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(更新7)

【ガンズ】


昨日は有意義な時を送った。


特に公爵様の盟友であるゴーレムマスターなる人物。錬金術を突き詰め、機械魔術という進化形、謂わば新しい魔法系統を生み出したのだから凄い功績だろう。


途中からヴィーシャは耳を塞いでいたが。


ああいった話は俺よりもヴィーシャが傾聴すべき内容だろうに、魔法使いが魔法の話を聞かないというのはどうなのか?


「話が長過ぎよ」


とヴィーシャは憤慨していたが…いや傾聴すべきだろう。


ミーシャに教えてやろう。錬金術の頂点を極めた者の話だ、参考になるだろうからな。


通りを渡り、クラウスの店に入ると、武器の棚を見詰める男の姿があった。


「ミルズじゃないか、休憩か?」


「…あ、ガンズさんこんにちわ」


「武器か?何が得意なんだ?」


「いや、特には…見てただけで」


それじゃあ、とミルズは出ていった。


「最近顔を出すんじゃが、知り合いかの?」


クラウスがパイプを吹かしながら訊いてくる。


「新しく宿屋の下働きになった男だ。冒険者になりたいらしい」


「ミノタウロスが冒険者志願か、世の中変わったもんじゃ」


「ミルズは何を見てたんだ?」


「剣じゃよ、手に持っては首をかしげておった。気に入らんかったのかの?」


ミルズは剣の心得があるのだろうか?


