第25話 突然決まった、一ヶ月の豪華客船の世界一周
海風をたっぷり浴びて、俺とユカは友人の巨大なクルーザーでの休日を心ゆくまで楽しんだ。
気がつけば太陽は水平線に沈みかけ、空と海を燃えるようなオレンジ色に染め上げている。
港区のタワーマンションからポルシェを転がし、休日は海の上で過ごす。
投資で成功を収めた俺の今の人生は、控えめに言っても最高だった。
すっかり暗くなった海岸沿いの道を、ポルシェの重低音を響かせながら走る。
心地よい疲労感の中、助手席のユカが窓の外の暗い海を名残惜しそうに見つめていた。
「やっぱりクルーザーはいいよな。……あんな船で何日も旅行とかできたら、最高だろうな」
俺がハンドルを握りながら呟くと、ユカがパッと目を輝かせてこっちを向いた。
「そういえばさ、豪華客船の世界一周の旅って知ってる?」
「えっ、何それ? なんかテレビでちらっと聞いたことあるような気もするけど……」
「ねえ! 私たちも行ってみない?」
いきなりの提案に、俺は少し面食らった。
「まー、行ってみたい気持ちはなくもないけど……そんな簡単にポンと行けるもんか?」
「じゃあ、私ちょっと色々調べてみるね!」
ユカは思い立ったらすぐに行動するタイプだ。インストラクターとして体を動かしているせいか、決断も早い。
「ん~、わかったよ。最近、パソコンの画面で株価の値動きばっかり見てて頭が疲れてたしな。ちょっと息抜きして、長めの休みを取りたかったのはあるけどさ」
その後、俺たちは帰り道にあった、ごく普通のファミリーレストランに入った。
高級な料理もいいが、ポルシェに乗ってタワマンに住んでいても、こういう気取らない場所でハンバーグを笑いながら突っつくユカの飾らないところが、俺は好きだった。
食事中も、ユカは早くも携帯電話で船旅の情報を調べて盛り上がっていた。
それから二、三日後の夜。
リビングの広い長椅子でくつろいでいると、画面を操作していたユカが声を上げてきた。
「カズキ! 三十日くらいで、値段も手ごろな旅行があったんだけどさ、どう思う?」
「三十日か!? ……約ひと月か。んー……ちょっと長くないかな!?」
いくら投資で生活していて時間に縛られていないとはいえ、ひと月も家を空けるなんて未知の領域だ。
その間、相場が急変したらどうする? 船の上で電波が繋がらなくて、大暴落に巻き込まれたら……。投資家ならではのリアルな不安が頭をよぎる。
「え~っ! 三十日でも、世界一周の旅の中じゃ一番短いんだよ!? こんなの、なかなか行けないって!」
身を乗り出してくるユカの熱意と、少しすねたような上目遣いに、俺はあっさりと陥落した。
相場なんて、その間は手堅いものだけ残して休めばいい。金はまた稼げばいいが、この時間は今しかない。
「……だよなぁ! わかった、行ってみるか!」
「うんっ! じゃあ決まりね! 早速予約しとくね!」
「日取りとか細かい手続きはユカに任せるから、あとは頼むね!」
「オッケー! 任せて!」
そう言うと、ユカは本当にあっという間に手配を済ませてしまった。
なんと、出発はわずか二週間後。なんだか急に決まっちゃったな、と俺自身が一番驚いている。
ひと月も家を空けるなんて初めての経験だ。
長期間の船旅に少し不安もある。でも、こんな機会は滅多にないし、何よりあの海の上で感じた自由を、今度は世界規模で味わえるのだ。
俺たちの新しい生活は、想像もつかない波に乗って、さらに大きな世界へと漕ぎ出そうとしていた。
続く




