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(更新15)

【ガンズ】


昼飯を済ませてクラウスの店に寄った。


店内にはザップとノラ、そしてミーシャ。


「いつもの顔ぶれだな。他に行く所は無いのか二人とも」


「そう言う旦那だって来たじゃねぇか」


「俺は用事だ。ミーシャ、籠手を持ってきた。手直しを頼む」


ミーシャには月に一度くらいは手入れをする様に言われているが、何処をどう弄ればいいのかさっぱりだ。


なのでミーシャに頼んでいる。ミーシャが言った事だし、修繕費をケチって戦闘中に壊れては困る。


「今日は?クラウスは居ないのか?」


クラウスが居たらノラがミーシャを外に連れ出すからな。


「親父さんは鉱山街に仕入れ。ミルズ達がついてった」


新人達に護衛依頼を頼んだそうだ。おととい料理を軽く教えたのはいいタイミングだった様だな。


クラウスが居ないから二人ともここでたむろっている訳だ。


「ヴィーシャは研究会、エドはチャーリー達の手伝い、ドラスはチャルさんと打合せらしい」


店内にミーシャのタガネを打つ小さな規則正しいカツカツという音が響く。


「あぁチャル女史は今日から宿屋勤めか、じゃあリリアが大人しくなるな」


サーラは明るいがあちこち気を散らす癖があって失敗をよくする。それを見て後輩のリリアがイライラする。


「サーラの失敗を笑って受け止められないうちは王宮勤めなんか無理だぜアイツ」


「でも確かにサーラさんを観てると私でもハラハラする、あれは心臓に悪い」


滑って転んだ拍子に熱いシチューが宙に舞うからな。


「サーラ姉さんはこの国に来る時、足を痛めたんですよ。姉さんは忘れているらしいですけど」


子供の頃で覚えていないらしい。ミーシャはサーラの父親から聞いたのだという。


「…そいつぁ悪かったなミーシャ、笑っちゃいけねぇ話だった」


「いえ、姉さん自体覚えてない事だし、他の種族ならたいした怪我じゃないそうですから…はいガンズさん終わりましたよ」


他の種族ではなんでもない事でも、その種族にとって大変な事や大切な事か。


普段気にしていない事だが、多種族で構成されているこの国ではもう少し気を付けないといけないだろう。




【サウル】


狐が茶を運んでこない…


とうに茶の時間は過ぎている。ふむ、忙しいのかもしれないな。


まぁいい、少し王宮を歩くとするか。


「やぁサウル」


廊下で叔父貴が魔法使いらしき数人と話をしていた。


余に気付いた魔法使い達が頭を下げる。


「叔父貴、今日は…あぁ研究会だったか。皆の者、大儀だ。これからもよろしく頼む」


…従姉上の姿が無いな。


「従姉上はもう帰ったのか。あれだな、フェレグラン伯と顔を合わせる前に逃げたな」


「ヴィーシャなら今日は来てないよ?ダンジョンに行ったんじゃないかな…でもちょっと珍しいね」


「珍しい?」


「研究会を休む時は事前に連絡してくるからねヴィーシャは。律儀なんだよ。まぁ彼女でもたまには忘れる事もあるか」


叔父貴とは新しく開発したという軍用合成生物の話を聞かされた。


「なかなかに好評価という訳だな?ふむ。で?名前は?」


「…まだ考えてなかった」


余に溜め息を付かせるのは子猿と叔父貴くらいのものだな。


「頼むぞ叔父貴、正式名称が無いと書類決裁が出来ぬのだ」


早急に名前を付ける様申し渡し、叔父貴と別れて厨房に向かう。


本来、国王が王宮の厨房に顔を出すなど他では有り得ないが、狐が茶を持ってこなかったので小腹が空いたのだ。


「狐、おや?ここにも居らぬのか」


「これは陛下!この様な場所に来られるとは思いませんで」


熊の代理の料理番が冷や汗をかきながら余に挨拶をする。


「大儀である。時に、狐を見なかったか?」


「狐?…チャル女官長でしたら宿屋に参りましたが?本日は交代の日でございますから」


ぬ?


では狐ではなく子猿が居ないという事か?


「じゃあ子猿はどこだ?」


「子ざ…サーラですか?いえ、私どもはまだ見ておりませんが」


なんだ?何処かで道草でも食っとるのか?いや猿だから食うのは木の実?


厨房を後にして窓の外に目を向けると陽も傾いてきている。


…おかしいな?


「爺、爺は何処だ!」


余の声を聞いて現れた爺に使いを頼む。


「爺、子猿がまだ王宮に戻っておらぬ。宿屋に使いを出して確認せよ」


きっと子猿は何かあほらしい事で遅れているだけだ…


…そうに決まっている!




