ベン・ブリッチは準備した
どうもアゲインストでございます。
こんな時間になってしまって申し訳ないです。
今回はベンのお話。そして新しい展開の始まり。
それではどうぞ。
できれば話をしたかったな、と。
クランで所有している建物へ向けて夜道を歩きながら、ベン・ブリッチはそう頭の中で呟いた。
リーズ・ナブル。
冒険者ギルドであの男に会ったときに感じた、他の者とは趣が異なる感覚。それに従ってちょっかいを掛けてみたのだが、予想以上に頭が回るようで、たちまちの内にギルド員から報酬を巻き上げた。
自分の演技もあってのことだろうが、初めて訪れた土地であっただろうにこうもやってのける胆力が気に入り、食事に誘った。
話を聞いてみればなかなか面白い経歴を持っているようで、なんとあの魔鋼級冒険者であるユルゲンとも交流のあるという。
まあどこまで本当かは分からなかったが、その後のケインの襲撃に対応し、いうだけの実力はあると納得できた。
だから、こう思ってしまったんだろう。
「チャンスが来ちまったなんて、そんな都合のいいことなんてあるわけねぇのにな」
ケインの奴の行動は年を重ねるごとに過激になっていった。
それではいけないと何人もの人に言われたにも関わらず、あいつが凶行をやめることはなかった。
クランの人間だけに留まらず、街に来る冒険者相手に挑みかかることすら始めたときは遂にそこまでするようになったかと、ケインを止められなかった己の無力さを嘆いた。
せめてこの右足が本来の動きをしてくれていれば、まだあいつを押し止めることができたかもしれないというのに。
あいつの強さはそれほどまでに高まっていた。
だがそれをあしらうだけの実力がリーズ・ナブルにあると分かったとき、もしかしたらと思ってしまった。
これ以上の被害が出る前にこの男に協力してもらえれば、ケインの目を覚めさせることができるかもしれないと。
「……そう、思ってたんだけどなぁ」
でもそれは、あいつの意思をことごとく侵害していることだった。
確かに身を守ることができるとマチルダに任せた。それが間違ったことだとは思っていない。
でも、ほとぼりが冷めるまでなんて言い訳して、あいつを利用しようとしていたのを見抜かれて。
情けないにもほどがあると、改めてそう思わされた。
目が覚めた、というのだろうか。
覚悟を決めた、というのだろうか。
今さらだとは自分でも思うが、こんなことを会って間もない人間に頼む方がどうかしていたのだ。
そう思ったら、行動は早かった。
風呂での一件の後、野宿の準備をした俺は夜の間に魔物が出現する土地へと足を運んだ。
そして戦った。
魔物を相手に戦って、戦って。
傷も負ったが、それ以上に体の奥で燻っていた何かが燃え上がるのを感じて右足の怪我のことなど気にならなくなっていた。
久々に感じる命のやりとりに、鈍っていた体から錆びが落ちていく感覚は俺に戦うことの高揚感を与えてくれた。
たぶんだが、この高揚感があいつの支えになっていたのではないかと、ふと思ってしまった。
親を頼ることができなくなったあいつが、唯一頼りにしたのが父親から教えられてきた剣術だったのかもしれない。
でもな、お前が今やっていることは、お前の両親が望んでないことじゃねぇのかって、俺は思うよ。
あの人はな、お前を守るためにどうしようもない傷を負った。ミハナさんだってそうだ。
目を覚まさない両親を見守るだけの生活がどんだけお前を苦しめてたか、俺には想像するしかねぇけどよ。
それでも、逃げちゃあいけなかったんだ。
俺もそうだ、傷を負ったことを理由にして、苦しんでるお前から逃げた。声も掛けられなかった。自分のことで精一杯だった。
そんな俺が言うことなんて、お前が聞くはずもなかったんだ。
だから、俺はお前と正面から戦うことにしたよ。
こんな方法で言うことを聞かそうなんて間違ってると思う。
でもな、俺だって男なんだよ。
やられてばっかで済ませるほど、人間できてねぇんだ。
鼻っ柱を折ってからじゃねぇと、お前は俺の話なんて聞きはしないだろうからな。
そんなことを考えていたら、いつの間にかクランの建物の前にいた。あいつのことだ、どうせいつも通りあの部屋にいることだろう。
敷地の中を進み、道中に会うクランメンバーが傷だらけの俺に驚いていたが、軽く挨拶をするだけで俺はさっさと目的の場所に向かっていた。
少し奥に長い建物の、その最奥。
クランの長であったドイルさんが使っていた部屋。そこにあいつはいる。
その部屋の前まで来て、中に人の気配があることを確かめた俺は目の前の扉を開いた。
中には部屋の中央で床に座っているケインの後ろ姿があった。
「……何の用?」
後ろにいるのが俺だと分かっているのか、不機嫌な態度でこちらを向くことなく聞いてきた。
「明日の昼、ここの鍛練場で俺と立ち合え」
俺も余計なことを言うつもりはないので簡潔に用件を言った。
それはどういうことなのか、分からないこいつではないだろう。ゆっくりと立ち上がってこちらを向いたケインの表情は暗い愉悦のようなものが浮かんでいた。
それは俺の今の姿を見ても変わらず、おそらくだがこんな傷だらけの奴が何を言ってるんだと思っているのだろう。
「別にいいけど、結果は分かってるんだしさ」
「なら」
「でもそれだけじゃあ、面白くないよね」
そう言ったケインが出してきた条件というのは、やはりというべきものだった。
とどのつまりはリーズとの戦いを望むものであり、立ち会いで自分が勝ったならば奴を呼べというものだった。
だがそれに俺が頷くわけがない。
もう、あいつを巻き込むようなことをしたくはなかった。
それではやる意味がないというケイン。しかし、俺たち二人の話に入りこんでくる人がいた。
「―――俺ならいいぜ」
それは背後から、自分が通ってきた通路から聞こえてきた。
その声の主はもう一人を背後に連れて部屋へと入ってきた。
それはリーズ・ナブルであり、クランの副長ハリマであった。
「お前……」
「よう、一日ぶり。そっちの小僧も相変わらずのようで」
突然の事態に驚く俺に、さらに驚くことをこの男は言ってのけるのだった。
「ここでなんて小さいことはやめて、もっと大きな催しにしようぜ」
それは街一つを巻き込んだ、剣闘大会の開催の報せであった。
何のことかと呆然としていれば、チラシのようなものを渡されじゃあなと去っていった。
詳しいことを何も聞けないまま、俺たちは副長からの話を聞くことになるのだった。
リーズ、お前は何を考えてるんだ。
読了ありがとうございました。
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