第八話 とつぜんのじっせん
最初の数日は、月軌道上での運用練習。
無重量状態での機体の挙動に慣れる練習なのだが、最初はトラブル多発。
スラスター吹かしすぎて飛び出しすぎたり、慣性を忘れてクラスメイト同士で激突したり。
最悪の状況にはならないようにAIが監視しているし、「鬼教官」の機体ケントリウスCS型指揮官タイプには生徒全員の状況が絶えずモニタリングされており、緊急時には遠隔操縦も可能となっている。
訓練後は、パイロットスーツを着替えた後シャワーを浴びて、艦内重力ブロックにて反省会、マイがぷんぷんしているのは毎度の事。
反省会後は、食堂で食事後、各自が宛がわれた船室へ向かう。
船室は男女別の4人部屋、人数の関係でダイチ達は小隊3人で使う。
「もっとテキパキと動きたいんだけど、どうすればいいんだ?」
シンゴはカンが良いのか、割とうまく動けてはいるのだけれど、思ったとおりにはまだ遠いらしい。
「手足をうまく使って、えーとAMBACだっけ?それ使うのと、内部のモーメンタムホイールやリアクションホイールの挙動を意識すればいいのかも。
でも難しいから、意識することでAIにその辺り学習させた方がいいね。」
ダイチは、自分がなんとなくやっている事をシンゴに説明する。
まあ、ダイチ自身意識してやっていないので、説明は難しいのだけど。
「スラスターに頼りきりでは、無駄が多い上に、推進剤がすぐに切れるから、そこは注意した方が良いな。」カズアキも説明してくれる。
「そう言われて簡単に出来たら、苦労しないよ。いいよな、なんとなくで出来るお前らは。」拗ねちゃうシンゴ
「でもね、搭乗時間が200時間いかないボクらで今くらい出来るなら十分じゃない? まだ実戦に出ろっていう話しじゃないし。」
「ダイチ、きれいに飛んでいるお前がソレ言うなよ。早く強くならなきゃ、いつ何があるか分からないんだし。」
シンゴの言うことももっともなので、夜(艦内時間)遅くまで相談しあう3人であった。
ちなみに第二次大戦中のパイロットでは、飛行時間が300時間でやっとヒヨコから若鶏レベルだとか。
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無重量環境での機動になれてきた頃、セーブル2は木星軌道へとジャンプ(超光速移動)を行った。あわてて行動するのでは無い限り、太陽系内でジャンプをする必要はほとんど無いのだが、ダイチ達小学生にジャンプを体験させるいい機会だということで、行ったのだ。
ジャンプ直前、乗組員は念のために宇宙服着用後、所定の部署で待機となった。
ダイチ達小学生組は、部署が無いのでパイロットスーツ着用で自室待機だった。
カウントダウンが進む中、三人の会話だが..。
「ジャンプ中は服が透けるとか、恐竜が見えるとか、聴かなかった?」
「そんなの古典アニメネタじゃないか、どこから生まれる前のネタひろってくるんだ?」
「いやー、場をなごませようと。」
「お前ら、不真面目にも程があるぞ。」「はい、ごめんなさい。」
誰が何を言ったかは、ご想像にまかせます。
地球・木星間の距離は40光分程度。
光速で移動時に40分かかる距離だけど、ジャンプは光速の10000倍以上、体感時間にして1秒かからずに到着する距離である。
カウントダウン終了と同時に少し艦体がゆれたと思うと、今度はジャンプ終了のアナウンスがなされた。
ダイチ「予想どおり、ほとんど時間かからず到着したんだ。」
シンゴ「じゃあ、さっきのバカ話、オレをからかっていたのか?」
「いやー、古典ネタを仕入れたんだけど、使うタイミングがなかなか無くって。それにこれ、いいんちょの前で言ったら大変なことになりそうだもん。」
笑ってごまかす、ダイチであった。
艦内に安全宣言がなされたので、ダイチは着替えにいくついでに外が見える場所にマイを含めた小隊の皆で行こうと提案し、皆でマイのいる部屋へ向かう。
マイ達女生徒の部屋のある区画の入り口でちょうどマイに出会ったので、着替えた後展望台で集合するよう話す。
