元軍人と令嬢騎士、下町でB級グルメデート
日朝ヒーロータイムの変更に放送側の思惑を感じずにいられない。
どうもアゲインストと申します。
リーズ、意図せず女性をデートに誘う。
そんな十八話でございます。
ハンスの食事処。
ここ数年で庶民の間でかなり評判になっている、懐に優しいお値段のお店だ。
特徴はなんといっても店長が独自のルートで入手した食材によって作られる、見たことのないような裏メニューである。
常連の中でも選ばれたものにしか明かされないその中に、今回お目当ての魚のハンバーグが存在している。
しかし、この裏メニューの本当の意味は、選ばれたもののさらに一握りの者にしか明かされておらず。なんの因果か、俺はその一握りの一人であったりしたりするのだった。
そんな食事処に、俺はお嬢様を連れて来ていたのだった。
城下の町の少し奥側。
立地条件がそこまでいいとは言えないところに、目的の店は構えられている。
隠れ家的存在のこの店は、時間帯が変わると客層もがらりと変わる。昼は比較的安全なのだが、夜になるとちょっとばかし面倒な輩が来ていることもあるのだ。そのためこの昼の時間帯にお嬢様を連れてきた訳である。
「さ、ここだぜ」
「こんなところに…」
「驚いたろう。俺もここの存在を知ったときはビックリしたぜ」
騎士の服装では何があるか分からなかったので、彼女には着替えてもらってからここに来ている。
彼女の今の格好は俺たちが着るような兵士の普段着のそれだ。支援部隊にいた女性隊員のところから掻っ払ってきた。
なに、心配するな。これはその隊員が溜め込んでいたものなので新品である。よく服を破くドジっ娘だったので俺たちとはまた別に支給されていたものだ。とても女性的な肉体をしていたために隊の風紀を乱す可能性があることを俺が進言した結果、多くの男性隊員の咽び泣きを蹴散らして押し通した成果である。
治療のために隊の兵舎が空っぽだったのも助かった。特にどうということなくすんなりと持ち出すことができた。
「早速入ろうぜ」
「ああ!」
いやーしかし、なんとも化けたな。
一頻り店の外観を見回していた彼女の姿は一見して貴族の娘とは分からない。しかし、彼女の顔をしっかりと見れば気品に溢れた作りをしていることが理解できる。
素朴な格好でありながら、その存在感は美しい金色の長髪を伴って騎士としての彼女とはまた違った魅力となっている。
そんなもんだからここまで連れてくる時は結構な人の目線を集めていたものだ。やっぱり分かるものなんだな。
内心でそんなことを呟きながら、俺は店の扉を押し開いた。
「あ…」
その瞬間、店の中の香りが背中に控えていた彼女の鼻をくすぐる。入り口のところで立ち止まった彼女はその香りが気にいったのか瞳を閉じて浸っているようだった。
「お嬢さん?」
「…あ、ああ。悪い」
こちらの呼び掛けに反応したが、少し鈍い感じだ。これはあれだな。
そんな俺の内心の答えを言うように、店の奥から声が響く。それは馴染みのある、いつものあの人の声だった。
「―――構わねぇさ。初めてこの店にきた客はだいたいそうなるからよ」
カウンターの奥からこちらに向けて放たれた男の渋味走ったそれは、来てくれた客に対する親しみに溢れたものだった。
「ようハンスさん。また食いに来たぜ」
「わかってるよ。そろそろ来る頃合いかと思ってたとこだ」
灰色の髪を短く刈り込んだこの店の店長兼料理人。
ハンスは手招きをして、俺たちの来訪を快く迎えてくれた。
「奥に行きな。用意しといてやったからよ」
ハンスとの出会いはそこまで劇的、ということではなかった。
前にも言ったが噂を聞いて―――これはあの人事部長ナインハルトから珍しいことに―――物見遊山で来たのが始まりだ。
その時に食べた料理がきっかけで、俺はここの常連になっている。
さて、店長に勧められた店の奥に作られた個室はそんな常連のために作られた、特別な場所だ。本来なら常連だけしか開示されないところであってお嬢様は入れちゃだめなんだが、融通が利くくらいには俺は店長との仲を積み上げてきている。特権みたいなものだろう。
「ちょっと待ってな、目当ての料理はすぐに持って来るからよ。こいつでも摘まんどいてくれ」
「サンキュー」
「はっ。お前じゃなくてそっちのお嬢ちゃんにだよ。誰がお前にサービスするかこの野郎」
「やれやれ悲しいねぇ。折角あんたの趣味に付き合ってきた仲だってのに」
「新規顧客を連れてきたことには感謝してやらんでもない」
「そいつは良かった。だったら今日の分は付けといてくれよ」
「ははっ、ワロス」
そうは言いつつ俺の前にもお通しを置いていってくれるあたり、態度とは裏腹に優しい人である。この手のやり取りはもうお馴染みみたいなもので、挨拶程度の認識である。
そうとは知らない彼女は俺たちのやり取りを見て固まってしまっている。まあ、初めて見る人は驚くわな。
厨房に引っ込んでいったハンスから視線をずらし、リティア嬢の方へと顔を向けた。
「だいたいあんな感じ。驚くけど口ほど悪い人じゃないから」
「…お前の同類か?」
「断固否定する」
あれか人間性か? 人間性なのか?
「まあいいや。メインの料理が来るまでもう少し時間がかかるみたいだし、先にこいつを頂いておこう」
「初めて見る料理だ。なんなのだこれは?」
彼女はテーブルに置かれたお通しの小鉢の中にある料理に使われている材料を見たことがないのか、恐る恐るといった感じでフォークでつついている。
「長瓜と胡麻とかいうのの和え物だな。このゴロっとしているのが長瓜で、この小さい粒が胡麻だ。長瓜はこの国でも見るが、胡麻は東方の国から仕入れているらしい」
「ほう…!」
東方というワードが良かったのか、それまでの態度を一変させ嬉々として料理に挑みかかる。
胡麻がまぶされた長瓜の一つを口に入れ、何度か咀嚼を繰り返していくと瞳の輝きが増していく。それに合わせて頬も紅潮させていき、バッとこちらに顔を向ける。
「…美味い!!」
「ふふ、だろう」
俺は自分のことのように自慢げな顔をしてやって、さらに食べ進める彼女に自分の分も差し出してやった。この気遣いか嬉しかったのかさらに上機嫌になった彼女の笑顔はやはり年相応に可愛らしいもので、ここに連れてきてよかったと早くも確信していた。
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