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(更新14)

【ヴィーシャ】


…もどかしい。


東門の連中が弓を使った事で獣は対応してきた。


ザップはノラに攻撃を許可した。もう出し惜しみするなと。


もっとも、私が攻撃に加わる事はまだ止められている。


東門パーティーには魔法使いが居ない。


つまり私は隠し玉って事ね…。


ガンズの予想通り、程無くして獣は三頭で群れを作り、私達を襲ってきた。


「次は群れにリーダーが生まれるな。そうなると戦術を考える様になる」


嫌な予想だ。でも戦闘に関してガンズの言葉は重みがある。


「そんなに早くリーダーが生まれるか?」


ザップの問いにガンズは言った。


「奴等はザップが俺達に指示しているのを見てる。言葉は解らなくてもな。だから真似するだろう」


「嘘だろ?俺のせいかよ」


「いえ、ザップ殿。向こうのパーティーにもリーダーはいます。ザップ殿のせいばかりではありません」


と、ドラスがフォローするけど、どうしようも無いわよね?烏合の衆より指示役がいた方が強いに決まっているもの。


獣達にリーダー役が出来れば加速度的に戦闘が厳しくなっていくわ。戦術を立て、戦術の幅が生まれる。


…それはもはや進化と言わざるを得ないでしょうね。


「戦闘の経験を共有するって事は思考もある程度共有しているだろう。ザップ、今まで何頭倒した?」


「十八頭だ。東門の連中が同じだけ倒してるんなら残りは十四頭。半分の七頭、多く見積もって十頭倒せば終わりになる」


ザップの計算にガンズは首を振った。


「問題がある。奴等は群れを作った。つまり数は力だと覚えた」


…つまり?


「つまり、残り全てが一つの群れになる…ヴィーシャ!」


魔法を飛ばせ、東門の連中を見付けるんだとガンズに言われ、私は空に向かって元素魔法の『爆破』を撃つ。


炸裂音が空に響いた。


「走りながら撃つわ!向こうも近付いて来るはずよ」


私達が獣達に対抗するには数を揃える事、つまり東門パーティーと合流する事。


最後の局面で私達と獣達の力関係は逆転した。


経験を共有するとは私達、そして東門パーティーの戦い方を全ての獣が覚えるという事。


何度も戦い犠牲が出ても獣達にとっては必要経費。


思考をある程度共有出来るならば、全ての獣は最適の行動、戦術を全ての脳を使って導き出せる。


きっと私達にも東門パーティーにも見張りをする斥候が付いているはず。


なら斥候の見聞きした情報は全ての獣に瞬時に知らされている。


…なんてものを造ったの叔父様は!


走りながら耳をそばだてる。目を凝らす。


………居た!


私は斥候役の獣に全速で詰め寄り獣の頭を叩き付けた。


ヴァンパイアの全速を目で追えるはずもなく、獣の頭は爆ぜる様に潰れた。


…これでこちらの動きを知らされずに済む。


更に耳をそばだてる。


見付けた!戦闘音!


「あそこよ!」


「ヴィーシャ!やっちまえ!」


ザップが言うまでもない、私は術式を組み『大気刃』を放つ。


既に東門パーティーは囲まれていた。獣はおそらく残り全て集まっている様だ。


『大気刃』の軌道に重なった三頭程が一度に首や胴体を両断され、囲みの一角に穴が空いた。


そこを押し広げる様に東門パーティーが動き、ガンズとエドが躍りかかる。


ガンズの籠手が、エドの剣が、東門パーティーの攻撃と連携して獣を倒すなか、私は周囲を見渡す。


『大気刃』!


戦場から離れた灌木の陰、隠れて状況を伺っていた一頭に向かって飛ばした魔法を、私は追い掛ける様に走る。


こちらの魔法に気付いた獣が避ける為に高く跳び上がる。


全速で詰め寄っていた私がその獣と並んで跳び上がるのを獣は見る事が出来ただろうか?


『サーバルの鳥落とし』


昔々、ブレスを吐こうと低空を翔ぶドラゴニュートを地面に叩き落としたヴァンパイアの常套手段。


地面に潰れた獣は思った通りリーダー役だった。


状況を把握する為に戦闘から外れているはずと踏んで探していたのよ。


突然リーダーが倒された獣達は統率を失い動きが乱れていく。


「終了~!終了だよ~!」


突然叔父様の声が響き渡る。


残った獣達は一瞬で消えた。多分叔父様が転移させたのだろう。


「お疲れ様~、いやぁ、いい経験を積ませて貰ったよ。ありがとう」


森の中から歩いて現れた叔父様。


ザップや東門のリーダーに報酬を渡しながら皆を労い、戦ってみた感想を聞き取り始めた。


…どうでもいいけど叔父様?


