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面倒事

 騎士の話…令嬢失踪の原因の憶測などを聞いていたアム。そんな二人に声をかける男がいた。


「り…領主様!?」騎士が声を上げる。自分の雇い主が街道まで出向いてきたことに驚き、声を上げる。


「…彼は?」


「ええと…旅人で…捜索の詳細を説明していたところです」


 十把一絡げの捜索手配を知る一般人。アムもただそれでしかない。が。

 立派な鎧の騎士を十数人。食堂内部と外に控えさせた、立派な髭と、つややかな黒髪をしたその領主は表情を歪ませ。


「頼むうううううちの娘を!アリシアを探し出してくれえええ」


 涙ながらにその一般人にすがりついてきた。


 *


「ぃよっしゃあああああああああああああああ!」


 歓喜の叫びを上げ、街道を全力疾走するクェード。

 付き纏っていた自称弟子とこれで別れられる、そういった喜びであった。

 いくら魔術に長けていると自負していても、弟子を取り気楽な一人旅から荷物を背負うこともない。これを機に別離を図る。当然のことだ。

 そこに1つの音。悲鳴が割り込んできた。

 目をこらすと、向かう先に魔物と、一人の女性が見える。護衛もつけず出歩いてる女に違和感を覚えたが。しかし、今は機嫌がいい。襲いかかる魔物に向かって呪文を放つ―――


 *


「これがアリシアが術士学園に入学したときの写真で…」


 クェードの自称弟子、アムは捜索依頼から、すがりつくような嘆願。そこからいつの間にか愛娘の自慢話を聞かされる羽目になっていた。そして。


(なんか…本当に宿に向かっただけなんだろうか)


 領主の話を聞き流しながら、先ほど別れた師のことを考え、不安を覚えて思考する。


 *


「ありがとうございます」


 お礼の言葉を受け取るクェード。初見でカタギに見えない自分は警戒されやすいと自覚していたが、流石に魔物を倒したことで感謝が勝ったのだろうか。


「なに、たまたまだ。ま、護衛もつけずに出歩くのは辞めた方がいい。整備された道とはいえ、この先も長い。野生動物や魔物の危険まで排せないだろうからな。俺は急ぐのでこれで」


 忠告し、早々に別れを告げる。成り行きで助けたが何の打算が合ったわけでもない。


「あの、もし」


 しかし。女性…女と言っても注視すれば、少女ほどの若年。ウェーブがかった長い黒髪に、大きなリボンをつけ、街道を歩くには不釣り合いな立派で高級そうなドレスを身に纏ったその少女。

 自分にはそういう興味がないが、かなりの美少女といっていいだろう。大きな瞳に長いまつげ、幼さも美しさもかね揃えた上品な顔つきの、その少女がが呼び止めてくる。


「よろしければ…その、安全な場所まで私を連れて行ってくださいませんか。無論、お礼はしますので」


 頼み事をしてきた。面倒くせえな、と思い内心悪態をつくも、確かに一度魔物を退けたとはいえ、こんなところに少女一人放置も目覚めが悪い。


「まぁいいさ。俺はクェード。クェード・フレアス。術士協会の伝書士をしていて今はザッカード王国への旅の途中だ」


 自分の名前と、身分を明かす。それに応えるように、少女はドレスを両手につかみ社交界の挨拶のように、名乗る。


「わたくしは、アリシア・グランフォードと申します。お見知りおきを、クェード様」


 んん…? 何処かで聞いたような名を告げてくる少女に記憶を探りはじめるが。


「あの、できればお聞きしたいのですが…」


 少女はその美しい顔を赤らめ、質問を投げてくる。


「クェード様には、お付き合いしている女性はいらっしゃいますでしょうか…?」


 その問いに返事をする隙もなく(するつもりもなかったが)少女は黄色い声を。

 キャー。恥ずかしい!何を聞いてるのワタクシ。そんな感情の交じった声を上げるのであった。


(…面倒くせえ…)


 クェードは半目で、虚空を見つめていた。

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