【ガンズ】


夕方、ミルズや新人達が居ない裏庭で独り訓練をしていた。


やはり手入れのされた後は籠手が軽い。ミーシャのお陰だな、今度美味いものでも差し入れてやろう。


「ガンズさん!」


ノラだ…なんだか様子がおかしい。


ノラはあまり顔に感情を表さないタイプだが、心配そうな、心細そうに見えた。


「どうした?」


「主人がまだ帰って来てない、こっちに顔は出してないか?」


「ヴィーシャならまだ王宮じゃないのか?」


「研究会はもう終わっている時間だ。公爵様に捕まらなければ遅くならないと言っていたんだ」


でも公爵様と連絡の取り様が無いと言う。


少し心配し過ぎだとは思うのだが…


「じゃあ…公爵様のところに行ってみるか?」


ノラを連れて厨房へ、熊さんに声を掛ける。


「熊さん、転移陣を借りるぞ」


「なんだいガンズさん、あんまり気軽に使われると困るんだよ」


「済まん、急用なんだ。すぐ戻るから」


渋い顔の熊さんに謝りながら、ノラと転移陣に乗った。


「こんなところから行けるなんて」


「内緒だぞ?」


転移陣が作動し、公爵様の部屋をノックした。


「…なんだい熊さん、夕食には早い…あれ?ガンズ君?」


「急に押し掛けて申し訳ありません公爵様。ヴィーシャが伺っておりませんか?」


「ヴィーシャ?今日は会ってないよ?ガンズ君達今日はダンジョンじゃなかったのかい?てっきりそれで休みかと」


「…公爵様?研究会にヴィーシャは行かなかったのですか?」


「主人は行ったぞ?部屋の前で見送った。サーラさんと一緒に歩いて行ったんだ」


サーラと?


「今日はあのそそっかしいエルフが王宮にいたのかい?気付かなかったよ、いるとキャアキャア聴こえてくるからすぐ判るよねあの娘」


俺はノラと顔を見合わせた。


「失礼します公爵様…ヴィーシャを探さないと」


「どういう事?…あ、ちょっと?何かあったのかい…お~い!」


厨房に俺達が戻った時、王宮からの使いが丁度来たところだった。




【ヴィーシャ】


………………暗い


………何も…見えない


……浮遊感…


「…なんで…」


「……ですが…」


「…王宮の…だ…」


…遠くで…


……聴こえる…


暗い……


「ヴィー…おき…」


「…さまうるさ…」


ヴィー…?


「ヴィーシャさ…」


……ヴィーシャ?


ヴィーシャ?…ヴィーシャ…


人の…名前…ヴィーシャは…




私の名前だ。




「ヴィーシャさん目を覚まして…キャッ!」


「黙れと言っただろう!…おい、こいつに猿轡を噛ませろ」


「やだ!やめ……クッ」


「全くこんなのを侍女に使ってるんだからな…」


「こっちの娘は縛らなくても大丈夫なんですか?」


「あぁ、念入りに術を掛けてある。私の命令無しに目覚める事は無い。では行くぞ」


……術?


覚醒した意識の一部で、精神魔法を掛けられた事を思い出す。


身体が動かない。


私はむき出しの地面に、俯せで倒れている。


鉄の扉が音を立てて閉じたのを感じる。


私の倒れている地面は柔らかい。


『対抗』


精神魔法を掛けられた時、無意識に自分に掛けた精神魔法『対抗』。


意識がはっきりしてきた。


ヴァンパイアの中でも王族とその血脈に連なる者だけが持っている『対抗』が効いてきたわ。


精神魔法はヴァンパイア特有の能力。


元々血狩の為の能力だけど、過去、ヴァンパイア同士の戦いでも使われた。


だから王族の血筋は『対抗』を子供が幼いうちに徹底的に仕込む。私も亡き母から仕込まれた。


それは王族以外からの簒奪を拒む為の術。


身体はまだ動かない。


…待つしかないわね。




【ガンズ】


ノラに案内されて第二城壁内にあるというヴィーシャの家族の家に着いた。


ヴィーシャは貧乏貴族などと言っているが、充分大きな屋敷だ。長い年月を経た屋敷を観れば、ヴィーシャが旧家の令嬢だという事を実感する。


ノラがノックすると中から厳つい顔のヴァンパイアが現れた。


「む?…そちらのエルフは馬鹿娘の従者だったか?…何用か?」


この男がヴィーシャの父親か?彼はキョロキョロと辺りを見渡した。


「失礼します。フェレグラン伯爵とお見受けしますが?」


「うむ。そちらは?」


「私はガンズと申します。御令嬢とは親しくさせていただいております」


「…用件を伺おう」


「こちらにヴィーシャ嬢が参っておりませんでしょうか?」


俺は午前中にヴィーシャが研究会へ出向いた事、今になっても戻らない事、そして研究会に出席していない事を告げた。


「…放蕩娘め、何処をほっつき歩いておるのか。研究会というのは陛下肝煎りのものであろうに」


「ヴィーシャ嬢は無断で約束事を破る方ではありません。それは伯爵様も御存知のはず。それに」


ヴィーシャは王宮の侍女サーラと一緒に出掛けたのだ。


そしてそのサーラも行方が知れない。


俺の話を聞くうちに、だんだんフェレグラン伯爵の顔色が悪くなっていく。


「待たれよ!二人ともに行方知れずだと?」


「王宮から問い合わせがありました、侍女サーラは王宮に着いておりません…ヴィーシャ嬢と同じく」


伯爵は青ざめ、小刻みに震えていた。


「こちらには居られない様ですので、他を当たってみます。失礼します」


呆然とする伯爵を後に、俺達は屋敷を辞去した。


「ノラ、他にヴィーシャやサーラが行きそうな場所は?」


「サーラさんは判らない、付き合いが浅くて。主人は…」


ヴィーシャには書店と血液配給所以外に行き付けは無い。


既に当たって来ていない事は確認済みだ。


…手詰まりだ。





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