登場した時とだいぶ差があるんじゃないかしら?




────────


「じゃあガンズ君、ヴィーシャ、感想を訊かせてほしい。ありのままにお願いするよ」


あれから宿屋に帰った後、叔父様に呼ばれまた研究室に来ている。


…一休みさせて欲しいわ。


「忌憚無く評価させていただければ、素晴らしい出来です公爵様」


ガンズの言葉に叔父様は満面の笑顔を見せる。


「本当かい?お世辞じゃなくて?いやぁ戦闘のプロから太鼓判を押されると嬉しいね、どこが良かったかな?」


「まず、自分で学ぶ点。短期間に群れを作りリーダーの指示で動ける様になったのは素晴らしい。軍用として充分な能力です」


む?と眉をひそめる叔父様。


「次に経験を共有出来る点。先の指摘と似ておりますが、多少の犠牲を払えば全ての獣が問題に対応出来る」


むむ?と口がへの字になる叔父様。


「そして、これを一番評価させていただきますが思考を共有出来る点。離れた斥候からの情報が瞬時に伝わり、また全ての脳を使って最適解を導ける」


むむむ?と唸る叔父様。


やがて大きな溜め息を付いて叔父様は頭を抱えた。


「駄目じゃないかぁ~!それ全部訓練を早く理解させる為のものであって、このコの元々の能力じゃ無いよ?」


…………あ。


それは確かにそうね。


「でも叔父様?それこそが私達にとって厳しい戦闘になっていった要因ですわ」


「そうです公爵様。獣の肉体能力は充分なものでしたが、あの能力はそれを上回る。必要不可欠と言えます」


「何か…釈然としないなぁ。それで肉体的な能力はどうだろう?」


「そうですね。初見の時、公爵様が最初に引き合わせた個体は動きが滑らかで自然でした」


ガンズが続ける。


「雪虎がベースになっているのがよく解ります。毛並みも黒茶に緑の縞模様、これは野外での迷彩として優れています。現に奇襲をかけてきた個体は直前まで気が付きませんでした」


ほぅ、と叔父様。


「戦闘能力も良好で、東門のリーダーは二度と戦いたくないと申しておりました。課題点としては今すぐ確かめられない事ですが、共通語をどれだけ理解出来るか?これは軍の作戦行動に関係しますので、確認された方がよいでしょう」


ふ~む、と腕を組み叔父様が答えた。


「なるほど、やはり頭の良し悪しが重要なのだね。いや、ありがとうガンズ君」




────────


三日後、ノラに声を掛けてから部屋を出た。


「じゃ、行ってくるわね」


「主人、帰りは?」


「遅くならないとは思うけどどうかしら、父や叔父様に捕まったら判らないわね」


今日は王宮での魔法研究会の日。


座長の叔父様には毎回会う訳で、叔父様が何か思い付いたり見せたい物があったりすれば否応なく付き合わされる。


ガンズがいれば叔父様のお守りに最適なんだけど。


さすがに研究会へ連れていっても仕方無い。自分が叔父様の相手をしなくちゃ。


父に関して王宮で顔を合わせるかは判らないわね。まだ領地に戻らないのかしら?


「あ、ヴィーシャさん、お出掛けですか?」


サーラとばったり出くわした。丁度食堂から出てきたのだ。


「おはようサーラ。王宮の研究会にね」


「じゃあご一緒しましょう、私も王宮に戻るところなんです」


今日サーラはチャルさんと交代の日なのだそうだ。


…まぁいいか。


普段サーラとは接点が無い。給仕される時くらいだ。


人懐っこいサーラはお喋りも好きな様で、訊いてもいない事までよく喋る。


「…だから言ったんですよ私…」


ノラの言う土歩きが苦手なサーラの為に極力ゆっくり歩く。


「…で、そこのお店に…」


歩く事に集中してくれればいいのにサーラのお喋りが止まらない。そのせいでサーラはよく躓く。


「あ、済みません!え~とそれでですね…」


躓く度に転ばない様支えてやる。『近所のお喋りオバサン予備軍』だわ…


またサーラが転びそうになって支えた時、それは起こった。


突然誰かに羽交い締めされた!


一瞬何が起きたのか理解出来無い!


驚いて見開いた私の目に飛び込んできたのは紅い二つの瞳。


その瞬間、頭に霞が掛かっていく。


…考えが纏まらない…意識が……力が抜けて…



…これは………精…神………まほ…。






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