第4話 500万の借金と名もなき喪失感
留置場から出た時の朝日は、目が潰れるほど眩しかった。
だが、俺の人生は真っ暗闇だった。
「罰金50万円、即納付」
なけなしの貯金を叩いて支払ったが、これは地獄の入口に過ぎなかった。
最大の絶望は、あの「純白のアルファード」だ。
相手方の保険会社から非情な通告が届く。
「飲酒運転による事故のため、対物賠償保険は適用されません」
つまり、修理費どころか、相手が「新車に変えろ」と言えば、その費用数百万がすべて俺の個人的な借金になる。
職も失った。免許もない。退職金なんて微々たるものだ。
「……詰んだな」
ワンルームマンションの部屋に戻ると、虚無感だけが漂っていた。
俺はもう、何もかもどうでもよくなっていた。
「どうせ終わった人生だ。最後に好きなだけ飲んでやる」
俺は近所の酒屋で、なけなしの金を使った。
大好物の寿司を大量に買い込み、さらに大量のビールとアルコール度数50度のバーボン「ワイルドターキー」を2本。
「いただきます……最後の晩餐だ」
誰に言うでもなく呟き、寿司を頬張り、ビールをがぶ飲みして、ロックのバーボンを流し込む。
美味い。涙が出るほど美味い。
だが、酔いが回るにつれて、胸の奥がどうしようもなく締め付けられた。
(なんだ……この寂しさは……?)
今まで、俺はずっと独りだったはずだ。
気ままな独身生活。誰にも縛られない自由。
それなのに、なぜか「誰かが隣にいたような気」がしてならない。
賑やかな食卓。子供の笑い声。誰かの温かい手料理。
そんな記憶など俺の人生にはないはずなのに、まるで「大事な半身をもぎ取られた」ような喪失感が、涙となって溢れてくる。
「クソッ……なんで泣いてんだ、俺は……」
俺はそれを掻き消すように、2本目のボトルを開けた。
孤独が怖い。静寂が怖い。
ふらりと立ち上がった、その時だった。
足がもつれた。
「あっ」
受身も取れず、俺は背中から倒れ込んだ。
後頭部を強打する、鈍い音。
視界がホワイトアウトし、意識が急速に遠のいていく。
(ああ、これで終わりか……)
気づくと、俺は白い光の中にいた。
目の前には、あの銀髪の女神・ノアが立っている。
「私を呼びましたね?」
「……呼んでない。だが、あんたに聞きたいことがある」
俺は霞む意識の中で、彼女に問いかけた。
「俺は……何かを忘れてないか? ここじゃないどこかに、俺の『帰る場所』があったんじゃないのか?」
ノアは静かに頷いた。
「ええ。あなたは持っていたのです。愛する家族も、温かい家庭も。でも、あなたは心の奥底で思っていたはず。『家族なんて重荷だ』『もっと自由に遊びたい』と。だから、この独り身の世界を選んだのですよ」
その言葉が、雷のように脳裏を貫いた。
そうか。俺が望んだのか。この孤独を。
「……俺は、最低だな」
「気が済みましたか?」
ノアがふっと微笑んだ。その笑顔は、慈悲のようでもあり、試練を与える神のようでもあった。
「では、次の旅へ行きましょう。カズキ、探しなさい。あなたの魂の片割れ、『ツインレイ』を。それを見つけ出し、真実の愛を知った時……道は開かれるかもしれません」
「待てよ! どうやって探せばいいんだ! 次はどこに行くんだよ!?」
俺の叫びは、光の中に吸い込まれて消えた。
「ごきげんよう、カズキさん」
ノアの声が遠ざかる。
そして俺は、底のない穴へと落ちていった。
続く




