リーズ・ナブルは仕事としようとして邪魔される
昼間の影射すところより、十六話、投稿
とりあえず謁見を乗り越えたリーズ。
そんな彼の背後から呼ぶ者とは。
そんなお話でございます。
貴族の話をしよう。
成り立ちってやつから、簡単にな。難しいことにはしないから軽く聞いてくれ。
俺のような平民と貴族とを明確に別けるのは、なにも身分や立場ではない。
貴族とは、国を守護する要である。戦場の最前線に立ち、王の剣となり盾となることを誓った、かつて古より忠誠に従った戦士の末裔なのだ。
彼らは戦う力を評価されて地位を約束されている。ぶっちゃけ大貴族というのは化け物みたいに強い。
強いから様々な特権を許されている。
代々研鑽を続けてきた能力が、俺たち平民とは隔絶している。それこそが、一般人と貴族を別ける簡単な現実なのだ。
まあ、そうは言ってもピンからキリまでいるんだけどな。
謁見室から退散した俺は、二日後に開催される式典のことよりも間近に差し迫った危機に対することに頭を悩ませていた。
今回あいつらを助けるにあたり、俺はユルゲンを動かすための条件として、ギルドに依頼の形をとった。
依頼金は金貨二百枚。
そう、二百枚だ。
一般的な生活していれば金貨一枚でだいたい一月半から二月がもろもろに消える。
この世界は三十日を一月とし、十二の月を一年として扱う。
お分かりだろうか?
あの筋肉はあの一夜でおよそ十年は生活に困ることはない金額を得て、俺はポンとそれを手放したわけだ。
バカなことをしたというやつもいるだろう。だが後悔するよりはましだ。
金は稼げるが、命は稼げないからな。
「しかし、どうするか」
ユルゲンはいつの間にか姿を消してしまっている。ギルドに行きつつ割りのいい仕事を紹介してもらおうかと思っていたんだが、後輩に対する思いやりってやつがないな。
「あいつらに頼む訳にもいかんし」
宿も探さなければならん。懐には銅貨数枚、どうみても一晩もたんし飯すら食えん。いい加減腹が減ったし、この状況で仕事とか正直やりたくない。でもやらなきゃ生きていけないこんな世の中じゃ、毒吐くくらいでしか発散できないフラストレーション。
堪んないよね。
「とにかく、ギルドいくか」
今の職場はそこだし、手っ取り早くお金稼がんと生活できへん。
上流階級が来るような区画から自分がいつもいたような城の外周に向かっていこうとしたとき、恒例にでもなったのか、俺の背後から話しかけてくる人物がいる。
毎回俺に話かけてくる奴は背後を取らなければならないルールがあるのかどうなのか。そこんところ知りたいようで面倒なんで知りたくない。
「…リーズ・ナブル。話がある」
なんでほっといてくださいお願いします。
それでも振り返らないわけにはいかず、しぶしぶといった感じをおくびにも出さないようにして、俺はその聞き覚えのある声に向けて体の向きを変えた。
そこには予想通り、まるで昨日の一場面をそのまま再現したかのように、声の主が佇んでいた。
「少し、来てくれないだろうか?」
何故だか申し訳なさそうな表情をしたレティア=ラインホードは、それでもはっきりとこちらを見据えていた。
少し話せないか、という彼女の頼みを無下にはできず、逆らうほどの気力もなかった俺は彼女の先導で城内を歩いていた。話せないかといったわりに彼女はさっきから一言も話す気配がない。
こちらから話かけるのも、なんとなく、その背中に拒絶されているようで気が引ける。必然的にその背中を見ながら、俺は彼女が何を言いたいのかを少し考えてみることにした。
「(単純に考えれば…愚痴かなにかといったところか)」
功績を挙げたが、それに納得がいってない、とか。
余計なことをしてくれたな、とか。
よくもお仕置きから逃げたな、とか。
そんなことかなぁ、と空腹のせいで若干鈍くなってきた思考が導きだした予想はだいたいそういったものだった。
貴族って体面を気にするし、何が気に障ったのかはその人にしか分からないことが多いし。
「…何か良からぬことを考えてはいまいな?」
「いいえーまったくーなーんにも」
なぜバレたし。
まずいな、そんなに分かりやすい雰囲気醸し出してたか?
「…はぁー。なんだろうな、バカらしくなってきてしまった」
丁度渡り廊下みたいな場所に差し掛かったところで立ち止まるリティア嬢。窓の方に近寄ってそのまま外の様子を見るような素振りだ。こちらもそれを見て足を止める。一定の距離感でここまできたが、その原因だった彼女の心の壁のようなものが薄れているような感じだ。なんだ、破りも中和もしていないぞ。
「死んだと思ったのだ」
「ん?」
窓の縁に体を預け、彼女はそう切り出した。脈絡もない語り出しは、彼女の言いたいことの、まずは導入ということなのだろう。
「あの魔物の前で、自分が死ぬんだと悟ったとき、叶わない願いのことを思った」
これまで彼女の顔は何度か見たが、今の彼女の横顔は過去のどれにも見たことがないような表情だ。別に深い関係というわけでは全くない俺に何故、という疑問があるが、ここは黙って聞いていよう。
「私の母は、私を産んで死んだんだ」
また話題が飛んだかと思えば、それはなんとも重い話で。
彼女の抱えるものの一部を、俺は知らされることになるのだった。
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