暗殺者③
「さ、さぁメイル・グランフォード様なんて方は私、知りませんよ?」
目を泳がせ、雇い主のフルネームを吐き出す暗殺者に若干頭痛を覚えながら、クェードは両目の間を揉みほぐす。そんな名前だったのか、と自分も知り得ない(聞いていたかも知れないが忘れた)アリシアの父親の名前を勝手に教えてくれた彼女に、どう話を続けようか。
「アリシアさんなら宿で料理用意しながら帰りを待ってますよ」
アムが代わりに答える。そんな話の途中だったか。それを聞いた暗殺者は依頼者の娘の状況を知り、勝手に安堵した様子だった。これ以上の答え合わせいらねえなあなんて考えたりもする。適正のない職に就くとここまで周りを不幸にするのかななんて哲学地味た思考を巡らせながら、言葉を吐きかける。
「ったく、アリシアの父君は懲りもしないというか…まぁ、そこら辺話しつける間もなく別れた気もするがこんなの送りつけてくるとはな」
「こんなの」
こんなの、に色々な意味を含ませた物言いに、アサシンちゃんさん(仮)は少々機嫌を悪くして言い返してくる。
「私はともかく家業を悪く言わないでくださいよ!」
「両方だ両方。そもそも暗殺業をよく言う必要はないし、その内容に精密さを要求される仕事に不適格なアンタを悪く言ってんだよ!」
流石に罵倒してしまうがアサシンちゃんさんは納得いかないようで頬を膨らませて反論してくる。
「なんですか、私が自分の本名言いかけたり依頼内容や依頼主を明かすあほあほ暗殺者だって言いたいんですか!?」
「ああ、うん…え? 自覚ないのか…?」
反論…? これ以上頭痛を重くしてくる暗殺者に言葉に詰まりかける。
「それどころかアリシアごと俺を爆殺しようとしてるし魔物を制御できずにけしかけるし悪いところしかねえじゃねえか」
はー、と長いため息を吐いて吐き捨てる。
「…?」なんのことやら、としらを切った表情で見返してくる彼女にさらに続ける。
「とにかく、これ以上付き纏って襲撃だのしてくんなら、てめえの家探し出して王都警備なりに突き出すからな!?」
果たして貴族付きの暗殺者にそう言った法が通用するのかは知らないが。それなりにまずいと思ったか暗殺者は押し黙る。
と。
そんな言い合いをしているうちに、数もまばらになったゾンビの様子が変わっていることに気づく。彫像のように動きを止めている。違和感。ゾンビを操ってるはずの彼女が何かした様子もない。
いや。そもそも。
「なあ、あれはお前が操ってんだよな?」
やがて動き出し、一箇所に集まり自らの肉体をぶつけて、圧縮していく異様な様子を見せるゾンビ達を指差し、暗殺者に問いかける。
「だから、なんの話ですか。ゾンビは元々発生してましたし私が依頼主のお嬢様を巻き込んだりするわけないじゃないですか」
「…」
そうか、こちらの勘違い。そもそも、そもそもだ。
「こんなアホが魔物操れるわけないかー」
そんな感想と結論と、それに対する暗殺者の非難の声と共に、ゾンビが圧縮されて生み出された腐肉のゴーレムが産声を上げ、三人へと威嚇の咆哮を上げたのはほぼ同時であった。




