捜索依頼
「はああああ…」
わざとらしさ混じりに、ため息を吐き出す。
「師匠、悩み事ですか?」
街道沿いの食堂。肉料理をつつきながらため息の原因を睨み付ける。
「やめてくださいよ。タダでさえカタギに見えないお顔してるんですから」
「弟子を自称するくせに敬意とかねえのかお前は」
はぁ。今度のため息は自然と吐き出される。
「アムを名乗る自称弟子につきまとわれててな」
「あ、師匠これ奢ってくださいよ」
"師匠"の言葉を無視してメニューを指さす。味のいいことで有名な品種の鶏肉の揚げ物。他の肉料理よりは値は高いが。
「ええい、路銀ぐらい自分で用立てろ」
「でも陸タコ討伐の報酬で多少は潤ってるでしょ」
たしかにタコ討伐の切っ掛けは目の前の少年だが、倒したのは自分だ。奢る義理はないだろう。そんな結論を吐く前に声をかけられる。
「あの、よろしいか」
食堂に場違いな全身甲冑の男。鎧に刻印された紋章を一瞥する。近隣の大都市の領主に仕える市街騎士、というやつだ。街道まで姿を見せるのは珍しいが。
「領主の一人娘、アリシア・グランフォード様が行方不明なので、その捜索をしているのです」
「ふうん」
興味なさげに応える。あいにく、そういった令嬢を見かけた覚えもないし、わざわざ思い出す気にもならないが、自称弟子を名乗る少年は興味津々で騎士の話を聞いている。
(めんどくせえ…)
アリシア・グランフォード。その噂は近隣に響いていた。美人である。秀才である。そして、我が儘である、と。
騎士をこき使い、自己愛が強く、なんでも街道に自分の像を建てようとしてその出来に不満を持って叩き壊したとも。
一生縁の無さそうなそんな話を聞き流しながら、アムが瞳を輝かせるのを見逃さなかった。
自称弟子は、自分を英雄の卵かなにかと勘違いしてるのだろう。こういうことに首をつっこみたがる。クェードとは正反対の少年だ。
領主の大切な一人娘の失踪という事件に義侠心かしらないが関わりたがっていた。ぼんやり聞いていた話に助けるほどの女かという感想を抱いたが。
(単なる家出だろ)
答えを頭の中に吐き出す。常に護衛がついているような身分。そのシフトの隙をついての失踪。勤務状況を知っている内部犯か、本人による家出の可能性が高い。
そして犯行声明がないまま数日。協力者の有無までは分からないが、お嬢様当人が計画に関わってるだろうことは想像できる。
聞いた性格では不便に気づき早々に根を上げ帰ってくるだろう。話を聞くだけアホらしい。
そんな毒づきを内心に抱えたまま食事を終え、立ち上がる。
「あ 師匠? どこへ」
「宿。てめえが首をつっこむのは自由だが俺を巻き込むんじゃねえよ」
依頼として受ける気満々の自称弟子と市街騎士を半眼で一瞥してから、自分の伝票を拾い上げ会計を済ませに店員に向かう。アムは自身の暴走を少々反省したような表情を浮かべてはいるも。
「あの方は手助けしてくれないので?」
「師匠は面倒が嫌いなそうです」「はあ」
そんな言葉を吐くので、静かに立ち去った。
静かに。
とはいったが、それは店を出るまで。店を出て、声が店内に届かない程離れるまで。
すう。息を吸い、吐く。あの自称弟子は、義心から騎士の話を聞き、事情を聞き。そしてそのままお嬢様とやらを捜索するだろう。
これは。弟子を自称し付き纏う少年を置き去りにして、逃げる好機でしかない。
「よっしゃああああああああああああああああああああーッ!!」
その日街道を行き来する人々に、ツラが恐ろしい男が嬉しそうに叫びながら全力疾走で街道を爆走する姿が目撃されていた。
*
何か嫌な予感がする。クェードの弟子を名乗る少年は聞こえなかった筈の歓喜の声を感じてか、そんな虫の知らせを聞いていた。




