第4話:鉱泉の小川と、招かれざる客を呼ぶ塩焼き魚
水の流れる音を頼りに歩き続けた。体感ではおそらく2時間ほど経っただろうか。奥へ進むにつれて、鬱蒼としていた木々は次第にまばらになり、地面に差し込む陽光の量が増えてきた。深い森の湿ったカビ臭さは、水の冷涼な気配と草の清々しい香りへと変わっていた。
そしてついに、目の前に広がった光景に、俺は立ち止まって満面の笑みを浮かべた。
目の前には幅の広い川が姿を現した。水は驚くほど透明で、川底の色とりどりの小石がはっきりと見える。水流は穏やかで、急流ではない。川の両岸は岩場と粗い砂浜が交互に続いており、雰囲気は最高にチルい。100%大自然のリゾート地に迷い込んだような気分だ。
「はぁぁ……生き返るわ」
俺は(相変わらずビーチサンダルを履いたまま)小走りで水辺に向かい、イノシシ肉の包みとアイアンココナッツの殻を岩の上に置くと、水をすくって顔を洗った。冷たい水の心地よさに、森歩きの疲労が吹き飛ぶ。ついでに手足も洗い、焚き火のすすやフレイムボアの血の汚れをすっきりと洗い落とした。
さっぱりしたところで、またしても俺の胃袋が抗議を始めた。今朝はトムセップ(激辛スープ)を殻一杯平らげたとはいえ、所詮はスープと少しの肉だけだ。2時間も歩けば、エネルギーはすっかり消費されてしまっている。
何か腹の足しになるものはないかと、透明な水の中を覗き込んでみた。すると、腕の太さほどもある黒い影が何十匹も、流れに逆らって泳いでいるのを見つけて目を丸くした。
俺がそれらをじっと凝視すると、すぐに【食材鑑定】スキルが発動した。
【 シルバーウロコ魚 (Lv.1):一般的な淡水魚。光を反射して銀色に輝く鱗を持つ。白身でふっくらとしており、小骨が少なく毒はない。焼くか煮て食べるのが一般的。 】
「こいつはツイてる!いや、魚なだけにウマい話か!」
俺は嬉しさのあまり叫び出しそうになった。身が詰まっていて小骨が少なく、おまけに腕の太さほどの特大サイズ!こいつは『塩焼き』にするには最高の極上食材じゃないか!
でも待てよ……。釣り竿も網もないのに、どうやって捕まえればいいんだ?素手で飛び込んで捕まえようとしても無理に決まっている。俺の素早さステータスなんて、ただの一般人レベルなんだから。
何か使えるものはないかと辺りを見回すと、木の根元近くに落ちている長くて乾いた木の枝に目が留まった。拾い上げて硬さを確かめてみると、そこそこ頑丈な木材のようだ。俺は愛用の鋭い石(今や万能ナイフと化している)を使い、木の枝の先端をできるだけ鋭く削っていった。
野生児スタイルの魚突き用の銛……完成だ!
ビーチサンダルを脱ぎ、スウェットパンツの裾をまくり上げると、すねまで浸かるほど冷たい水の中へ静かに足を踏み入れた。魚を驚かせないよう、できるだけ足音を立てずに進む。彫像のようにピタリと静止し、手にした木の銛を構え、近づいてくる巨大なシルバーウロコ魚をじっと睨みつける……近づいてくる……。
「たぁっ!!」
ドスッ!!
鋭い木の先端は正確に水面を突き破った(昨日から覚醒し始めた生存本能のおかげだ)。水中の魚が必死に抵抗し、その反動で木がガタガタと震える。俺はすぐさま力を込め、やつを水面へと引きずり上げた!
