破刃剣
魔王の一体、破刃王。斬ることを司るような魔族の王。
その力は、視ただけで相手を斬り殺し、言葉だけで相手を斬り殺し。長い黒い髪をたなびかせ、"歩く"という所作ですら斬撃となりあらゆるものを切断したという。
その魔王の魔力を借り受け、自らの剣に与えるのが。
「破刃剣」
クェードの必殺の魔術。これを付与した剣で斬ると考え、相手に向かって振るうことで放たれる斬撃は、あらゆるものを斬殺する。
がくん、と恐震現象で空気が震える感覚に襲われる。近くにある魔力の差による体調不良。アムも、女暗殺者も不快に顔を歪ませる。もっとも後者は自分が簀巻きにされているからもあるだろうが。
この魔導魔術の厄介なところは払うコストだ。自分の保つ魔力を根こそぎ奪い発動し、およそ5秒効果が続く。効果が終わると同時に、魔王に回収されたように、魔力と体力を奪う。術は途中で切り上げることはできない。きっかり魔力を奪っていく。だから、その5秒で。
「終わらせるッ」
フレッシュゴーレムの体を斬るイメージを浮かべながら、魔術が付与された剣を振るう。距離を無視した斬撃が、足を凍り付かされ身動きの取れないゴーレムに襲いかかる。
まずは一撃。ゴーレムの体は袈裟斬りに切断され、斜めに分かれた上半身が宙を舞う。
二撃目。今度は舞った上半身のうち、頭部を胴体と斬り離す。
三撃目。頭部をさらに縦に裂きつつ、上半身、そして下半身を続けて左右に斬り、裂く。
四撃目。時間の限りの斬撃を加えていく。
これには理由があった。生命を持たないゴーレムを無力化する最有力の手、その体のどこかに刻まれた真理の文字を削ること。
この短い時間でそれに傷をつけなければ肉体を再構築し、脅威として復活する。
五撃目。六撃目。ゴーレムの体が細切れに分断されていく。そして…七回目の斬撃を加えようと構えた時にそれは訪れる。タイムリミット。がくん、と手と足の力を失い、その場に膝を落とす。よくはない状況だが、あれだけ切り裂いたのだ。下手な鉄砲ではないが、真理の文字に当たる確率は高いはずだった。
だが。その目論見は外れた。真理の文字を傷つけることに失敗したのだ。六度の斬撃でブロック状になったゴーレムはその破片を転がして、復活を図っていた。ただ、それは単純な失敗ではない。
先の斬撃で触れなかった部分。そこに文字がある可能性は高い。脚部だ。細切れになった膝上よりも下。歩行によって文字が傷つきかねない足の裏の可能性は低い。ならば。
「アム、そいつの脛を斬れっ!」
この場で唯一残された動ける人間、自らの弟子に指示をする。アムは言葉の意味を理解するよりも早く、体を動かした。術で動けなくなるリスクを告げたわけでもないが、この数時間、ゾンビ退治で肩を並べたからか。淡くも芽生えた師弟の信頼か。クェードの言葉に従ってフレッシュゴーレムの残された部位、足2本、術で凍り付いたその脛を剣で斬る。
瞬間。狙い通りか。真理の文字を傷つけられたであろうゴーレムはその体となる腐肉を塵となり崩壊させていく。
「終わった…?」
アムが辺りを見回す。ゴーレムの肉体も、ゾンビも見当たらない。地下墓地はただ静かな姿を取り戻したようだった。ただ、アムによって縄で身動き取れなくされた暗殺者が不満そうに縄を解けと訴えてくるが、疲弊した体にその余裕はない。そもそも命を狙ってきた相手だ。
とりあえずは、原因が何かもわからないゾンビ騒動も、四回目となるクェードを狙った襲撃も決着がついたようだった。
後は。
ぱち、ぱち、ぱち。
気のない拍手をしながら目の前に現れた新たな人物。いや、見るからに奇抜な格好をしたそれが、敵対者でないことを願うばかりであった。




