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第29話 やっと、ユカと話が出来たが、最悪の結末に!


 俺は震える手で、金庫に残されていた見慣れない携帯電話を掴んだ。


 メモに書かれていた番号を、祈るような気持ちでプッシュする。


 コール音が数回鳴った後、ガチャリと電話が繋がった。


「もしもし……もしもし……ユカなのか!?」 俺が焦って声を張り上げると、電話の向こうから聞こえてきたのは、拍子抜けするほど明るく、平坦な声だった。


『カズキ、帰ったのね! お帰りなさい。一ヶ月の船の旅行、どうだった? 楽しかった?』


 その呑気なトーンに、俺の頭にカーッと血が上った。少しイラつきを隠せずに怒鳴りつける。


「そんなことより、俺の財産と車は、どうなったんだよ!? 安全な場所に隠したって意味が分からないんだけど、一体何があったんだ? ちゃんと説明しろよ!」


 だが、ユカの声はどこまでも冷たく、落ち着き払っていた。


『カズキ……そう慌てないで! ちょっと訳があってね、電話で話すと長くなるから、明日カズキの家に行ってからちゃんと説明するね! 明日の夜までには行けると思うからさ』


 そして、ふっと声の温度が一段下がった。


『あっ……警察にだけは絶対に言っちゃ駄目だよ! もし警察に通報なんかしたら、カズキの財産は一生戻らないわよ。だから、安心して待っててね。じゃ、明日ね』  


「おい、ちょっと待て! なにがなんだかわからないよ……ユカ、ユカ……!!」


 ツーツーツー……。


 虚しく響く電子音。電話は一方的に切られてしまった。 携帯を握りしめたまま、俺はその場に立ち尽くした。


 なんだか電話越しのユカは、俺の知っているユカじゃなかった。まるで血の通っていない別人のように感じた。 


 この背筋を這い上がるような嫌な予感は一体何なんだ!


 頭の中は不安と混乱でぐちゃぐちゃだったが、警察に言えば財産が戻らないと脅された以上、明日の夜にユカが来るのを待つしか方法がなさそうだった。


 ソファーに崩れ落ちると、一ヶ月の長旅の疲労と、極度の緊張からの不安が一気に押し寄せてきて、どっと体が重くなった。


 とにかく、少し落ち着こう。


 俺はふらつく足でシャワーに向かい、熱いお湯を浴びて冷や汗を洗い流した。


 そして、ワインをグラスに注ぎ、ベランダへと出た。


 夜風に吹かれながらワインをあおり、少しだけリラックスしようと試みる。 ふと、手すりから下を見下ろした。


 ここは高層階だ。目が眩むような高さに、思わず足がすくむ。


「……ここから落ちたら、間違いなく即死だな」


 そんなことをぼんやりと考えた、その瞬間だった。




ドンッ!!!


 背中に、強烈な衝撃が走った。


「えっ??」


 俺の身体は、いとも簡単にベランダの手すりを越え、夜の闇の中へと投げ出された。


 重力を失い、宙を舞う。 落ちていくほんの一瞬、時間がスローモーションのように感じられた。


 俺は空中で身をよじり、ベランダの方を振り返った。


 そこから俺を見下ろしていたのは――ユカだった。


 冷たい街灯の光に照らされたユカの口が、はっきりと動くのが見えた。




『さ・よ・な・ら』


 彼女は、あの頃と同じような可愛い微笑みを浮かべながら、ひらひらと小さく手を振っていた。


「ああ……俺の人生終わる……死ぬ」


 その絶望の言葉を最後に、俺の身体は真っ暗な地面に向かって、真っ逆さまに落ちて行った。




続く

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