第12話 離婚届と高円寺のワンルーム
「……はい、これ」
翌朝、眠れないままリビングに行くと、マユが紙切れを差し出した。 離婚届だ。 俺の署名欄以外は、既にすべて埋められている。
「今月中には出て行ってね。パパもママも激怒してるから、これ以上ここにはいられないでしょ?」
「……ああ」
「言っておくけど、慰謝料も養育費もいらないわ。手切れ金代わりだと思って」
マユの声は震えていたが、目は合わせてくれなかった。 当然だ。俺は恩を仇で返した最低の男だ。
俺は震える手でサインをした。 ペンを置いた瞬間、俺はこの家の「家族」から、ただの「部外者」になった。
それからの数日間は地獄だった。 義父母と顔を合わせれば無視され、マユとは事務連絡のみ。 俺は逃げるように不動産屋を回り、高円寺の古いワンルームマンションを見つけた。
家賃は安い。広さは今までの風呂場より狭いくらいだ。 でも、即入居可だった。一刻も早く、この針のむしろから消え去りたかった。
荷造りはすぐに終わった。 俺の荷物なんて、服と少しの雑貨だけ。 8年もここに住んでいたのに、俺が積み上げたものは段ボール数箱分しかなかったんだ。
「……空っぽだな、俺の人生」
ガランとした部屋を見渡し、俺は自嘲した。 マリカへの未練? そんなものは、今の惨めさの前では消し飛んでいた。 俺は、ただただ全てを失ったのだ。
続く




