グルメデートのお約束
突発投稿二十話更新。
デートといったらやっぱりね?
そんなお話でございます。
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家族の話をしよう。
家族というのは、共同体の別の言い方だと、俺は思っている。
血ではない、共に居たいという願いから、俺たちは他人から家族になるのだ。
その点で言えば、彼女の家族というものは、その思いの方向がバラバラになってしまっているんだと、他人である俺は遠慮なく言えてしまうのだ。
だが、他人でこうなら、もう少し近づけば、言える言葉も違うのだろうか。
熱気を持った鉄の皿、少しでも料理が暖かいようにと工夫がされたそれには、周りを木枠で囲むことによって他の箇所に熱が広がらないように細工がされている。
そんな熱々の鉄板皿の上に、湯気を立てジュージューと音を鳴らしている茶色い塊がデンッ! と乗っかっている。
その周りには付け合わせの野菜が色とりどり。十字に切れ目の入ったじゃがいもも、乗せられたバターが溶け出してまさに食べ頃といったところ。
これが俺を虜にしてやまない、『魚のハンバーグ』の全貌である。
「…予想よりも全然美味そうだ」
ハンスの勧め通りにソースを掛けてからハンバーグを切り出すレティア嬢。ゆっくりとナイフを通していけば、見た目を裏切る柔らかさにまず驚く。その感触に目を開き、そのまま、す・・・、と最後まで切り終える。
一口大に切られたブロックをフォークで刺し、その断面に目を這わせる。溢れる肉の汁が輝きを放ち、内側に押し込められていた香りが嗅覚をくすぐる。彼女はごくりと喉を鳴らし、意を決してそれを口に誘い入れた。
「――――――――――――!?」
口を閉じ、一噛み。
ほどけていくような食感が、彼女の脳内を埋め尽くしているだろう。あの顔はそういう顔だ。
とんでもない衝撃を受けて停止してしまった彼女は、そこからは怒濤の勢いで皿の上を蹂躙し始めた。
野菜を拐い。
じゃがを殲滅し。
本丸のハンバーグは欠片も残さず。
見ている数分の間に、皿の上には油と焦げ後しか残らない不毛の大地に変えられてしまった。
「あ…」
もう食べるものがなくなってしまったことにようやく気付いたのか、途端に残念そうな顔をして自分の皿を見つめる。
俺はその表情の変わりように、なんだか、おかしくなってしまい。
「…ふふ」
「わ、笑うな!!」
不覚にもついつい笑ってしまったのだが、やはり機嫌を損ねてしまったらしく今度は真っ赤に顔を染めてしまう。
それがまたおかしくて、俺はまた笑ってしまうのだ。
それにまた彼女が怒り、俺は許してもらうために自分のハンバーグを一切れ彼女に渡すことにする。
「悪かったって、これやるから許してくれよ」
ほれ。と彼女の口の前に差し出してやる。
「口開けな」
「はえ?」
そんな俺の行動に、何故だか彼女は呆けた声を出しては目の前の切れ端と俺の顔を交互に見る。
なんだ、やっぱり貴族の娘さんにこういうことはやめたほうがよかったか? 隊のやつにはよく食べてたもんをせがまれてはこうやってたんだが。
「あーやっぱり嫌だよな、年頃の娘にするもんじゃないか」
「いやまて!! 大丈夫だ問題ない!!!」
フォークを引っ込めて皿ごと差し出そうとしたが、大きな声をあげられて手を捕まれて止められてしまう。
えらく必死な顔で止めるものだからこちらが驚いてしまった。
「え、ええ? いや、別にそこまでしなくたって」
「いいからそのまま、そのまま続けろ!!」
どうにも言う通りにしなければ離してもらえそうにないので俺はやろうとしていたことを続けることにした。
改めてフォークに刺したハンバーグの切れ端を彼女の口に持っていく。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「あーんと言いながらな」
「…あ、あーん」
「あー…ぅん」
おかしな要求を重ねられたが、大人しく従うことにして俺はようやく彼女に貢ぎ物を献上できた。
その時に、こう、なんというのか。
フォークから伝わる彼女の舌の動きとか、唇の柔らかさとか、そういう感覚がこそばゆく、なんとなく恥ずかしい気持ちになってしまう。
「…お前も赤くなってるぞ」
「自分でも分かってるよ」
そんな自分を誤魔化すように、俺は自分の皿に取りかかる。皿に集中するふりをして、さっきの感覚のことを少しでも頭から追い出そうとする。
しかし。
「…間接キスだな」
「ブフォ!!?」
まったく想定していないところからの攻撃に思わず吹き出してしまった。幸い横に向いてやったので彼女のほうに口の中のものが掛かることはなかったのだが、それにしたって。
「ゴホッ…ゴッホ!? オエッ…変なとこ、入った…!?」
「お、落ち着け!! これを飲むんだ!!」
衝撃で食い物の欠片が引っ掛かり、呼吸が満足にできなくなって胸が苦しい。そのままテーブルに倒れこむ俺を、彼女はすぐさま助けてくれようと行動する。
飲み物を手渡しされ、背後にまわって背中を撫でられる。俺もぐっとそれを飲み込み、なんとか欠片が取れて正常な感覚が戻ってくる。
なかなか危ない状況だったが、ひとまず難を逃れたのだった。
「…た、助かった」
「済まない! まさかそんな反応をするとは思わず…」
「ちょっと、ちょっとだけタイミングが悪かったかな。うん。そんだけ、そんだけだから。気にしないで」
「しかし…」
「これからそういう発言に気をつけてくれたらいいから。今回のことはお互いに水に流そう」
危ない。いやほんと危ない。
追求されて困るのはこちらだ。
いくら意味深なことを言われたからってあそこまで反応することなかった。これではやましいことがあると言っているようなものだ。
なにやってんだよ俺相手は四歳も年下だぞドキッとしてんじゃねぇよ童貞ですか違いますでも恋愛はしたことないですこんチクショウ!!
「…一旦落ち着こう。お互いにな」
「本当に大丈夫なのか?」
「ドントウォーリー、心配ない」
これは話題の転換が必要だ。
この惨状を塗り替えるくらいのデカイ話題に。
でもそんなものの心当たりは、正直一つしか思い浮かばず。
席に戻った彼女に向けて、俺は真っ直ぐに言葉を放った。
「本題にそろそろ入ろう。あんたの家族の話にな」
それまでの楽しそうだった、嬉しそうだった、怒り、戸惑い、笑い。いろいろな表情に、この短い時間で変わっていた彼女の顔が。
その言葉を聞いた瞬間、まるで魔法が溶けたみたいに悲しげなものに戻ってしまった。
いつものじゃない自分から、いつもの自分になっていく。彼女はまた、父親の愛情を求める孤独な現実に帰ってしまう。
だからこそ、ここが、俺の踏ん張りどころだった。
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