使った事があるとは思えない。そんな機会が無いからだ。


どこの村にも骸骨兵が何体か常駐していると聞く。なら例えば村に魔物が現れたとした場合、まず骸骨兵が対処する。


倒し切れずに逃した場合、冒険者に話がくる。


つまり村人が魔物と戦う事がまず無いと云っていい。


「首をかしげていたのは使った事が無いから判らないからか。自分に合うかどうか」


「たまにおるな、そういう手合い。稽古してから選んでほしいもんじゃ」


「話は変わるがミーシャは?」


「ノラと出ていったぞ、息抜きに」


ミーシャは視力の事もあって一日中店から出ない事が多いそうで、身体を動かす機会が無い。それで最近はノラに連れられて市場などに行くのだという。


「そうか、じゃあまたにするか。凄い錬金術師の話を聞いたから教えてやろうと思ったんだが」




────────


食堂を出て部屋に戻る時、ふと気になった俺は裏の空き地に足を向けた。


空き地は冒険者が訓練をする為だけでなく厨房や風呂場で使う薪を置いている場所でもある。


薪を割る小気味良い音が聴こえている。


ミルズが手斧を振るい薪を打つ音だ。


割れた薪が山になっている。もう今日使う分は充分にみえる。


それでもミルズは薪割りを止めない、一心不乱に手斧を振るっていた。


「ミルズ、そうじゃない」


俺が掛けた声に驚いたミルズが振り向いた。


「薪を『割る』んじゃない、『斬る』んだ」


俺は近寄ると丸太を縦ではなく横にした。


「縦に割るんじゃ訓練にならない、この状態で斧を叩き付けるんだ」


「ガンズさん…」


「貸してみろ」


俺は手斧を受け取ると丸太に向かって強く打ち付けた。


バキリッ、バキリッと丸太を抉っていく。


このやり方は手首を鍛えるのに役立つし、剣の振り方を覚えるのにもいい。


やがて丸太は二つに折れた。


「やってみろ」


ミルズが手斧を打ち付ける。きっと衝撃に手が痺れているだろう。


「休むな、もっと速く!同じ場所に当てるんだ」


コツを掴んだのかミルズの打ち付ける音が良くなっていくのが聴こえる。


木こりが木を伐るリズムよりもずっと速く打たせた。そうでないと訓練にならない。


丸太を三本も打ち終えた時、ミルズは汗だくになっていた。


「よし、終わりにしよう。腕は大丈夫だな」


「…はい、ガンズさん…でも何で…?」


息のあがったままでミルズは問い掛けた。


「クラウスの店でどの剣を手にしてもしっくりこなかったんだろう?」


「…そうです」


「ミルズ、訓練をしなければ自分に合った剣は見付からないものだ」


ハッとするミルズに、俺は続けた。


「その気があるなら稽古をつけてやる。俺のパーティーの仲間にも声を掛けてやるよ、もし本当に冒険者になりたいならだがな」




────────


「…それでこうなった訳?」


数日後、空き地で十人程の男女が木剣を振っている。その中にはミルズの姿もある。


あの後俺は妃殿下と話をつけた。


冒険者志願はいつもそれなりにいる。しかし何の訓練も無しにダンジョンに入り手痛い目に合う者は多い。死ぬ者はもっと多い。


冒険者を引退した者や手空きの者を使って新人達を訓練してみてはどうか、ギルドの代表である妃殿下にそう話を持ち掛けたのだ。


ギルドで訓練の希望者と指導者の両方募集をかける。


希望者からいくばくかの授業料を取ればギルドが払う指導者への報酬も負担が少なくて済む。


指導者が代わっても何を教えるのか前もって予定を決めておけば、無駄も省ける。


…と妃殿下に提案し、聞き入れてもらった。


今、俺とヴィーシャが見ている光景がその成果だ。


「よし休憩!休憩後は組になって打ち合いをする」


指導者はチャーリーだ。他に二人程うちとは別のパーティーから前衛が指導に当たっている。


チャーリーなら常駐出来るし、治療院は目の前だから急患が来ても大丈夫だ。


「よっ!お二人さん」


見学していた俺達のところへチャーリーがやって来る。


「悪かったな、巻き込んでしまって」


「いやぁ、逆に助かるよ。丁度今の時間は治療院が暇なんだ、いい稼ぎになるんでね」


そう言ってもらえればありがたい。


「しかしあれだな、前衛の訓練ばっかりじゃ良くないと思うぜ?後衛にもこういうの必要だろ」


まぁそうなんだが、そこはギルドが考える事だな。


チャーリーは俺達とのお喋りで時間を潰しながら、訓練生全員の疲労の回復具合をみていた。


「よ~し、それじゃあ休憩終わり!二人一組で打ち合いだ。片方が防御、後で攻め手を入れ替えるからな」


「…結構さまになってるわねチャーリーは」


ヴィーシャが言うようにチャーリーが教え上手だったのは嬉しい誤算だった。


しばらく訓練を眺める。ミルズもうまくやっている様で安心した。




【サウル】


「…アドレア・イルベ・ゴース各国の我国に対する印象は概ね良好とみて良いと謂えるでしょう。次に…」


文官が報告を読み上げる。


この会議室に集まった面々、領地を持たず王都に暮らす貴族達や王宮に働く文官達の姿を、余は見渡す。


国境を隣接する三国に関しては、まずまずの報告があがっていた。


やはり回復魔法技術を開放したお陰だな、まぁ一部ではあるが。


回復魔法の全てを開放しては我国の優位性が失われる。いずれ開放するとしてもまだまだ先に延ばしておく事にしよう。


「…次に王家直轄領の税収の件ですが、陛下御成婚の恩赦として…」


まぁ今年の税収は見込めない。結婚祝いというやつだ。


…しかし結婚祝いとは結婚した方が貰うものではなかったか?


などと頭をよぎるが、国王だからな、致し方あるまい。これで民草がありがたがって奮起すれば来年度の税収は良くなるだろう。


「…では、質問、提言なども出尽くした模様ですので」


陛下、と文官に促され会議を終了する。


皆、思い思いに席を立ち、部屋を後にする。


「陛下!」


呼び止めたのは従姉上の父親。


先日領地から上都してきた時はいよいよ息子に後を継がせて隠居願いをするのかと思えば…


「陛下。聞きましたぞ、未だ妃殿下が王宮に住まわず、あまつさえ下々に混じって宿屋暮らしとは」


…これだ。


なるほど従姉上を勘当する訳だ、頑固親爺め。


「フェレグラン伯、息災でなによりだ。御子息には婚礼に参じて貰い感謝する。時に領地経営は順調の様だが、そろそろ息子殿にも領地経営を教える頃合いではないのか」


つまり…さっさと隠居しろ。


「息子にはまだまだ家督は譲れませぬ、そんな事よりも妃殿下の事です」


「奥は今新しい仕事に就いている。非常に重要な役目だ。その為王宮に戻るいとまは無い」


「冒険者などという下賤の輩の相手をするのが重要ですか!」


その下賤の輩の一人は貴様の娘だが?


