魔剣②
墓地という公共の場での依頼と言うことで、監督役の冒険者組合職員と合流する。荒くれどもが依頼を理由に余計なことをしないのを防ぐ目的が強い。墓守は当然いるだろうが、監視の目を増やす理由はあっても減らす理由もない。国家の仕事の外部委託であり報酬は飛び抜けて破格ではないが、それでもかなりの金額だ。
監視と行っても墓地への入り口で待機し、ことが終わった後に検分する程度だが、他の冒険者が請け負わなった理由はこういう監視の眼があるからか。それでも、数体のゾンビ程度、墓地の守衛、墓守が対処しなかったのは若干疑問に思うが。
職員とは入り口で別れ、地下墓地への通路を抜けると厳重なバリケードが構築され、ゾンビがあふれ出ないよう防がれていた。
あふれ出ない。つまるところ。
「これはひでえ」「ひえっ」
クェードとアムが思わず言葉を漏らす。
今にも街へとあふれ出そうなほど、ゾンビが大量に発生していた。その数は、広大な地下墓地が手狭に見えるほど。
(数体、ってのは事前に聞いていたが報告漏れか、先ほどこうなったのか)
金額に見合った依頼になったかねとため息をつき、バリケードを破壊しようとする手前のゾンビをそのバリケードごと呪文で吹き飛ばし、地下墓地へと進入する。
「アムは出口の確保」弟子に指示し、ゾンビに対処できる範囲の死角のサポートを命じる。腐肉の死者は竜牙兵とは違い、肉体を損壊できればそのまま動きを封じられる。剣士でも十分対処可能だ。
「憑依霊がでたら報告しろ、とりあえず俺は…」
いつも使っている無銘の剣と並べるように腰に携えた魔剣アールヴィを鞘ごと取り外す。
今回はこの剣を試すのも動機としてある。切れ味、精神生命への効果。肉体ではなく精神に重きを置く霊などにその威力が発揮されれば稼働域の損壊ではなく、"切っ先が触れただけ"でも滅ぼしゾンビはそのままモノ言わぬ死体に戻るだろう。
魔剣を手前に持って抜剣し…
「こいつを試す!」
と宣言して、時が止まる。というか、クェードが止まる。
「………」
「……?」ついでに、アムも、そしてゾンビの時間も止まったかのようだった。数秒の沈黙の後。
「抜けねえ…!?」
鞘から抜かれることを剣から拒絶され、面食らうクェード。
「どういうことだ…っくそったれ―――」
毒づきながら、アールヴィを腰に納め、仕方なく今度は元から使っていた剣を引き抜き、動き出したゾンビを切りつけ、ひるんだところを蹴り飛ばす。返り血ならぬ腐肉と体液が鼻につく…消臭の術なんかあったかな、と自分が使えない家庭魔術の伝聞を記憶から探ったりもする。
距離を詰めてくる複数のゾンビを転倒の術で転倒させ、一体は頭を踏み砕き、もう一体は火球で燃やしてトドメを刺す。手が回らなかったゾンビが再び立ち上がろうとするがそれに間に合いさらに蹴り飛ばす。
腐肉を焼いた異臭が漂い不快になったところで、今まで検分目的ですら軽く引き抜けてた"魔剣が抜けなかった理由"を察する。もしかして―――
気づいた様子クェードにつられたのか、危なげもなく自力で数体のゾンビに立ち向かっていたアムもその答えにたどり着いたようで、その言葉を口に出す。
「…腐ってるから?」
ゾンビが腐ってて臭いから、自分の刃に触れさせたくない。そんな魔剣の我が儘を察し。
ふざけんなと魔剣を地面にたたきつけたい衝動をなんとか抑え込んで、その苛立ちをゾンビを蹴ることで解消するクェードであった。