「なかなかロマンチックな事言うようになったのね。」まんざら悪いきがしないマイであった。
皆、制服に着替えた後、艦後方の監視室もとい展望台に行くと、月くらいのサイズだが、迫力のある木星が見えた。
太陽系最大の惑星、木星。そのめまぐるしく移り変わるガスの模様と、その周りを回る多くの衛星。
今だ、木星本体の放射線量が多いため、なかなか開発が進んでいないが、近隣のラグランジュ点L4、L5には、資源として活用可能な多くのトロヤ群小惑星があり、また太陽系外周へ向かうのに便利な中継点として利用されている。
今回の訓練場所として用いられているのもL4にある宇宙中継ステーション「ジュピトリス4」である。ただ、宇宙ステーションにもそう空間的に余裕があるわけではないので、航宙艦はステーションとドッキングするだけで、人員は移動しない。
ドッキング後、自由時間の間にステーションに行ってみたダイチ達だったが、船ほど面白い場所があった訳でもなく、すぐに艦内に帰った。
そして、再び始まる宇宙訓練。
今度は少しずつ長距離移動をする練習及び模擬戦闘練習をする。
実体弾系武装はペイント弾、光学系はレーザーライフルの弱装モードで模擬的に戦闘訓練を行うのである。
しばらくステーション近隣で訓練を行った後、トロヤ群小惑星への模擬戦闘フラッグ往復マラソンが行われることになった。
そしてこのマラソンが、後に「トロヤの血」といわれる悲劇の始まりになるとは、誰も知らなかった、いやダイチと、ダイチから話を聴いたマイ以外は。
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試合形式は、模擬戦闘用の武装装備で、小隊単位での移動、時間差をつけて出発後、小隊ごとに設定されたゴール小惑星にあるフラッグを回収し、ステーションに帰るというものである。勝敗は、総時間及び撃墜数・被撃墜数を総合して判断される。
神楽坂小隊のメンバーは、秘匿会話モードで発進前の相談中。
「試合形式上、ダイチをつっこませる戦法は却下。小隊が離れすぎず行動し、確実に被撃墜をされないようにするのが、大事ね。」
マイの意見にダイチも賛成し「うん、この場合はそれが正しいと思うよ。もし小隊単位で突っ込んできたなら、突っ込み返して各個撃破で良いと思うけど。」
「その猪突猛進グセ、いつ直るのよ。」うんざりなマイ。
「オレは、お嬢に従うぞ。」「同じく御意。」二人はいつもどおり。
これが神楽坂小隊の日常なのだった。
そして小隊発進時間となった。小隊の装備だが、マイは通信指揮機能増設型で装備はシールドとレーザーバトルライフル。シンゴは通常型にシールドとレーザーカービン、カズアキはカメラ増設型の機体で装備は小型シールドにスナイパーレーザーライフル。ダイチは通常型に大型シールド、レーザーアサルトライフル、各自作業用のプラズマトーチと接近戦用高周波ソードを持つ。
神楽坂小隊はスタート地点より発進、各機情報リンクを切らさないように等距離を保ち、速度を調整する。
「たぶん、障害物が多いトロヤ群に接近してから仕掛けてくるから、それまでは速度このまま。小惑星群に入り次第、私の指示するルートにランダムブーストして狙撃を防ぐわ。その後も随時、指示出すから聞き逃すんじゃないわよ。」
マイは的確に指示を出す。それを聞きながらダイチは思う。
「まさか、あの「声」、ここでなにかあるんじゃないよね。」
そうならないことを祈りながら、機体を操るダイチ。
そうこうしているうちに、小惑星の密集地帯に接近する。
近くに「鬼軍曹」の白いケントリウス、「お姉さん先生」の宇宙ランチが見える。
「鬼軍曹」からの全員宛通信、「これで全員、小惑星帯に入った。くれぐれも事故をおこさないように、撃墜数を稼げよ。」
はいはい、とダイチが思ったとき、一瞬何か強烈な「悪意」がこっちにくるのを感じた。
そして、「お姉さん先生」達が乗る宇宙ランチが爆散した。




