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襲撃②

魔力の煉瓦ケイオスウォールっ」

 咄嗟に、魔術を使い爆風から身を守る。当然アリシアをかばうように。炸裂した魔術による火球は部屋をその爆風で破壊する。幸い、荷物は爆発物とクェード、アリシアとの射線の背後にあり、多少焦げた程度で済みそうだった。

(こなくそ)

 悪態をついて魔力を練り、呪文を放つ。

消火球ディファイア

 熱を常温まで奪い燃焼現象を防ぐ術。爆風で吹き飛ばされた家具や焼かれた壁紙はともかくこれで延焼は避けられる。火球が投げ込まれた入り口を警戒し、追撃に対応するため表面が焼かれた剣を拾い上げ、構える。が。

「師匠、なにごとですか!?」部屋に飛び込んできたのは襲撃者ではなく、隣の部屋に宿泊していた弟子であった。

「アム? 誰かとすれ違ったか?」「いえ…?」

 どういうことだ。どうやって人目を避け姿を消した?推測を重ねようとしたがその間もなく。

 ごぼっという濁音と共に、地面が黒ずみ、そのシミから人骨が出現する。これは…

竜牙兵スパルトイ…!」

 ドラゴンの牙から魔術で生み出される骸骨の兵士。シミターを片手に、それが6体ほど。部屋に沸き上がり襲いかかってくる。

(やはり、俺を狙っているのか―――)

 推測は確信に変わる。"わざとらしくアンデッドを差し向けてくる"

 骸骨共の攻撃を避け、頭蓋を蹴り飛ばす。アム、アリシアも応戦する。アムは剣で、アリシアは

「不浄よ去れ、聖波ウェイブ!」

 不死者解放ターンアンデッドの高等法術。流石上流階級まで通う術士学校の卒業生だ。そういうものも修得していたか。浄化の光を受け、骸骨の兵士の一体は無力化される。

 しかしクェードとアムが打ち倒した竜牙兵スパルトイは骨を組み直し、修復し、立ち上がってくる。宿の室内、それもアリシアやアムがいる中派手な術は使えない。アリシアの法術は頼れるが負担が多い。今彼女の姿は下着姿だ。無いよりはマシと毛布を掛けてはいるが、動きが制限される。アムは若干気まずそうに見ないようにしているが。それに今は爆音などの恐怖が勝っているのだろうがいつ野次馬が集まり衆目に晒されるかわからない。彼女のためにも早々にケリをつけたい。

「面倒くせえっ」

 骨の一体の足を払い、転倒させ今度は頭蓋を踏み砕く。しかしそれも効果が薄いのか残った部位がカタカタと震え、動きは止まらない。骸骨の兵士の視界がどうなっているのか分からないが、頭を失ったためかこちらを認識出来ずに攻撃は行ってはこない。しかし砕かれた頭蓋骨がゆっくりと動き修復に向かっているのが見える。これもいずれ修復され立ち上がるだろう。

 ならば、と別の骸骨を踏み倒し出口を確保、二人に移動を促す。ついでに自分の荷物も任せる。二人が部屋から出たタイミングで中に向かって呪文を唱える。部屋の弁償は免れないだろうが…

「嵐の息吹 裂風ティアーウィンドッ」

 強風を生み出す魔術で室内の竜牙兵スパルトイを軽い家具ごと吹き飛ばし、さらにその風で叩き空いた窓から外へ追い出す。クェードは窓に駆け寄り宙を舞う骸骨共に向かってさらに呪文を重ねる。

「弾よ追え」

 周囲にぱあんと、鳴り響く様に大きく手を叩き、合わせ。

「炎と共に、敵を滅ぼせ」

 唱えると同時に手を開くと、そこには無数の魔力の火球が現れていた。一発一発が殺傷能力を有する炎の魔術だ。

爆炎球ボム・スレイヤーっ」 

 クェードが詠唱を終え、その手の平を吹き飛ぶ骸骨達に向けると、空を漂っていた火球がそれぞれ意志を持ったかのように動き出し、一発一発、それぞれがことごとく、敵を撃ち漏らさないと考えてるかのように骸骨に当たり爆風を生んでいく。けたたましい爆音が連続し鳴り響き、魔物達は破壊され消し炭になっていく。

「すごいですね…!」

 いつの間にか同じように窓からのぞき込んでいるアム。敵が爆散していく様子を眺めながら感嘆の声を上げる。必要があったとはいえ派手な術は見せたくなかったな。とため息を吐く。魔術に対して余計な憧れを持たせてしまったかもしれない。

 アリシアの方と言えば、いつの間にか肌の露出の少ない寝間着に着替えて側に立っていた。少々不安な顔をしている。

 まぁ当然か。命を狙われたのだ。爆発と、魔物によって。そして未だ推測でしかないが、敵の狙いは…

「…手に余る、だろ。恐らく狙いは俺の命だ。動機も相手もはっきりとはわからないがこういう危険もある。同行を辞めるなら今のうちだ」

 弟子と、自分に婚姻を迫ってくる少女を突き放す。二人は答えない。

 結果的にいいものではないにしろこれで別れられるだろう。そもそも伝書士は本来一人で隠密に行動するべきものだ。自分が堂々と身分を明かすのはそうしないと悪党に見られるのもあった。

 危険が去ったのか、と顔を見せた宿の主人に説明と、部屋の弁償と部屋の変更を済ませる。かなりの出費になるが、致し方ない。迷惑代と今朝出る約束をし、取りあえずは一晩明けるのを待つ。襲撃者は去ったのか、追撃しようにも行方を探る方法もない。警戒を怠らず構えた方が安全だろう。

 二人がどう判断するのかはわからない。戦闘に若干の慣れを感じ、魔術に対する憧れを持ったアムは引き下がらないかもしれないが。

 アリシアは…いや。こうなることは薄々予想してたと、本日二度目の夜這いに来た彼女を正座させ、説教しながら寝不足の朝を迎えるのであった。

術補足

消火球ディファイア

 呪文魔術。熱と酸素を奪い火災の延焼を防ぐ。

聖波ウェイブ

 呪文法術。不死者を安寧(死)に導く光。不浄を正浄に正す際に、不死者は"死ぬ"という。

裂風ティアーウィンド

 呪文魔術。突風を生み出し前に立つものことごとくを吹き飛ばす。

爆炎球ボム・スレイヤー

 呪文魔術。合わせた手の平から生み出される火球一つ一つが敵を追い、爆裂する特に攻撃的な魔術。一度に生み出せる火球は術者の能力に強く依存する。

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