「重要である。冒険者は非常の際に員数外兵力となる。常設の兵に食わせるのは予算が掛かるが員数外だからタダだ。それともフェレグラン、貴様が常設軍を養うのか?」


全く頑固者は困る。


渋い顔をするフェレグラン伯爵を後にして執務室へ足を運ぼうとすると、今度は気障ったらしい男が色気を振り撒く年増女と一緒に待ち構えていた。


「ドレスデン男爵か、珍しいな。賄賂なら要らんぞ?」


まぁ国王たる余に賄賂を寄越すアホは居るまいが。


「お戯れを陛下、舌鋒の鋭利なる事、御健勝の証で御座いますなぁ」


慇懃無礼というやつだ。


「何用か?会議では大人しかった様だが」


「はっ、陛下におかれましてはこの度奴隷売買の税を設けると…商人どもより陳情されておりまして」


「なにも全てに掛ける訳ではない。炭坑など労働用ではなく、従者などの奴隷に対してだ。贅沢品に税を掛けるだけの事」


鬱陶しい。


奴隷に関しては『万民協和』が進まぬ。


ドレスデン男爵と別れ、その場を後にする。


はて?一緒にいた女は何処かで見た様な…


…思い出した。


ヴェラ・ドーラン子爵夫人。


夫ドーラン子爵を殺した…らしい未亡人。らしいと云うのは証拠が無いからだが。


『人狩男爵』と『毒夫人』が?


…なかなか不穏だな。後で狐に探らせるか。




────────


執務室で書類整理を終えて一息。


子猿が茶を持ってきおった。


「待て子猿!…そこの応接卓に茶を置け」


「…信用されてない、そうそう転びま…おっとっと!」


言ってるそばから転びそうになるな!


「全く、その粗忽さはいつになったら治るのやら」


「ひどい!それに私は子猿じゃありませんサーラです、名前あるんです!」


「うるさいだまれ却下だ粗忽さが治らんうちは子猿で充分だ」


しとやかになれとは云わんがもう少し落ち着け。


「あぁ、後で宿屋に行くからな、爺とゴルに伝えよ」


…さて、応接用の卓に座り茶を頂きながら国誌を書くか。


順番でいえば巨人族の説明だな。



《オーガ》


我国に最近入植をした巨人族。


知的種族中、最大で身長3メートル前後、ヒューマンに換算して十人力を持つと謂われる。


外見はヒューマンを巨大化した様だが非常に発達した筋肉と厚みの有る皮膚を持つ。


寿命は二百年と謂われるが寿命で死亡した個体例が少ない為確実性に乏しい。幼年期は十五年程。


〈補足〉


古の巨人族から分化した種族の一つで狩猟種族。


大陸北方に散在しており、他の巨人族末裔に比べても身体が大きいのは寒冷地に適応したものと推測される。


『人喰い鬼』などと称されるが知的種族を食用に用いた報告は無く風聞の類である。


性格は闘争本能が高いものの平時は温和で他種族と協調性を持つ。



《ミノタウロス》


大陸全土に分布する巨人族。


身長は二メートル半。頭部は牛に似て角を持ち、頭部から背面は腰の辺りまで短い毛に覆われている。


寿命は百五十年程、幼年期は十五年程。


〈補足〉


大陸全土に広く分布するが本来は南方が元々の生息圏。


古の巨人族末裔では最も繁栄しており、その理由は農耕種族である事に起因する。


その為ヒューマン以外を『魔族』と称する東側諸国においても比較的差別対象になっていない。


性格は温和。菜食を中心とした雑食。



《サイクロプス》


山岳地帯に好んで住む巨人族。


身長二メートル半、単眼で足よりも腕が長く、他の巨人族に比べやや細身の体形。


寿命は百五十年程、幼年期は十五年程。


〈補足〉


山岳地帯、特に鉱山に住む事を好む巨人族。


鉱山ではドワーフと共存し、鉄工業などに従事している。灰褐色の皮膚は山地での保護色として進化したものと思われる。


性格は寡黙、ドワーフ以外の知的種族にはやや排他的傾向がある。




────────


ふうむ…巨人族についてはあまり情報が無くてよく解らんな。もう少し詳しく書きたいところだが。


ヴァンパイアやドラゴニュートと共に古い種族なのだが…。


ヴァンパイアとドラゴニュートは覇権を争う仲だったが、巨人族はそういう事に興味が無かったらしく、接触が少なかったのだ。当然情報が乏しくなる。


それぞれ生活圏が違うから、ゴルなどに訊いてもミノタウロスやサイクロプスの事など知らんのだろうしな。



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