(更新9)
【ドラス】
ヴァンパイアは怠惰にして享楽的、その長なれば毒舌と奸計の権化なり。
「ドラスと云ったな、近こう」
妃殿下との晩餐の席にて国王陛下、我を呼びつけ。
「…聞けばそなた、奥の兄だというではないか。では余にとっても兄、やはり『義兄上』とお呼びした方がよいかな?」
何を考えているのか?新しい暇潰しであろうか?
「殿、ドラスは妾の兄ではありますが、臣の立場で御座います。あまり虐めないで下さいまし」
「おぉそうか。何、奥の宿屋暮らしを気に入らん輩が居ってな、ならば義兄殿を粗略に扱っては更に五月蝿い事になるかとな」
「まぁその様な御方が?」
「従姉上の父親、フェレグラン伯爵だ。頑固親爺でな、義兄殿の事を知ったら王宮に住まわせろと言うかもしれん」
…御免被る。
「あぁ狐、調べものを頼む。『人狩男爵』と『毒夫人』が組んだらしい、きっと面倒事を起こすはずだ」
────────
「それで『人狩男爵』と『毒夫人』とは何者ですか?」
妃殿下の御下問に女狐答えて曰く。
「『人狩男爵』ドレスデン男爵ですわね、呼び名の通り奴隷売買で財を成した御方です。『毒夫人』はドーラン子爵夫人、未亡人でドーラン子爵を毒殺されたと噂される女性です」
「殿は組んだと仰られました。しかし今の説明を聞く限り小物では?陛下が気になさる程の事でしょうか」
「小物ですわ両者とも。ですが小物程大それた真似をなさります」
「なるほど陛下が気になさる事なのですわねチャルさん」
「妃殿下、チャルとお呼びつけ下さい、もしくは狐と」
「…では我等のみの時には狐と呼びましょう。狐、そちらでも調べるでしょうが、こちらでも手を打ちます。ドラス」
「はっ、妃殿下。各々の屋敷に手の者を潜らせます」
『よろしくねドラス兄様』
…妃殿下にヴァンパイアの遊び癖がつくとは嘆かわしき事なり。
【ガンズ】
「それじゃあ、その容器も公爵様の御友人の方がお作りになったんですか?」
「多分そうだろう」
クラウスの店、ミーシャに公爵様の研究室で見聞きした事を話して聞かせた。
ミーシャもやはり錬金術師のはしくれ、公爵様の盟友『ゴーレムマスター』なる人物の話には興味がある様だ。
「そこまでいくと錬金術の常識から外れてますねぇ、突き抜けているというか、極めた人のやる事って理解の範疇を越えてます」
ミーシャによれば錬金術は呪符や刻印等による道具への付与魔法が本分だが、他の魔法系統が手を出さない様なものまで取り込んでいるので、子供の玩具箱みたいに雑多なものになっているそうだ。
「生体合成…合成生物を造るのも錬金術の一つですから」
公爵様も合成生物を造る事に取り組んでいる。それに転移陣も利用してるから錬金術にも明るいのだな。
「でも円筒形の保管器とか、その丸い培養器とかですけど、錬金術では紋章工学、合成生物は生体工学といって別分野なのに、一緒にしちゃってるんですねぇ」
どうやらこの二つは元素魔法と死霊術くらい違うらしい。
「錬金術は細かくみたら別系統のものがいくつも雑ざっていますから。普通は一つの系統を専門にするものですよ」
「つまりミーシャからすれば、公爵様もゴーレムマスターも突き抜けた存在な訳だ」
「そうですね、公爵様はまだわかるんですよ、錬金術の中から使えるものだけ拾って覚えた感じで。そういう人もいますから」
「まぁ専門じゃないからだろうな」
「えぇ、でもゴーレムマスターさんは錬金術を進化させて機械魔術を創った訳でしょう?それっていくつもの別分野が混在している錬金術を一本に纏めたって事ですよね」
うわ~、とミーシャが呆れた様な声を出す。
「信じられない。私には出来ないですね~」
「そんなに難しいのか」
「う~ん、ガンズさんは料理と掃除を一度にしませんよね?例えやれたとしても」
料理に集中すれば綺麗にならず、掃除に専念すれば料理に埃が入る。
「つまり一度に両方巧くやってる様なものか」
「…面倒くさいでしょ?」
「面倒くさいな」
二人で笑っていると、ノラがやって来た。どうやらまたミーシャを連れ出すらしい。
「ガンズさんも一緒に行くか?」
ノラに誘われたが邪魔になるだけだな。二人を見送ると俺はクラウスを呼びに行った。
【サーラ】
初めて来た王都は凄い人の数だった。
世界中の人が集まっているのかと錯覚する程だ。
「ほぅ、侍女見習いと?」
王宮で私に応対してくれたのは豪華な甲冑に身を包んだ骸骨だった。
「はい、これは父、墓所の森居留地の族長からの紹介状です」
「うむ、紹介状は陛下へ手渡すのがよろしかろう。ではこちらへ」
長い廊下。
すれ違う侍女の姿と自分の格好を見比べると、一番いい服を着て来たのに見劣りする気がしてならなかった。
骸骨の人に連れられて『執務室』という部屋に通される。
…誰もいない。
「若?…はて、何処へ行ったやら」
暫し待たれよ。そう言って骸骨が出て行き、独り部屋に残される。
広い部屋。
書架に並ぶ重そうな書物、陽の当たるどっしりした机、応接卓と柔らかそうな長椅子…
座って待ったら失礼よね?
