宿探し
その朝は少々慌しかった。
面倒なことに、というか当然のように治安のため騎士団が事情聴取に宿へと訪れた。チェックアウトは当然その後になることは承知していたが。
通報自体は夜にしていたらしいが、どうやら警備の人員が足りていないらしい。都の中心でない騒ぎに対し、まずはお膝元を固める…王室警備を優先したのだろう。そういえば近く、祭りだかがあるとかで元々人がそちらに割かれていたか。
当然のように顔つきで疑いの目を向けられるもの自分が術士協会所属の伝書士と明かし、その証明をする。協会の証明書や詳細までは書かれていない依頼品の納品書だけでは心許なかったか、爆発事件ということがことだけに協会支部直への確認。それらが終わったのは昼に差し掛かったことだった。
宿はすでにチェックアウトを済ませてある。次の宿を探さなくてはいけないのだが…
「ここもダメですね」
同行者の一人のアムがため息をつく。"襲撃被害に合った厄介な客"の噂が広まるのは早かった。防犯に金をさいていない安宿の類いは無用なトラブル以上の危険性を恐れ、クェード達は門前払いを受ける。こうなると警備の行き届いた高級宿やホテルしか選択肢がないが、結局のところそれらも"厄介な客"を泊めてくれるかは不明瞭だ。
「私の名前を使えばいいのではないでしょうか?」「それはパス」
もう一人の同行者、アリシアが提案してくるが、即断る。彼女は近隣国家の領主令嬢だ。危険に見舞われた彼女の宿泊を断る高級宿はないだろう。警備も増やす対応も期待できる。だが、その宿泊料金は滞在費を一瞬で溶かしかねないし、彼女と、彼女の家名に借りを作るのは極力避けたい。そういう判断に薄々気づいたのか、アリシアが頬を膨らませる。
「でもどうすればいいんでしょう」
アムが不安そうに聞いてくる。今夜もまた襲撃の恐れがある。ターゲットを休ませない、ということもあるが"襲撃者は何も痛手を受けていない"というのが大きい。爆破魔術を投げ込み、竜牙兵を送り込み、自分の正体も掴ませずただ逃げただけ。この状況なら自分なら連続で襲う。疲弊させれば判断力も対応力も鈍る。もっともクェードの疲弊は二回に及ぶアリシアの夜這いが主な原因だったが。
そういえば…とアムが続けて質問を投げかけてくる。
「お師匠様、怪我はもういいんですか?」
「あー…」
言いよどむ。先の試験で負った打撲と捻挫。協会の法術医に軽い治療を受けたとはいえ、その日のうちに添え木や包帯を外し、夜間に大立ち回りをしたのだ。疑問に思っても仕方はない。
「昔からこういう怪我の治りが早くてな」「はぁ」
苦しい言い訳をするが、それに疑問を重ねて聞けず、話はそこで途切れる。これに関しては本当にそうだからどうしようも無い。体質、といっていいかもしれないが自分でもよく分かっていない。切り傷も、打撲も、人より治りが早い。それ以上の説明ができない。クェードの師によれば、魔力による体質変化の類いではないかとは言っていた。稀にあることらしいが、師自体興味が薄くそれ以上の話にはならなかった。毒や致死の怪我を受けた経験はないのでそれらまで防げるかはわからないし、試したくもないが。
「…ま、いちおう、ツテがあるというか、ツテを作れるというか…」
その宿泊先の選択肢を頭に浮かべる。
術士協会に手配を頼む、という手段だ。術士協会は術士の互助組織。術研究の成果によっては命を狙われることもあり、その術士や成果物の保護も当然行われる。ただの配達員である伝書士まで使える制度ではないかもしれないが、事実命を狙われている。術士協会の"互助"という理念からも見込みはあったし、アリシアが領主の名を使おうとしたように、自分もまた、自らの師の名前を使えばその制度を使える目算はある。
これなら先に無実、被害者であると説明しに協会支部に訪れた折にそれも頼めばよかったなと2度手間を面倒に思いながら、歩みをすすめるのであった。




