第23話 ノアの導きと、別世界での目覚め
伊豆の海から自宅に帰り着き、マユとタロウを見送ったのは、まだ午後3時くらいだった。
久しぶりの海遊びと、昨夜の旅館での出来事。
心地よい疲労感の中、俺は前から欲しくて買っておいた「室内用ハンモック」を部屋で組み立てた。
そこに体を預け、ゆったりと揺れながら好きな音楽を聴いていると、いつの間にか深い眠りに落ちていたらしい。
そして、俺は不思議な夢を見た。
真っ白な空間。そこに立っていたのは、かつて俺の前に現れたあの存在――ノアだった。
「……ノア。久しぶりだね。俺が呼んだのかな?」
「いいえ、今回は私が呼んだんですよ」
ノアは静かに微笑んだ。
「へえ……そんなこともあるんだな」
「ツインレイは、まだ見つかっていないようですね?」
その言葉に、俺の胸がチクリと痛んだ。
「うん。マリカが俺のツインレイだと信じていたんだけど……死んじゃったんだよ」
「そのようですね」
ノアの反応は淡々としていた。生と死すらも、この空間ではただの通過点に過ぎないかのようだ。
「ねえ、ノア。本当にツインレイなんて、会えるの?」
俺が縋るように聞くと、ノアは真っ直ぐに俺の目を見た。
「それは、あなた次第です。会えると信じていれば、きっと会えますよ。自分を信じるのです。信じる力は、何事にも代えられません」
「……そうか。わかった」
俺は一つ頷き、ずっと気になっていたことを口にした。
「もう一つ質問。……こうしてノアに会えたってことは、俺はまた、違うパラレルワールドに行くの?」
「それは、わかりません」
ノアはふわりと背を向けた。
「また私に会いたくなったら、呼んでくださいね。人生を楽しんでください! それでは、ごきげんよう!」
「ちょ、ちょっと待てよ! ノア!」
それ以上聞いても無駄なことはわかっていたが、俺はどうすればノアに会えるのかもわからないまま、遠ざかる背中に手を伸ばした。
「……ハイハイ! わかりましたよ!」
ヤケクソ気味に叫んだ、その瞬間だった。
――ヒュッ。
足元が消え、ものすごいスピードで高いところから真っ逆さまに落ちる感覚!
「うわーーっ!!」
俺は「はぁっ、はぁっ!」と荒い息を吐きながら、勢いよく跳ね起きた。
(あっ、やべぇ! ハンモックから落ちたか!?)
そう思って、床の衝撃を覚悟して周りを見回した。
だが、そこは――?
「……は?」
狭いワンルームマンションの天井じゃない。
俺は、ホテルのようなやけに広くてフカフカの、大きなベッドの上にいた。
しかも、よく見れば俺は一糸まとわぬ素っ裸だ。
「なんだこれ……どうなってんだ?」
混乱する頭で横を見ると、シーツにくるまった「素っ裸の女」が、スースーと気持ちよさそうに寝息を立てている。
(ん? 誰だ……!? マユじゃない、マリカでもない……)
記憶の糸を必死に手繰り寄せる。
その女の横顔を見た瞬間、別の世界の記憶が、脳内に滝のように流れ込んできた。
(……そうだ! 昨日はユカと、結構いいワインを飲んで……そのままベッドに行って、愛し合って寝ちゃったんだ!)
伊豆の海も、マユからの同居の提案も、すべてが遠い幻のように感じられる。
俺は確かに、パラレルワールドの境界線を越えてしまったのだ。
続く




