暗殺者
襲い来るゾンビどもを、クェードとアムは蹴散らしていく。
使い物にならない魔剣は収めたまま、元から愛用している剣で斬る、金属が仕込まれた靴で足を叩き、払い、転倒させ、頭蓋を砕く、あるいは火の魔術で焼き払う。
(しかし)
やはり妙だ、とクェードは疑念を浮かべる。この数。火葬場が整備されてない田舎はともかく、ゾンビの発生を防ぐために火葬を義務づけられているはずの王都でのこの大量のゾンビの発生。さらに言えば、儀式を担当する教会による法術で予防することも出来ると聞く。
依頼では、数体のゾンビという話だった。これは手を抜いた葬儀のためだったのは推測は立つ。それを増やした、というよりはこの手口。
(便乗されたか)
クェードを狙っての襲撃。この依頼を受けたことまで察知されていることに舌打ちする。とはいっても、協会の試験や泊まる宿まで知られていたので今更か。だが、路銀が心許ない現状で選択肢が限られてるのも事実。ゾンビがどれだけいるかはわからないが、強敵というわけでもない。しらみつぶしとはいかずとも、依頼内容と大きくかけ離れた時点で組合に責がある。ある程度数を減らした時点で依頼の完了という形を取ることもできるだろう。当然、解決には至ってないので報酬の増額か、内容を改めて再度依頼となるだろうが。
自分を狙った襲撃を悪用しての路銀稼ぎは少し罪悪感も沸くが、もっとも、それも元々推測でしかない。自分を狙っているという証拠は、状況からそう判断したにすぎないのだ。未だおぼろげにすら姿を見せない襲撃者がこの場に現れれば話は変わってくるが…
と、報酬の増額を打算し始めたクェードのその思惑は打ち砕かれる。
「……!」
ゾンビの群の中に、姿隠しの魔術を解除したか。突如現れた女が、1人佇み、クェードを睨みつけていた。
「クェード・フレアス…その命、頂戴する」
黒髪長髪。顔を眼以外隠した全身黒ずくめ。身体のラインが強調された革の服に、得物はおそらく毒であろう液体の滴る短剣。これでもか、といった暗殺者然とした女。その彼女がゾンビの中からこちらに向って駆け…
襲いかかろうとしたところを、ゾンビに捕まって押し倒される。
「えぇ…」
それを目撃したアムが、思わず声を漏らして困惑していた。
「きゃああああ何もうこいつら! 襲うならあの男襲いなさいよーっ」
やたら可愛い悲鳴を上げて、自分に積み重なるゾンビを非難する女。
「いやあああ 臭いーっ 重いーっ」
ゾンビは強敵ではない。腐った肉体でただ臭い。だから魔剣も嫌がった。そんなことをクェードは目の前の哀れな犠牲者を前に再確認する。
とはいっても、数は数だ。幾重にも重なって倒れ込まれたら圧迫死の危険性もあるし、引っかかれたり噛まれたら破傷風になりかねない。クェードには関係無いが、遺体を損壊させるのに抵抗がある者もいる。
自分を襲撃してきた暗殺者の女を助ける義理はないどころか、見殺しにした上で魔霊に憑かれ新たなゾンビになるのも構わないが、ようやく姿を見せた犯人をモノ言わぬ死体にするのも話が長引く。
当初の推測であった魔族ではなく、ただの人間であろう女の暗殺者であったことには少し引っかかるが、積み重なるゾンビを一体一体引き剥がしては焼き払っていく。この作業はアムにも手伝わせた。
「あ ありがとうございましたぁ…」
圧迫死を免れた襲撃犯は地面にへたりこみながら、腐肉の体液まみれの身体を、暗殺者には不釣り合いな可愛い刺繍入りハンカチでなんとか拭おうと苦戦しつつ、露骨に涙目、涙声でお礼を言ってきた。それでいいのかあんた、とクェードは心の中でつっこむ。こんなやつにこの数日頭を悩ませていたのか。
この調子なら襲撃理由や依頼主まであっさり吐かねえかなあなんて思ったりもしたが、流石に気を持ち直したか立ち上がって自分の仕事を思い出し。
「こ、この礼はあっても、命をとることに代わりはない! 覚悟してもらいますクェードさん!」
指さし、再び宣言してくる。
ちょっと恩義感じてんじゃねえよ。少しだけ口調が柔らかくなった彼女に呆れながら。
そしてこちらに宣言することに気を取られていたか。またゾンビにつかみかかられ、押し倒される彼女に向ってため息をつくのであった。




