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第7話 不倫へのカウントダウン


 あの日以来、俺とマリカは「屋上の共犯者」になった。


 会社では冷徹な秘書と、冴えない運転手。


 でも休憩時間になれば、屋上でタバコを吸いながら、他愛もない話をする。


 敬語はやめた。


 お互いのプライベートも、少しずつ話すようになった。


 マリカは結婚しているらしい。


 左手の薬指には、高そうなダイヤの指輪が光っている。


 だが、旦那の話になると、彼女はいつも寂しそうな顔をする。


「旦那ね、海外ばっかりで帰ってこないの。広い家に一人ぼっち。……カズキと一緒ね」


「俺は一人じゃないけどな。まあ、心は一人みたいなもんだ」


 俺たちは似た者同士だった。


「金はあるが、愛がない」


 その乾いた部分が、磁石のように引き寄せ合っていくのがわかった。




 ある金曜日の夕暮れ。


 いつものように屋上で並んでいると、マリカが唐突に言った。


「ねえ、お酒飲める?」


「うん。好きだよ」


「じゃあ今度、飲みに行こうよ」


 ドクン、と鼓動が鳴った。


 これはデートの誘いか? それとも単なる同僚の付き合いか?


「……いいけど。俺なんかとでいいのか?」


「カズキがいいのよ」


 彼女は俺を見上げ、潤んだ瞳で言った。


 その表情は、屋上で見せる「同僚の顔」ではなく、完全に「女の顔」だった。


「連絡先、交換しましょ」


 震える手でスマホを取り出し、LINEを交換する。


 マリカのアイコンは、綺麗な夜景の写真だった。


「じゃあ、連絡するね」




 その夜、俺は興奮して眠れなかった。


 マユに何と嘘をつこうか。


 どんな服を着ていこうか。


 もし、酒の勢いで一線を越えてしまったら――?


 罪悪感よりも、久々に感じる「男としての喜び」が勝っていた。


 俺はまだ、枯れてなかったんだ。




 しかし、現実はそう甘くない。


 待てど暮らせど、マリカからの連絡は来なかった。


(やっぱり、ただの社交辞令だったか……)


 会社で会っても、彼女は忙しそうで、屋上に来る回数も減った。


 期待しすぎていた自分が恥ずかしい。


 所詮、俺は「暇つぶしの相手」だったんだ。




 諦めかけていた、10日後の夜。


スマホが震えた。


『ごめんね! 旦那が急に帰ってきて、連絡できなかったの。来週の土曜日、 空いてる? もしよかったら、飲みに行かない?』


 俺はガッツポーズをした。


 心の中で叫んだ。


(よっしゃあ!!)


 すぐに返信しようとして、指を止める。


 焦るな。余裕を見せろ。


 深呼吸して、30分置いてから送信した。


『お疲れ様。来週の土曜だね、大丈夫だよ』


『やった! お店決めておくね!』




 土曜日。


 それは、俺が「道」を踏み外す、運命の日。


 俺はすぐにマユに嘘をついた。


「来週の土曜、中学の同窓会があるんだ。夕方から行ってきていいか?」


「えー? 土曜はパパの病院の送迎があるのよ」


「えっ」


「でもまあ、午前中に送ってくれるなら、その後は自由にしていいわよ」


「……! ありがと、助かるよ!」


 アリバイは確保した。


 あとは、その日を待つだけだ。


 あと10日。


 俺の頭の中は、マリカのあの言葉で埋め尽くされていた。


――ねえ、性欲ある?


 俺たちは、どこまで堕ちていくんだろうか。




続く

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