第2話 夢の中の女神そして消えた家族
その夜、奇妙な夢を見た。
暗闇の中に、ぽつんと光が灯る。
そこには、この世のものとは思えないほど美しい女性が立っていた。
透き通るような肌。長い銀髪。
彼女は静かに微笑み、俺を見つめている。
「こんにちは。私の名前はノア」
声が、頭の中に直接響いてくるようだった。
「私を呼びましたね?」
「はあ? 呼んでないけど……人違いじゃないか?」
俺は戸惑った。
ここはどこだ? 俺はリビングで寝ていたはずじゃ……。
「いいえ。あなたは魂の奥底で助けを求めていた。だから私が来たのです」
ノアと名乗る女は、一歩近づいてきた。
「よく聞いてください、カズキ。パラレルワールドへ行き、『ツインレイ』を探すのです」
「……ツインレイ?」
「そうです。魂が分かたれた、もう一人の自分。運命の相手。その相手を見つけることが、あなたが本当の幸せを掴む唯一の方法なのです」
俺は鼻で笑った。
なんだそれ、新手のスピリチュアル勧誘か?
「寝言は寝て言ってくれよ。俺は今のままで十分幸せなんだ。妻もいる、可愛い子供も二人いる。これ以上、何も望んじゃいない」
ノアは悲しげに首を横に振った。
「それは……『まだ』気づいていないだけ。私に会いたくなったら、また呼んでくださいね」
「だから、呼び方なんて知らねーよ! おい、ちょっと待て!」
彼女の姿が霧のように霞んでいく。
「待ってくれ! どういう意味だ! おい、ノア――!!」
叫び声を上げながら、俺はガバッと体を起こした。
「――っ! はぁ、はぁ、はぁ……」
心臓が早鐘を打っている。
全身が嫌な汗でびっしょり濡れていた。
「なんだ……今の夢……」
俺は額の汗をぬぐい、周囲を見渡した。
「……ん?」
違和感が、背筋を走る。ここは何処だ?
俺の家のリビングじゃない。
見慣れない天井。殺風景な壁。狭いワンルーム。
「サラ? エミ? レオ?」
名前を呼んでも、返事はない。静寂だけが、重くのしかかる。
「おい、冗談だろ……? 今日は潮干狩りに行くんだぞ……」
立ち上がり、部屋の中を彷徨う。子供のオモチャがない。妻の化粧品がない。
家族の痕跡が、何ひとつない。
「嘘だろ……」
その時だった。
ズキン、と頭が痛んだ。
それと同時に、俺の中で何かが「書き換わって」いく感覚に襲われた。
サラの笑顔。エミとレオのはしゃぐ声。
昨日まで確かにそこにあった「家族の記憶」が、まるで砂の城が波にさらわれるように、急速に薄れていく。
(やめろ……消えるな……! 俺の家族だ……!)
必死に思い出そうとするのに、顔が思い出せない。
名前が、響きだけの記号になっていく。
そして数分後――。
俺は、ベッドの縁に座り込み、溜息をついていた。
「……夢か?」
俺の名前は、前田和樹。42歳。
住まいは埼玉県戸田市の1DK、賃貸マンション。
独身、一人暮らし。
職業は運送会社のドライバー。
「……変な夢見たな。結婚して子供がいる夢なんてよ」
頭を掻きむしりながら、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。
昨日の晩酌で飲みすぎたせいか、頭が重い。
昨日も一人でアクション映画を見て、そのまま寝落ちしたんだった。
寂しい中年男の日常だ。
「パラレルワールド? ツインレイ? ……くだらねえ」
スマホで検索しかけた指を止める。
そんなファンタジー、あるわけがない。
俺はまだ気づいていなかった。
あんなに愛していた家族の存在を、世界ごと奪われたことに。
そして、この孤独な「独身生活」こそが、地獄への入り口だということに――。
今日は日曜日なので、食材の買い物に出かける予定だ。
俺は毎週日曜日に一週間分の食材をまとめ買いをする。
日曜日だと結構安売りなんかもやってるし、平日だと、なんか疲れちゃって買い物する気がしない!
特にこれといって趣味もないし、彼女もそんなに欲しいわけじゃない!
平凡な独身男性の平凡な生活だった!
両親も俺が中学を卒業するくらいには、もう亡くなっていた!親戚も遠くにはいるけど、何年も連絡とってないからどうしているんだか!
そんなんだけど、少しは幸せだった。
何事も期待すると、失望するから何事にも期待しないようになっていった。
他から見たら、なんてつまらない人生なんだ!なんて思われるかもしれないけど、俺はそれで満足だった。
ある日、鹿児島に住んでる幼なじみから電話があり、たまたまうちの近くに寄るからちょっと飲もうと言われた。
週末だったら、良かったけど明日は仕事なんだよな!とも考えたが、この機会を逃したら、またいつ会えるかわからない。
俺は飲みに出かけた。
友達に最初から「明日、仕事だからそんなに遅くまで飲めないぞ!」そう言って飲み始めた。
最初は時間を気にしながら飲んでいたが、しばらくぶりに幼なじみに会って、話が次第に盛り上がっていったのだ。
気が付くと夜中の2時を回っていて結構酔っぱらっていた。
友達は近くのビジネスホテルに泊まると言ってやっと帰った!
家に着いたのは3時を少し過ぎていた。
次の日は朝5時には起きなきゃいけない!慌ててベッドに横になった。
続く




