リーズ・ナブルとリティア=ラインホード
今日は二話だけだと思ったか?
残念、もう一話あるんだよぉおお!!!
一人の男と一人の女。
甘い話に・・・なるか、これ?
そんな十七話でございます
命の喪失はこの世界において別に珍しいものではない。
様々な場面で、どんな原因でか人の命は失われていく。
彼女もまた、その喪失によって影響を受けた人生を歩んできた。
簡単に言ってしまえば、それだけの話である。
「―――愛されたい。そんな願いは、私には叶わないのだ」
あの魔物がいた戦場で、彼女が抱いた心境。
諦めが思考の多くを埋めるなかで、彼女はそう願ったそうだ。
誰にもいうことなく、内に秘めていただろう。
それを今この場でいうことにどんな意味があるのか、それを俺が聞いて何になるのか。
だがしかし、そんなことは今は関係ないのではと思ってしまうほど、彼女の語る言葉にこもる感情は澄んでいた。
それは貴族としての仮面を脱ぎさった、彼女の本心からの言葉だったからだろう。
俺にはそう感じ、そう考え、そう思うことしかできない。今の彼女の言葉に応えるには、俺には分からないことが多い。そんな俺の言葉などに意味はない。
何より。
(あ、まずい。シリアスが崩れそう)
度重なるお預けにより空腹が限界まで来ていた。
このままではこのシリアスな場面がシリアルになってしまう。
若干の焦りが脳内を駆け抜け、状況の打開を模索しているのにまともな思考ができない。全部空腹のせいである。
「…馬鹿だと思うだろう、お前も」
「ああ、腹が減ってるな」
「は?」
しまったぁああ!!
ついついポロって本音が溢れてしまったぁあああ!!
まずい、この状況でこんなふざけたことをそのままの意味で取られてしまったらとんでもないことになることは明白。どうにかして挽回しなければ!
「ああ! いや、その! あんたの聞いていたらそんなことを思ってしまってな。当然そのままの意味じゃない勘違いするなよ…!」
「あ、ああ…」
よし。よーし…!
とりあえず誤魔化せた。このまま誤魔化しきろう。そうしよう。
適当に言いくるめてこのままこの場を流すのだ。それしか道はない。
「そのーだな、俺が考える限りあんたの求める愛情というものは、一重にあんたの親父様からのものがあって初めて満たされるのだと思う。いくら他にあんたを愛してくれているそのーお姉さんという存在がいたとしても、あんたは寧ろ満足しないだろう。そういう意味で腹が減っているということだったんだ、驚かせて済まない」
戦場でそういうことを考えたということではなく、そう思ってしまった原因についてのことに話をズラシ、なんとかそっちに意識をもっていく。
「…そういうことか」
助かったぁああああ!
なんとか納得してもらえたぜぇええええ!!
このまま、このまま話をこの方向に持っていくんだ!
「そうだ。だから、どんなに人にそのことを言って理解してもらっても原因が解決しなければ、あんたはその満たされない感覚を抱え続けることだろう」
「…であるならば、それは一生叶わないな。私はいつまでも空きっ腹だ」
俺の話したことに、彼女は諦めたような顔をしてそんなことを呟く。他人に言われたからか、それまでよりどこか吹っ切れたような感じだが、そういうことではない。
「だがよ、それだけがあんたじゃないだろ」
「え…?」
そういう、諦めてほしいからいったわけではない。望みを捨てる必要とか、そういうネガティブな感じになってほしいわけではないのだ。
「愛情だけってよう、寂しいじゃねぇか」
「寂しい?」
「人間は、なにも愛情だけの生物じゃないだろ?」
こいつがこだわっているのは父親から愛情だ。でもそれを思う余り、それ以外のことについて考えが及んでいないというか、目が向いていないというか。
「空腹関連であえて例えるなら、あんたは水や野菜は食べれていても、一番食べたい肉を食えていない状況だ。薄味のものじゃあ、満足なんてできないだろう?」
「まあ、そうだな」
「でもよ、なにも食い物はそれだけじゃないだろう」
そこで俺は以前城下町で食べた料理から、一つ印象に残っているものを紹介することにした。
「リティア嬢。あんた魚は食べるかい?」
「魚か? 焼いたものであれば何度かあるぞ。姉に連れられて…懐かしいな」
そいつはいい。説明するのに手間が省ける。
「俺も食べたことがあるんだが、そこで出す魚は絶品でな。焼き魚は焼き魚なんだが、こいつがちょいと他と違ってるんだ」
「な、なんだというのだ。その魚は!?」
おお、食いついた食いついた。
予想以上にいい食いつきっぷりだ。
俺はそこでさっと彼女に近づき、内緒の話をするようにして口元を隠し、耳元に向けて小声で話かける。
「実はな…」
「お、おおい!? ち、近いぞ!?」
「まあまあ気にするなって。それでな」
顔を近づけた途端何故か彼女は狼狽え、肌に朱が差していく。そして逃げ出そうとする彼女の肩を抱くようにして体を押さえる。ここで逃がすわけにはいかん。
そしてそのまま話を続ける。
「そこで出すのは、魚のハンバーグなんだよ」
「なんだと!? なんだその料理は!? 聞いたことないぞ!!」
「だろう? 俺も店主にそういって、ならば試しと頼んでみた」
「そ、それで? どうだったのだ、美味かったのか?」
俺の話が上手く嵌まったのか、彼女はやる必要もないのに俺と同じように小声になって話を続けている。
俺はそんな彼女の顔を覗き込むようにして、思いきり笑顔で言ってやった。
「―――美味かった! 今まで食ったもんのなかで、こんなに美味いものがあったのかってぐらいにな!!」
そんな俺のことを見た彼女は呆けたような表情をして、その次には目を輝かせ、華が開くかのような、年相応な可愛らしい顔になり始める。
「そんなにか!」
「ああそうさ! まったく料理長の奴はスゲーもん作りやがったぜ。それ以来記念日や給料日は毎回そこにハンバーグを食いに行ってる」
「やはり高いのだな。ここまで海の物を持ってくるにはかなりの労力がいるだろうし」
「まあな。俺の数少ない贅沢みたいなもんさ」
そうだ。あそこになら顔が利く。国を出ていく前に一度、挨拶もかねて食べにいくつもりだったんだ。
「どうだ。これからそれを食べにいかないか?」
「い、いいのか!?」
「ああ構わんさ。話の続きはそこでしよう」
こうして俺はお嬢様を連れだって、魚のハンバーグを出す料理屋、
『ハンスの食事処』に向かうことにしたのだった。
時刻はもう少しで昼時、調理場が熱くなってくる頃合いだった。
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