2キロ近くありそうな丸々と太ったシルバーウロコ魚が、銛の先でビチビチと跳ねている。その銀色の鱗が、遅い朝の陽光を反射してキラキラと輝いていた。
「はははっ!やったぞ、生き延びたァァーッ!」俺は誇らしげに大笑いした。たった一匹の魚を捕まえただけなのに、どうしてこんなにも達成感があるんだろうか。
魚を岸へ持ち上げ、苦しませないように素早く息の根を止めた。再び【解体】スキルを呼び出す。手にした鋭い石が滑るように魚の腹を切り裂き、胆嚢を少しも傷つけることなく内臓を綺麗に取り除いた(胆嚢を潰すと身がとんでもなく苦くなるからな)。だが、鱗はあえて落とさないことにした。なぜなら、本格的なタイ風の塩焼きは、鱗を鎧代わりにして、魚の身が乾燥しすぎたり焦げすぎたりするのを防ぐからだ。
魚は手に入った。このメニューに欠かせないもう一つのものは……『塩』だ。
ガパオ炒めやトムセップを作った時は、血や肉本来のわずかな塩気に頼ったが、塩焼きの場合、塩がなければただの味気ない焼き魚になってしまう。ドキュメンタリー番組で、水源周辺の岩場には岩塩や天然の塩の結晶ができることがあると微かに記憶していたため、俺は川沿いの岩の隙間を探索し始めた。
しばらく探し回っていると、ある湿った岩の隙間を通り過ぎたところで鑑定スキルが警告音を鳴らした。
【 マウンテン・ロックソルトの結晶:鉱泉の川沿いの岩場に結晶化する天然塩。まろやかな塩味があり、ミネラルを豊富に含む。 】
それは岩の隙間に張り付いている乳白色の結晶の塊だった。俺は急いで石を使ってそれを叩き割り、両手いっぱいにかき集めた。舌に少し乗せて味見してみると、スーパーの袋入りの塩のような刺さるような辛さではなく、まろやかな塩気だ。これはかなりの上物だぞ!
食材は揃った!リバーサイド・キッチン、オープンだ!
上達した手つきで再び火を起こす(フレイムボアの毛を使った着火レベルも上がっている)。火が落ち着き、赤々と熱を帯びた炭火になるのを待つ間、俺は魚の下準備に取り掛かった。
岩塩の結晶を石で細かく砕き、シルバーウロコ魚の全身にまぶしつける。塩をケチらずに厚く塗るのがコツだ。特にヒレと尻尾には、火で焦げないようにたっぷりと塗り込む。その後、『ロックガーリックの根』と『つるライムの葉』(ライムの実を探した時に一緒に摘んでおいたもの)を取り出し、生臭さを消して香りを良くするために魚の腹の中に詰め込んだ。
生の木の枝を使って、魚の口から尻尾までまっすぐに串刺しにし、炭火の横の地面に突き刺した。炎が直接魚を舐めず、熱だけがしっかりと伝わる絶妙な距離感だ。
あとは……待つだけだ。
「ふぅ……。スローライフって最高だな」
俺は川辺で膝を抱えて座り、穏やかな川の流れる音と、焚き火の熱で魚の脂と塩が焼けるジューッ……ジューッ……という音を交互に聞いていた。銀色の鱗は次第に茶色がかった乳白色へと変わっていく。新鮮な魚が熱されて放つ香ばしい匂いが漂い始め、腹の中に詰めたロックガーリックの微かな刺激臭とつるライムの葉の爽やかな香りと入り混じる。それは川の湾曲部全体を包み込むほどだった。
30分ほど経った頃、俺のシルバーウロコ魚の塩焼きは完璧に焼き上がった。外側の鱗はパリパリに乾き、美しい純白の塩の鎧となっている。その香ばしさに、俺はゴクリと大きな音を立てて喉を鳴らした。
魚を刺した串を静かに地面から引き抜き、あらかじめ敷いておいた大きな葉っぱの上に置いた。石のナイフの先端を使って、硬く焼き上がった塩の殻と鱗を慎重に剥がしていく。
パリッ……。
塩の鎧が開かれた瞬間、閉じ込められていた芳醇な香りと共に真っ白な湯気が立ち上った。ふっくらとした真っ白な身は、骨から出た旨味たっぷりの出汁と肉に挟まれた魚の脂で艶やかに輝いている。口に入れれば溶けてしまいそうなほど柔らかそうだ。
「いただきます!」
俺は待ちきれず、(綺麗に洗った)素手でふっくらとした白身をむしり取り、そのまま口に放り込んだ。
「んんん〜〜っ!」
俺は至福の極みで唸り声を上げた!身が信じられないほど甘い。冷凍されていない新鮮な川魚特有の自然な甘みだ。マウンテン・ロックソルトのまろやかな塩気が、魚の身の奥深くまで絶妙な塩梅で浸透している。腹に詰めたニンニクとライムの葉のハーブの香りがいいアクセントになり、生臭さを100パーセント完全に消し去っていた。
美味い……美味すぎて止まらない!俺は次から次へと魚の身を口に運んだ。噛む必要がないほどフワフワな食感だ。これで、唐辛子とニンニクを叩き潰してライムを絞った特製のシーフードソース(ナムジム・シーフード)でもあれば……今ここで死んでも悔いはないぞ!