「…エルフ?何故余の執務室にエルフが居るのだ?」
書架の脇にあった扉が開く。
初めて会った時から全く変わらない姿で、『陛下』がそこにいた。
「誰の許しを得て入って来た?」
「お、お久しぶりです!サーラです」
「………誰だ?」
ぁああ!しまった、考えてみれば覚えているはずがないじゃない!
「し、失礼しました!墓所の森居留地、族長の娘サーラと申します。陛下には二度程お会いした事がありまして!」
陛下は首をひねり…気が付いた様な顔をした。
「あぁ、ちびっこい子猿みたいなのが居たな」
「ち、ちびっこい?」
陛下だってちびっこかった…いや今もちびっこいのに!
「随分大きくなったな、で?何の用だ?謁見なら終わったぞ、明日謁見の間に来い」
「いえ、そうではなく…あ!紹介状!」
慌てて紹介状を取り出し陛下へ渡す。
「何だこれは?…………ふん」
陛下が読み進めていくうちに先程の骸骨の人が戻ってきた。
「若、どちらに居られたのですか?あぁこちらは墓所の森の…」
「爺が連れて来たのか…ちょっと待て、今紹介状を読んでる最中だ」
読み終えた陛下が私をじろじろと見て言った。
「侍女見習い…行儀作法がなっとらん…あぁ、行儀作法を覚える為に来た訳か」
爺、狐を呼べ。
爺と呼ばれた骸骨の人が下がる。…狐?
「ちょっと待ってろ子猿」
こ、子猿?
「お呼びですか陛下」
扉を開けて入ってきたのは落ち着いた感じの女性。
「狐、そこにいるのは侍女見習いで来た子猿だ。お前が躾ろ…余付きの侍女にする」
「はい陛下、ではこちらへ」
…こうして、私の王宮勤めが始まった。
────────
「子猿、茶をもて」
「子猿、文官に書類を届けよ」
「そうじゃない子猿!」
今日も今日とて陛下に振り回されている。
「陛下、子猿じゃありません!いい加減サーラって呼んで下さい」
「…奥が作った菓子を貰って来たぞ。お前も食え子猿」
「わ!美味しそ~ありがとう御座います…って誤魔化された!」
あの日の夢はまだ視るけれど、あの道は今日に、陛下との日々に続いている。
【ドラス】
一週間後、妃殿下と陛下の晩餐の席にて、我等報告を行う。
「まさか奥までこの話に興味を持つとはな」
「殿、抜け駆けは寂しゅう御座います。楽しい事は妾も御一緒したいですわ」
策謀事は妃殿下の才覚なれど、楽しみと御感じなさるとは陛下に毒されておる兆しなり。我心配す。
「それでは御報告します。ドレスデン男爵は近年奴隷売買に行き詰まり、資産を減じております」
『万民協和』にて国内での人狩の禁止を受け、他国から買い付けるも、先の光神教内乱にてアドレア・イルベ・ゴース三国との同盟によりて『仕入先』更に遠国となる。
「…という訳で、犯罪奴隷ならば三国から買い付けられますが、儲けの出る人狩を東側諸国に求めますと輸送コストが高くつきます。更に陛下の予定されています奴隷売買税、男爵には痛手かと」
「…なるほど。ドレスデンが余に歯向かう理由にはなるか」
個体名チャルの報告に続き我報告す。
「子爵夫人ヴェラ・ドーランについて報告します。子爵亡き後夫人は資産を散財している模様」
夫毒殺は風聞なれど『火の無い処に煙』の諺あり。
夫人の散財止まる処を知らず。
家産を傾けたる夫人、有力なる商人に接触し新しき夫に迎えんと欲す。
「よくある話だな、爵位を自分が嗣いでから引っ張り込むつもりな訳か」
「しかしながら、首尾は思わしくない模様です」
当然の事ながら、商人ども風聞を知り、事の正否を調査するに夫人甚だ黒に近き灰色なり。
「まぁ物的証拠が無いだけだからな、尻込みするだろうよ。それで二人が繋がるか」




