リーズ・ナブルの主張とマチルダの思い
どうもアゲインストでございます。
今回はちょっとだけシリアス風味。
リーズの装備も一部明らかになりますぞ。
それではどうぞ。
それからしばらく。
マチルダの必死の呼び掛けにより正気に戻った俺は、何はともあれまずは着替えることにした。
ひとまずの礼を彼女に言い、後ろを向いてもらってさっさと衣服を身に纏っていく。
というか、俺専用に誂えたこの装具一式をよく剥ぎ取れたな。これ完全に着るのに最低でも五分は掛かるんだぞ。
改めて服をとったその男というのがよくわからん。
魔物の素材に効率よく魔力を渡し、最速で魔法を放てるよう工夫に工夫を重ね、瓶や脆い素材を保護するための機構を施し想像よりも重いものとなってしまっている。
これでも改修を重ねて軽くなったほうだが、それでも負担がないわけではない。今までは後方支援ということで咄嗟の動きができるぐらいでよかったが、これからはあの小僧みたいな奴にも対応できるようもっと考えなければならんだろう。
そんなことを考えつつ、手早く衣服を纏っていく。
「……断ったようだな」
「そりゃ、まあね」
俺が一人で出てきたことから分かったのだろう、ベンの頼みを断ったことを聞いてきた。
俺としては当然の選択だったので、気負うことなくそれに応える。
件の下着を履き、魔力の電導率が高い特殊な繊維でできた肌に吸い付くような薄手の黒い半袖、下も同じ腿までのものを。
「……本当に、理由はそれなのか?」
「おや、姉さんは何をお疑いで」
魔鉄製の細い鎖を連ねた鎖帷子、その上から両の肩から斜めに帯を掛けていく。
「俺はあいつと約束したんですよ。面倒には巻き込まないって。それを掌返したみたいに頼むって、虫がいいと思いませんかね」
「…まあ、お前からしてみたらそうだろうな」
括りつけられているのは今まで集めて処理をしてきいた魔物の素材だ。
牙、爪、角。
瓶には臓物。心臓その他諸々、時に眼も。
ゲテモノ共のオンパレードだ。
「姉さんとしちゃあ納得できませんか?」
「助けてやりたいと思う。その手段があるのなら、私は迷わず使うだろう」
それをさらに上から保護する緩衝材のような、打撃にも耐性を持つ『バルーンフォックス』の皮で作られた肘先三寸ばかりの袖の保護服。
「脅しですかい?」
「……そう、思うか」
ユルゲンから貰った腕甲、脚甲をそれぞれ取り付け、上司からの貰いもんたる上下の灰服に、腕を、脚を通す。
「あんたにそんなこと言われたら、俺は怖くて堪りませんよ。力ずくで言うこと聞かされそうだ」
「……」
鉄板を底に仕込んだ靴をしっかりを紐で縛りつければ、ほぼ完成。
鎖の具合や体の動作に問題がないかを確認し、仕事道具の位置、纏う重みを確かめて、
「……終わった、こっち向いていい」
「いやに長かったな、どんな服だ」
「禁則事項です」
「なんだそれは?」
最後に胸元を確認して、マチルダに着替え終わったことを告げるのだった。
「というか、これから眠るってときにその完全装備はどうなんだ?」
「他人に触られてんだ、おかしいところはないか確認してんだよ」
俺のその答えに得心いったのか、マチルダも特に疑問に思うことなくこちらへと振り向いた。
他にもいろいろと動作を確認をしている俺の姿を眺めながら、彼女は口を開いた。
「……もう一度聞きたい。理由はそれだけか」
理由って言ったって、あの場で言ったことが全てだ。
「介入する気はない。それとも何ですか、お節介働かせてくれってんですか。それこそお笑いだ、道に迷ってる憐れな子供を他人の手助けを借りて救おうってんだ。自分たちはこれまで頑張ったからもういいだろって? ふざけたことを、子供ってのがどうやって育つかわからんわけじゃないでしょ。自分達だって子供だったんだから、その土地それぞれ、人それぞれってもんでしょう」
それとも、何か勘違いをしているんだろうか。
迷惑を被っているのはお互いだから、協力してことにあたりましょう。手と手を取り合って彼を更正させましょう、って。
「降って湧いた好機だとでも、思ってんじゃないでしょうね?」
「……だがあいつが問題を起こしているのは」
「――――――甘えたこといってんじゃねぇっ!!!」
その態度、到底許容できん。
まるで分かっちゃいない、あいつにばかり問題があると、そう断じている時点で論外だ馬鹿馬鹿しい。
「あいつがそうなったことにお前らが何も関係がないとでも宣うつもりか! ふざけるんじゃない! 子供が目の前で親を傷つけられて、頼れる奴が他にいなかったから自分で立たなくちゃならなかったんだぞ! 心がズタズタになったろうさ、ボロボロになったろうさ! お前らだけが辛かったとでも思ってんのか!
ふざけてんじゃねぇ、餓鬼がそこまで強いわけねぇだろうが!!
親が苦しんでるってのに、正気でいられるわけがないだろが!!
助けてほしくて堪らないに決まってんだろう! 苦しくって苦しくって、それを吐き出したいに決まってんだろ!
受け止めてやれよ、それがお前らの役目なんだろうが!!
あいつを一番に助けてやりたいのは! お前らなんだろうが!!
なんでもっと死に物狂いになってやれないんだよ!!
簡単に手放すなよ……あいつは今だって、一人ぼっちだ」
親を亡くした俺に、ケインの心は分からない。
死んではいないが、ずっとそこにいるだけ親の姿を見ているだけの生活はいかほどのものだっただろうか。
語り掛けても応えてくれない、そんなもの死んでいるのと変わらない。むしろ半端に生きているだけ、小さな希望が目の前でちらついているだけ、小僧の精神を揺さぶって、傷つけてきたはずだ
「……解決すべきことを間違えてる、救える道ってもんを誤っているる。それがわからんのなら、俺はすぐにでも出ていくぜ」
もとよりただの通り道、こんな問題に右往左往させられるのならば関わらない方がマシだ。
俺の言葉の本気度合いがわかったのか、マチルダはため息を吐いて目を伏せた。
「……すまない、その通りだな。お前に頼むことではなかった。ベンの方には私から言っておく、仕事はしてもらうがそこに文句はいうなよ」
「あいよ」
ああそれと。
「明日使える時間あるか? 行きたいところがあるんだが案内してもらえないか」
「ん? どこに行きたいんだ」
そりゃ決まってますよ。
「―――ドイル氏のお見舞いだよ。息子の現状を報告してやらないきんでしょう、被害者代表として」
悪戯を思い付いたような顔をした俺を、驚いたような様子でまじまじと眺めるマチルダ。
この意図が分からないのだろうが、それはまた別の機会にお話しするとして。
いくらか話をして、要望通りにことが進むことになった。
明日は昼から、この街の英雄とご対面となる。
思惑を抱えながら、この日は別れておしまいとなるのだった。
読了ありがとうございました。
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