そして彼らに夜がくる
どうもアゲインストでございます。
またも遅い時間での投稿となってしまいました。
申し訳ない。
今回はマチルダとベンのお話。
それではどうぞ。
「……行ってしまった、か」
マチルダは握っていた拳をほぐしながら、そう呟いた。
リーズがここを離れてから幾ばくかの時間が経ちもうそろそろ夜が顔を覗かせ始めようという頃合いであった。
こうして言葉を口にできたのはそんなにも時間が経ってからだったのかと、空を見て気付いた自分にリーズという男があんなことをいうのが存外衝撃であったのだなと、そんなことを思ってしまっていた。
「……何を考えているのだろうな、私は」
そもそも会って間もないような人物だ。それに対してこうも信頼のようなものをよせていたなど、おかしな話があったものだ。
「だいたい、ベンの奴が悪いのだ」
確かにケインの奴はこの街の問題だ。そこに部外者を巻き込んでしまったことは申し訳ないとリーズには思っている。
自分達がもっとしっかりしていればと、そう思ったことは何度だってある。
だがあの子が、ケインが抱える悲しみを考えると、どうしてやればいいのか分からなかった。
「あいつがもっと……いや」
悲劇こそが、そもそもの原因なのだ。
私たちにその悲劇を覆すことができなかったから、この街はこんなことになってしまっている。
情けない。
情けない限りだ、マチルダ・ボータン。
強くなったのは体ばかりで、仕事ができても本当に守りたいものを守れるようにはなれなかった。
ケインを変えられなかったのは、ベンだけのせいではないのに。
「でも、やっぱり分からないことがある」
マチルダはそこまで考えて、やはり納得ができないことがあった。
あの、リーズの急な態度の変化。
なんというか、あまりにも早急というか。
一刻も早くこの場を離れたいとでもいうような、こちらの神経を逆撫ですること言葉の数々。
それまでのリーズの行動のせいで溜めていた怒りが思考を鈍らせていたが、よくよく考えるとあいつは自分を怒らせてなにがしたかったのだろう。
そう思考を走らせていると、自分を呼ぶ声が聞こえてくるのだった。
「―――よう」
「お前……」
呼ばれた先でマチルダを待っていたのは、食堂の椅子に座っているベン・ブリッチであった。
その姿は今日一日見なかっただけだというのにとても様変わりしていた。
そんなベンの姿に驚いているマチルダに構わず席に着くことを進めてくる。
何を聞くにもとりあえず座ってからと思った彼女は促されるままに席に着くのだった。
「リーズの奴はいねぇのか?」
「いや、それよりもその格好はどうしたのだ。まずはそれを話せ」
どう見ても傷だらけの癖になんでもないことのように話を始めるベンに、マチルダはまずはその格好の理由について聞き出すことにした。
ベンはああこれか、と机を挟んだ先で両腕を広げて見せる。
擦り傷切り傷、いたるところに怪我を負っているというのにまるで堪えた様子のないベンの姿はまるで以前のような、右足に傷を負う前に近い気力に溢れた姿である。
「ちっとばかし、錆びを落としてきてたんだ」
「錆びって」
「まあ、実戦だわな」
そう言われて服の傷の中にいくらかの血痕が残っているのが見えた。ベンの様子からそれが彼のものではなく、戦っていた相手の返り血であることが窺える。
「魔物相手にそんなになるまで……」
「まあ、久々に動いて色々わかったことがあってな。夢中になってたらこんなになってたよ」
戦いの中で何が確認できたのだろうか。
足の不自由がない自分では想像できないことなのは確かだろうが、それにしたってここまでのめり込むことになるなど、何かがあったに違いない。
「いったい何があったのだ?」
「いやな、俺なりに今回のことについて考えてたんだよ。流石に今回のケインの奴はやり過ぎだってな。俺たちで庇える範囲を越えちまったんだと、そう副長とも話をつけてな」
んでな、決めたんだわ。
「明日、俺はケインの奴と剣を交える」
覚悟のある瞳をしている。
そう、マチルダは感じた。
実際そうなのだろう、わざわざ私に言いにきたのはこのことについてなのだろう。
「邪魔をするな、ということなのだろう?」
「ああ、リーズの奴にも伝えておこうと思ったんだが」
「生憎、愛想を尽かされてしまってな。出ていってしまったよ」
「はぁ? 何だってそんな……」
「俺は自由にさせてもらうとも言っていたな。耳に痛いこともさんざん言われたよ」
しかし、何だかタイミングがいいように思える。
まるでベンが来ることが分かっていたから姿を眩ましたかのような、そんな意図があったかのようなリーズの動き。
あまりにも急すぎるあの男の行動に疑問を浮かべていたマチルダは、しょうがねぇなというベンの声で意識を正面に戻した。
「まあ、それなら仕方ねぇ。ちょっと言っときてぇことがあったんだが」
「会うことがあれば伝えておくが?」
「いやいい、自分で言わなきゃなんねぇことだからよ」
邪魔したな、と。
最後にそれだけ残し、ベンは席を立ちあがって食堂から立ち去っていった。
幼馴染みの頼みだ、せめてその願いを叶えてやろう。
だがそれが本当にケインのためになるのか、マチルダはリーズの言葉を思い返しながら考えいた。
そしてそれぞれの夜が来る。
覚悟を携えた剣士。
悩む女傑。
その影で暗躍しているのは、善からぬことを企む付与士である。
何が起こるかなど、それこそ起こってみなれば分からないことであった。
読了ありがとうございました。
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