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異世界に転生したのでタイ料理店を開きます!   作者: ファースト
転生

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3/4

第3話:巨木での初めての夜と、奇妙なココナッツの激辛スープ

赤みを帯びたオレンジ色の夕日は、高くそびえる木々の向こう側へとゆっくりと飲み込まれていった。あっという間に暗闇が降りてきて、この森を覆い尽くしていく。夜の虫の音と、遠くから響き渡る奇妙な獣の遠吠えに、俺の腕には鳥肌が立っていた。


胃袋はあの絶品のフレイムボアのガパオ炒めで満たされ、体は【炎の温もり】のバフ効果でポカポカと温かかったが、俺の生存本能が警告を発していた。こんな見知らぬ森で地面で寝るなんて、肉食獣の前に「ご自由にどうぞ」と自分をビュッフェに並べるようなものだ、と。


今夜の寝床を探すため、俺は周囲を見渡した。贅沢は言っていられない。とにかく安全な場所が必要だ。ふと、そう遠くない場所にある一本の巨大な木に目が留まった。大人十人がかりでも抱えきれないほどの太さの幹。そして何より、俺でもなんとかよじ登れそうな高さに、大きな枝が伸びていたのだ。


「よし、地面よりは木の上の方が安全だろう」


俺は即座に決断した。しかし、その場を離れる前に、食べ残したフレイムボアの死骸に目をやった。もも肉はまだたくさん残っている。これを置いていくのはもったいない。そこで俺は、鋭い石を使って一番美味しそうな部位をいくつか大きな塊に切り分けた。それから、その辺に生えていたほどもある巨大な緑色の葉っぱをちぎってきて肉を包み、細いツルでしっかりと縛って即席の保存食を作った。


肉の包みを斜め掛けにして、俺は苦労しながら巨木を登り始めた。幸い、樹皮がかなりゴツゴツしていたため、足場や手掛かりには困らなかった。木と格闘すること約10分、ついに目星をつけていた最初の枝にたどり着いた。キングサイズのベッドよりも大きく、根元の部分が浅い窪みになっていて、体を丸めて寝るにはちょうどいい。


「ふぅ……。なんとか今夜は生き延びられそうだな」


俺はその窪みに身を沈め、肉の包みを傍らに置いた。両腕をきつく胸の前で組み、枝の隙間から夜空を見上げる。ここの星は、元の世界よりもずっと明るく、数も桁違いに多かった。淡い紫色の天の川がきらきらと輝いていて、息を呑むほど美しい。


その星々を眺めているうちに、疲労感がどっと押し寄せてきた。温もりのバフが切れるのと同時に、強烈な眠気が忍び寄ってくる。俺は目を閉じ、この新しい世界での最初の夜、深い眠りへと落ちていった。


……


チュン……チュン……。


楽しげな鳥のさえずりで目が覚めた。葉の隙間からこぼれる朝陽が顔を照らしている。森の朝の空気はかなり冷え込んでいて、俺は思わず体を丸くした。


「うう……。首が痛ぇ……」


俺は愚痴をこぼしながら上体を起こし、硬い枝の上で不自然な体勢で寝たことによる体の凝りをほぐすために背伸びをした。意識がはっきりしてくると、体が真っ先に要求したのは『水』だった。


喉はカラカラに乾いていた。昨夜、刺激の強いガパオ炒めをたらふく食べたせいか、今、死ぬほど喉が渇いている。下を見下ろすと、朝の森は夜よりもずっと穏やかで、すがすがしい空気に満ちていた。アリや虫の襲撃から辛くも逃れたフレイムボアの肉の包みを持ち、俺は慎重に木から降りた。


水場か、せめて露が溜まっている場所はないかと、寝床の周辺を探索して歩いた。すると、別の木の根元に転がっている奇妙な形の果実に目が留まった。やや小ぶりのスイカほどの大きさの楕円形で、外皮は濃いグレー。まるで鉄のように硬そうだ。


俺は近づき、すぐに鑑定スキルを使った。


【 アイアンココナッツ:非常に硬く頑丈な殻を持つ果実。中にはほんのり甘い純水と、エネルギー価の高い果肉が入っている。殻は器としてよく利用される。 】


「これって……天からの贈り物じゃないか!」


俺はこのグレーのココナッツに飛びついて抱きしめたい衝動に駆られた。飲み水になるし、調理器具まで手に入った!俺は急いでそれを抱え、巨木の下にある仮拠点(昨夜の焚き火の灰の山)に戻った。


次の問題は……これをどうやって割るか、だ。


鋭い石でコンコンと叩いてみた。まるで鉄パイプを叩いたような高い音が響く。カッチカチだ!俺はため息をつき、アイアンココナッツを頭上高く持ち上げると、昨夜竈かまどに使った大きな石に向かって力いっぱい叩きつけた!


ガキィィン!!


