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襲撃

「いやまあ軽い打撲と捻挫だ。心配するな、すぐ直せる」

「しかし…」

 協会の医務室のベッドから起き上がり、心配するアムとアリシアに手をぷらぷらと振り、無事をアピールするクェード。その手足には添え木を固定するために包帯が巻かれていた。法術医にかかればすぐ直るだろう怪我に大げさだと笑い飛ばす。

「それに騒ぎの補償として合格扱いになったしな」

 騒ぎ…試験内容が過激化し、これ以上は死人が出かねないと反省したのか。正式に師弟制度の認可が下り、アムはこれでクェードの弟子となる。もっとも長く弟子として扱うつもりはないが。

「なんなら未熟の責任を取って辞めてもいいんだぞ」

 つい本音が出てしまう。

「いえ、むしろ精進してあんなことが起こらない様に自分の身は自分で守れるようにならないと」

 殊勝なことだな。とクェードはため息を吐く。一方アリシアは

「2度とあんな無茶は辞めてくださいね」

 なんていったりもしてくるのだが、職業上あの程度のトラブルや危険はよくあることだからと返す。

「ならいっそ私の家に入って…」

 あの領主を義父に、家庭に入ってはどうかなんとか理解出来無いことを言い始めるのであった。平民が貴族に婿入り、なんてのもあったりはするのかもしれないが、到底本気にできない。

「まぁ結婚云々はさておいて、伝書士は辞めないし、旅は続けるぞ」

 もっとも次の依頼がいつになるかも分からない。魔術成果物を運ぶのが仕事で、当然それらがなければ仕事もない。そんな現状を語っただけなのだが。

 "結婚はさておいて"の部分に何を期待したのかテンションが上がり気分を高揚させているアリシアを落ちつかせるのに苦労するのであった。ここは医務室…病室だ。静かにしろ。

 

 二人と共に宿に戻り、看病を申し出て聞かない二人を断り、部屋から追いだした後、ベッドに横たわり天井を仰ぐ。時間は既に夕暮れ時。食事はあらかじめ済ませていた。

 あの時"熊を暴走させた何か"に考えを巡らせる。あの巨躯の魔獣が観客の投げた何かに当たり、怒りのまま火を恐れず向かってきた…その違和感の正体。そして目的だ。

 伝書士とその弟子候補に危害を加える理由が、その何者かにあるのだろうか。

 或いは…伝書士ではなく、"クェード・フレアス"にあるのかもしれない。それはある事実を示すものだ。

 そんなことを考えながら、鎮痛の術が解けないうちに眠りにつこうと意識を手放す。


 *


ぎしっ

 安普請の宿。その木の床が歪む音でクェードの眠りは妨げられる。慣れた速度で意識を明るくしていき、警戒を行う。音は、部屋の外の廊下から響いてきた。

(早い。やはりか)

 協会に着き、すぐさま命を狙われたという疑惑がある以上、予想はしていたが。疑いを強くする前からその夜に襲撃をかけるというのは本気の殺意を感じ取れる。

 相手の目星はついているものの、詳細までは分からない。今回の襲撃者には悪いが、相当厳しい拷問をすることになるかもしれないな…そんなことを考え、ベッドから音を立てず離れ、呪文を相手に聞こえないよう唱える。

(光を嫌え 闇衣(ダーククロウズ))

 闇に溶け込み姿を消す術である。夜が深ければ深いほどその効果は高い。襲撃者に一切感知されることなく背後がとれるだろう。

 ドアをゆっくり、先ほどの不意の足音とは異なり音を立てないように開けて入ってきた侵入者を、魔術を解き、背後から羽交い締めにする。

「!?」

 あとの問題は。

 まぁ。その襲撃者…と思っていた。いや襲撃者で間違いない女が。

 クェードが羽交い締め…抱き留めたのがなんだか肌が透けているネグリジェと黒いレースの下着を着て。体の前面を大きな枕で隠しながら顔を赤らめ瞳を潤ませてるアリシアである現実をどう受け止めようか。

 それだけだった。


「夜這いですわー!」

 失敗した上にその上がった気分を誤魔化すためにわざとらしい口調で声を上げるアリシア。

 やかましい、何時だと思ってやがると静止する。

 破廉恥な姿で男の部屋に侵入した領主令嬢を地面に正座させ、自分は椅子に腰掛ける。お互い寝間着のまま。取りあえずアリシアには毛布をかけて体を隠させるが。

 自分の状況、格好にいまさら羞恥心が沸き上がってきたのかより一層顔を赤らめ続けていたが、多少は落ちついたのか話を続ける。

「…いつクェード様の命が失われるか分からない、そういうことですものね」

「それは、まぁ」

 確かに、伝書士といってもその配達先が危険の伴う場所であることも多い。人嫌いな偏屈な術士なんかも多く、また人目を避ける意味で秘境に住むような輩もいて、その場合成果物を受け取り協会まで…という旅の危険度は跳ね上がるし、パトロンのついて予算や蓄えのある術士の依頼はその成果物を狙って賊に襲撃されることもある。

「ですから既成事実なり子供に恵まれたり考えるのは当然ですわ」

 最近の子は進んでるのかなあ…疲労からか、30歳ぐらい歳を取った気分で虚空を見つめる。自分に性欲がないというと嘘になるが。相手は未成年で貴族で領主の娘。その保護者に命だって狙われた。そんな娘に手を出すつもりはないし、そうなった後がとんでもなく面倒くさそうだ。

 この色ボケお嬢様を諦めさせる手段を本格的に考えないといけない。クェードが頭を悩ませていると、それが部屋に飛び込んでくる。

「!!」

 ドアを破って、"炸裂"する。それは確かな"襲撃者"による、爆発魔術であった。

術補足

闇衣(ダーククロウズ)

 呪文魔術。光を遮断し真っ黒な見た目になる。真っ黒すぎて環境光が少しでもあると逆に違和感があったりする。

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