


「いいんじゃないか?本人が言ってんだから」


行ってみるか。


「ヴィーシャはどうする?」


「…仕方無いわね」




────────


「…と、そんな疑問にかられまして」


「ははぁ~なるほどね、いい疑問だガンズ君。ちょっとこっちに来てごらん」


公爵様は俺達の話を聞くと奥の部屋へ誘った。


「…叔父様、これは?」


その部屋には大きな丸いガラスの容器が並んでいた。以前見た円筒のものとは違い、液体が一杯に入っていた。


しかし、円筒のものと同じ様に人の身体が入っている。


液体に浮かんでいるそれは半分溶けた様にも見える。


「今入っているのは僕の『着替え』のスペア。古くなったのと取り返る為に造っているとこ」


溶けているのではなく、造られている途中だという。


「簡単に言うと生き物の身体には『設計図』が入っていてね、この容器は設計図通りに生き物の身体を造る事が出来るのさ」


公爵様によると、普段ダンジョンには魔力と一緒に魔物の設計図も充満しているという。階層毎に魔物の設計図が違うらしい。


魔物が減った時に公爵様の魔法が発動して魔物が生まれるのだとか。


「ただ、一気に減ると追い付かないからね、これで造って送り込む事もあるね」


「叔父様、今浮かんでいる身体には命は無いのですか?」


「死霊術で仮の魂を入れる事は出来るよ、魔物ならね」


知的種族には無理なのか?しかし何が違うのだろう?


「魔物は本能だけでなんとかなるからさ、知的種族は無理すぐ死んじゃうよ」


まぁ疑問は氷解した、後でミルズに教えてやろう。




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