【 スキル『料理』が Lv.4 に上がりました 】
淡水魚の塩焼きを味わう天国の時間は、半分ほど食べたところで……俺の耳が異常な音を捉えたことで中断された。
ガサッ……ガサッ……。
後ろの茂みから、木の枝や草を踏みしめる足音が聞こえる!
俺は魚の身を口に運ぼうとしていた手をピタリと止め、横に置いてあった木の銛を掴んでしっかりと構えた。心臓が激しく脈打ち始める。またイノシシか?それとも、もっと恐ろしい化け物か?
俺はゆっくりと立ち上がり、揺れている茂みをじっと見据えた。焼き魚の匂いが香ばしすぎて、何かを呼び寄せてしまったのだろうか。
「だ、誰だそこにいるのは!姿を見せろ!」俺は脅すように叫んだ。できる限り低く、威圧的な声を出そうと努めた(足はガクガク震えていたが)。
茂みの揺れがしばらく止まり……やがて、ゆっくりと葉が掻き分けられた。
そこから姿を現したのは……凶悪な顔をした魔物でも、巨大な魔獣でもなかった。
それは……少年?
茂みからよろよろと歩き出てきたのは、14、5歳くらいの少年だった。ボロボロに擦り切れた古い獣皮の服を着ており、顔は泥や埃で汚れている。しかし、俺の目を大きく見張らせたのは、彼の髪の間から『茶色いモフモフの三角形の耳』が飛び出していて、背中には同じ色のボリューム満点の『ふさふさの尻尾』が地面に向かって力なく垂れ下がっていたことだ。
こ、これは……獣人!狼獣人族だ!これぞ本物のファンタジーが目の前に現れた!
しかし、目の前にいるその子狼の獣人の状態は、あまり芳しくなさそうだった。両足は力が入らないのかプルプルと震えており、本来なら鋭く猛々しいはずの琥珀色の瞳はうつろで、ひどく疲れ切っているように見える。
狼の少年は顔を上げ、俺を見た……いや、俺を見てはいなかった。彼の視線は、俺の目の前にある葉っぱの上の『塩焼き魚』に完全に釘付けになっていたのだ。
その小さな黒い鼻がピクピクと動き、空中の匂いを嗅ぎ取っている。垂れ下がっていた尻尾がかすかに揺れ始め、口の端からは透明なよだれが隠しきれないほどタラリと垂れていた。
ギュルルルルルル〜〜ッ!!
子狼獣人の腹の虫の音が、雷鳴よりもずっと大きな音で川の湾曲部に響き渡った!
少年は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた。彼はガクッと膝から崩れ落ち、完全にノックダウン状態だ。両手で自分のお腹をきつく押さえ、まるで雨の日に捨てられた子犬のように、哀れっぽい上目遣いで俺を(いや、魚を?)見つめてくる。
「お……オレ……それ……ハァッ……」かすれた声で絞り出すようにそう言うと、彼はそのまま意識を失いかけ、地面に倒れ伏しそうになった。
「おい!ちょっと待て!」
俺は慌てて手にした銛を放り出し、駆け寄って少年の体を抱き留めた。体は羽のように軽く、しかも熱を出しているのか異常に熱い。きっと何日も食事をとれず、森をさまよっていたに違いない。
俺は深い長いため息をついた。葉っぱの上に残っている半分のシルバーウロコ魚の塩焼きと、空腹で気を失いかけながら目を閉じている泥だらけの顔を交互に見比べる。
まあいいか……。一人で食べるのも口寂しかったところだしな。これも何かの縁だ、小動物(?)にエサをやるボランティアだと思えばいいさ、パーキン。
「起きられるか、坊主……。ほら、これ食えよ」俺は彼の頬を軽く叩いて意識を呼び戻し、焚き火の近くに座らせるように支えた。
『食え』という言葉を聞いた瞬間、モフモフの狼耳がピクッと立ち上がり、琥珀色の目がカッと見開かれた。
どうやらこの食事……半分の塩焼き魚じゃ全然足りなさそうだな?異世界タイ料理店の記念すべき第一号となる招かれざる客は、とんでもない極限の腹ペコ状態でやってきたらしい!