予想に反して、殻は粉々にはならなかった。まるであつらえたかのように、綺麗に真っ二つに割れたのだ。ほんのり甘い香りのする透明な水が少し飛び散った。俺は慌てて、なみなみと水が入っている大きい方の半分を拾い上げ、一気に飲み干した。


「ゴクッ……ゴクッ……プハーッ!」


香りの良いココナッツウォーターと冷たいミネラルウォーターを混ぜたような味だ。甘くて爽やかで、喉の渇きを一瞬で潤してくれた。殻の中の水を飲み干すと、まるで充電がフルになったかのように体に活力がみなぎってきた。


目が覚めると、今度は胃袋が動き出す……。今日の朝食は、喉通りの良い温かいスープが飲みたい気分だ。昨日のガパオ炒めも美味しかったが、朝から食べるには少し重すぎる。


俺はイノシシ肉の包みと、手の中にあるアイアンココナッツの殻を交互に見つめた……。肉がある。耐熱性の器もある……。となれば、作るメニューは『激辛スープ(トムセップ)』しかないな!


俺は再び同じ方法(残っていたイノシシの毛を着火剤にする)で火を起こし、残りの半分の殻に入っていた水をもう一方に移し替えて、石の竈の上にココナッツの殻を乗せた。まるで土鍋のようにピッタリと安定している。


お湯が沸くのを待つ間、俺は昨日残しておいた『涙の雫唐辛子』と『ロックガーリックの根』を取ってきて準備した。しかし、トムセップには酸味が欠かせない。俺は酸味のある食材を探して歩き回らなければならなかった。幸運なことに、鑑定スキルがいい仕事をしてくれた。小さな黄緑色の実がたくさんぶら下がっているツル植物を見つけたのだ。


【 つるライム(ライム・バイン):非常に強い酸味を持つ野生の果実。シトラスの香りが漂う。果汁を蜂蜜に混ぜて飲むと、喉の痛みに効く。 】


「いただき」


つるライムをいくつか採って拠点に戻ると、ココナッツの殻の中のお湯がグツグツと沸き立ち、内側についている果肉からほんのりと甘い香りが漂い始めていた。俺は鋭い石でイノシシ肉を一口大に切り分け、沸騰したお湯に放り込んだ。


肉に火が通り、良い香りがしてきたところで、荒く叩き潰した涙の雫唐辛子とロックガーリックの根を投入した。スープの色が少し濁り、食欲をそそる色に変わっていく。木の枝で軽くかき混ぜた後、最後につるライムの果汁をギュッと絞り入れた。


フレイムボアの骨から出たダシの香り(本当はただの肉のスープだが)、唐辛子の刺激的な辛さ、そしてつるライムの甘酸っぱい香りが混ざり合い、思わずゴクリと喉が鳴る。この匂いだ!これこそが、俺の知っているトムセップの匂いなんだ!


俺は慎重にアイアンココナッツの殻を竈から下ろした(異世界の不思議なアイテムだけあって、殻自体は思ったほど熱くなかった)。冷めるのを待つことなく、熱々のスープを一口すする。


「ズズッ……あぁ〜っ!」


強烈な酸味と辛味が感覚器官を突き抜ける。スープに染み出したココナッツウォーターのほのかな甘みが、辛さを絶妙に中和している。ほどよく煮込まれたイノシシ肉は、噛むたびに弾力があり、ジューシーなスープが溢れ出してくる。涙が出るほど美味い。この味こそ、俺のようなタイ人が求めていた味なんだ!


【 スキル『料理』が Lv.3 に上がりました 】

【 バフ効果を獲得しました:夜明けの清涼感(1分ごとにHPとMPが1%回復)持続時間2時間 】


またバフを獲得した。しかも今回はHPとMPのリジェネだ。俺のMPはたったの10しかないが、それでも目に見えて体が軽くなるのを感じた。木の上で寝たことによる体の痛みも、嘘のように消え去っていた。


俺はフレイムボアのトムセップを一滴残らず飲み干し、殻の中の肉もすべて平らげた。至福の表情でお腹をさする。


「よし、お腹もいっぱいになったし……。そろそろこの森を抜け出す方法を見つけないとな」


俺は一人つぶやいた。このままここに居続けたら、一生イノシシ肉しか食べられなくなってしまう。俺は外の世界が見たい。異世界の街がどんな風になっているのか知りたい。耳の長い綺麗なエルフはいるのか?料理に使える珍しい食材を売っている市場はあるのか?


俺は立ち上がり、山火事にならないよう竈の火を完全に消した。水を汲むのに使えるかもしれないと思い、空になったアイアンココナッツの殻を手にする。どっちの方角に進むべきか迷っていると、遠くからかすかな音が耳に届いた。


ザァー……ザァー……。


「水の流れる音だ!」


俺は期待で目を輝かせた。遭難した時の鉄則は、水源に沿って歩くことだ。川は必ず人里や村に繋がっているからだ!


迷うことなく、俺は肩に掛けたイノシシ肉の包みを締め直し、水の音がする方角に向かって歩き出した。口元には自然と笑みがこぼれる。


本物のスローライフな冒険は……この川の終点から始まるんだ!

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