第31話 長い夢から覚めて気づいた本当の気持ち
ストン!!
「イテテテッ!」
背中と腰に鈍い痛みが走り、俺は床に転がっていた。
「……あれ~??」
確か俺、高いマンションのベランダから女に突き落とされて、真っ逆さまに落ちて……死んだはずだよな?
恐る恐る自分の体を見下ろし、手足を動かしてみる。
生きてる。ちゃんと息をしてるし、体もある。何だか急に実感が湧いてきて、涙が出るほど嬉しい!
周囲を見渡すと、そこは見慣れた部屋だった。どうやら俺は、吊るしてあったハンモックから寝返りを打って床に落ちたらしい。
なんでハンモックなんかで寝てたんだっけ……?
ぼんやりした頭を振ると、少しずつ記憶が蘇ってきた。
あっ、そうか。
今日はマユと息子のタロウと一緒に、三人で海に遊びに行ってたんだ。はしゃぎ疲れて帰ってきて、そのままハンモックに揺られているうちに、うたた寝しちゃったんだな。
それにしても、何だかものすごく長い夢を見た気がする。
恐ろしい女に全財産を奪われ、殺されるという、やけに生々しくて恐ろしい夢だった。
起き上がってソファーに座り、大きく深呼吸をする。
そういえば、海からの帰り道、マユがふと言っていたな。
「また三人で一緒に暮らさないか?」って。
決して悪い話じゃない。むしろ嬉しい提案だとは思う。だけど、俺はもう少しだけ、気ままな独身生活を楽しみたかったんだ。
別に女遊びがしたいとか、そういうわけじゃない。
ただ、誰にも縛られない『独りの時間』というものを、もう少しだけ味わっていたかったのだ。
とはいえ、いずれはマユとタロウのところに戻って、また三人で暮らすことになるんだろうな……と、心のどこかで感じてもいた。
俺は胸に手を当てて、静かに自分の心と向き合ってみた。
確かに、マユのこともタロウのことも愛している。それは絶対に間違いない事実だ。
「……ん?」
何だか変だ。
さっき海から帰ってきて別れたばかりなのに、もうすでにマユとタロウに会いたくてたまらなくなっている。何でこんなに胸がソワソワするんだろう!?
その時、俺の脳裏に、夢の中でノアが言っていた言葉が鮮明に蘇った。
『ツインレイは、今まで会った人の中にいるかもしれないですよ!』
今まで会った人……!?
俺の人生で深く関わった女。まさか、マリカか?
いや、それはあり得ない。マリカはもう死んでしまったんだ。ツインレイがこの世にいないなんて悲しすぎる。
まてよ!
一人だけ、今まで全く想像すらしていなかった女がいるじゃないか。
こんなにも身近にいて、俺の全てを知っている女が!
「マユ……?」
自分でも驚くほど、自然とその名前が口からこぼれた。
えっ……?
嘘だろ。今までそんな風に考えたこともなかった。
だって俺は、マユという最高の妻がいながらマリカと浮気をして、それがバレて修羅場になり、離婚されて家を追い出された最低な男だぞ!
まさか、そのマユが俺の運命の相手、『ツインレイ』だと言うのか!?
いやいや、まさかな……?
でも、よくよく考えてみると、辻褄が合うことばかりだ。
俺が最低な裏切り方をしたのに、マユは俺を見捨てず「またやり直そう」って言ってくれた。
それに最近のマユは、別れた頃よりもずっと綺麗になって、体型だって完全に俺好みの魅力的な女になっている……!
マユが俺のことをまだ愛してくれているのは、態度を見ればわかっていた。
でも、俺は自由を失うのが怖くて、その気持ちにわざと気付かないふりをしていただけなんだ!
俺は、考えれば考えるほど、マユの存在の大きさに気付かされていく。
マユを愛してる。誰よりも深く、強く。
なんで今まで、こんな簡単なことに気が付かなかったんだろう!?
ノアが言っていたパラレルワールドの終わり、あの恐ろしい体験の夢は、俺にこの気持ちを気付かせるための試練だったのか??
その瞬間、俺の心の中で「パンッ!」と何かが弾けるような、強烈な衝撃が走った。
バラバラだったパズルのピースが、一気にすべて組み合わさったような感覚。
俺のツインレイは――マユだったのか!?
続く




